49 補助
到着してすぐにわかったことだが、二人が連れて来られたのは件の老人達の住処であった。案内役の小人の言うところでは、ここらが一等スペースに余りがあるそうだ。
「通りで空気が暗いわけだ。文字通りの墓場じゃないか」
横穴の一つに押し込まれ、壁際の岩棚で寝っ転がって耳を澄ますが何も聞こえない。洋のいびきだけが妙に響いている。
「おい、いい加減起きろよ。流石に寝すぎだろ。神経擦り減らす役回りは全部こっちだ、この野郎」
礼一は自分が苦労している横で、能天気にグーだのカーだのと言っている友を引っ叩く。
「何だ、痛いな。折角気持ちよく寝てたっていうのに」
野郎、案の定普通に寝ていやがった。
「こんな下まで落ちたのは誰の責任だっての。身の振り方の一つや二つは考えてくれ」
「うわっ、酷い奴。よくも大声でそんなことが言える。人でなし」
「確かに鍛冶が出来なくなった人がいる場所で言うことじゃなかったな。あっ、手前やっぱり狸寝入りしてたな。ここがどういうところか知ってるってことはそういうことだろ」
「人聞きの悪い。睡眠学習と耳学問のコラボレーションだ」
「屁理屈にも程があるだろ。おい、ちょっと静かにしてくれ」
丁々発止の応酬の最中、洞窟に木霊す異音を聞きつけ、礼一は黙るように指図する。音は徐々にこちらに近づいてきて、二人のいる穴蔵へ何者かがズズっと入ってきた。
「ひっ、南無阿弥陀、南無妙法蓮華経、祓いたまえ清め給え、アーメン」
幽霊みたいな奴がどこぞの某映画まんまに画面から這い出るスタイルで移動してきたのだ。地面に着く程に白髪を垂らした様はどう考えても人を呪殺せんとする構え。今こそ最後の神頼みということで礼一は節操なしに方々へ助けを求める。
こうして決死の思いでぶつぶつと多種多様なおまじないを唱える彼の姿に幽霊だか化け物だかわからない何かは動きを止める。これは効果あったかと密かに手を叩く礼一であったが、世の中そう都合よく出来ちゃいない。おまじないがただの喚き声だと察した何者かは再び前進を始める。
「待って待って待って、ストップストップ。おい何とかしてくれ。後は頼んだ」
さっきサボっていた分は働いてくれとばかりに礼一は洋の背後に飛び込んで彼を盾にする。
「こんにちは」
「ごんにぢば」
「ここに住んでいる人ですか?」
「んだだ」
「ここのことを教えてほしい」
「わがっだだ」
普通に話ができるなら最初からそうしてくれよ。極めて自然に洋とコミュニケーションを取り始めたお化けに礼一は頭を振る。その後、会話を続ける内に幽霊に見えた長い髪やらはただ伸びるに任せた白髪で、這いずってきたのもただ足が悪いだけであることがわかった。
「先に言ってくれればよかったのに、何でわざわざあんな不気味な登場したんですか」
気が抜けた反動で態度が横柄になり、礼一は愚痴を言う。しかし一声かけなかったのはさておき、足が不自由な人に対して不気味な登場とは失礼千万だ。
さて、件の白髪の人についてであるが、髪の色からお察しの通り礼一達の歳を軽く二回りはする年齢で、凡そ一年ばかし前まで鍛冶をやっていたらしい。だが、足と目とが歳もあって駄目になり、今ではこの陰気臭い洞窟の住人となってしまっている。
「づぢがぶれんならじようがないだだ」
そう繰り返す彼のここでの生活は食って寝る以外、金床と向かい合っていた頃を思い出すっきりになのだそう。お陰で逞しかった身体は見る影もなくスリムになってしまった。洞穴に入って来た時に幽霊に見えた一因でもあるダボダボの服はがっしりしていた昔のサイズに合わせたものなんだとか。何とも切ない話である。
他にやることはないのかと差し出がましく訊いてみたりもしたが、そもそも何かをすることを求められないのだという。
話を聞いているだけでもやるせない気分になり、礼一は無言で足元の土を引っかく。
「じゃあ今は暇ってことか。なら探検するのを手伝ってほしい」
一寸気まずい雰囲気の中で、毎度空気を読まない野郎が唐突に提案する。
「いや暇って、見た目にやることはなくても個人的に大切な時間を過ごしたりもするだろ。わざわざ引っ張り出すようなことしなくても」
「道わからないし」
「だとしても足の悪い人を付き合わせるのは厳しいだろ」
「支えればいい」
「いげるででいじょぶだだ」
諦めさせようとする礼一と無理を通そうとする洋は軽く言い合いを始め、見かねた老人が行けると言い出し決着が着いた。こうして探索に出発することが決まったのだが、
「やっぱ大変じゃないか」
縦幅も横幅も狭い穴の中で両側からヨボヨボの爺さんを補助するのは色々キツい。礼一達は二人とも力も忍耐も強くないので、10分を過ぎた辺りでたちまち限界を迎えてヘタリ込む。
意外なことだが、枯れ枝のような年寄りの身体でもそこそこ重いのだ。どんなに生きる気力が霞んでいようとも、肩にのしかかる重みと微かに感じる体温とからこの老人が今現在生きていることがわかる。
肌に油分が無くなると簡単に皮膚が傷つくことを思い出した礼一は、魔力による身体強化を止め、生身の状態でなるたけ慎重に扱おうと心がけてはみたが、彼自身にそこまでの余裕がなかった。
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