48 追憶
「ぞうがげんぎだだえがっだ、えがっだあんごばむがじがら...」
間を繋ぐために話しの種の産みの苦しみを味わおうとした瞬間、あっちから頼んでもないのに回想を始めた。何でもバルバロは幼い頃から周囲の同年代の子供に比べて肉付きが悪く、一人浮いた存在だったそうな。
「わじらのじごどはがじ。ほぞぐでばどでも...」
鍛冶はがっしりした身体がなくては無理とのことだ。礼一からすると鍛冶師だからと言ってここまでの筋肥大は必要なく思ったが、ここではそうらしい。
とまれ首領も最初こそ彼を人並みの体型にしようとあれこれ手を尽くしたそうだ。しかし、母胎から出た時点で腕にこぶが出来ているようなこの地底の人間からすると、どのように腕や足を太くすればいいのかわからなかった。そうして手をこまねいている内に息子は順調に歳を重ね、月日を追うごとに周囲との差は顕著になっていった。
そして小人達は、彼の居所をここではない馴染みやすい環境に移すべきという結論に至った。バルバロが齢十にも達しない時の話だが、それから彼はずっと軍にいる。
「ごごでばいぎにぐがっだだ。いづづげでもみじめだだ」
首領の話ではここでは槌を振るえてなんぼなのだという。加齢や怪我で鍛冶ができなくなったものは見捨てられる訳ではないが、矢張り周りの見る目は哀れみに変わる。そんな場所に息子を置いておくのは不憫でしかない。そういう経緯の基、バルバロは山の外で一番手近、且つ普段からの取引で顔の知れている軍へと入隊することになったそう。
「はぁ、そんなことがあったんですね。でもそうすると老人や女の人はどうやって暮らしているのですか?バルバロさんほどではないと思いますが、生きにくかったりしませんか?」
よそ様の事情に下手に首を突っ込むものではないので相槌を打つのに留めつつも、礼一は純粋に疑問に感じて問う。もう彼の頭の中では、女人禁制だとかの理由で鍛冶場から遠ざけられる女性の姿が出来上がっており、さぞかし大変な毎日だろうと同情さえ芽生えている。
「おなごばおなごでじごどがあるだだ。づぢをぶりあげでばっがでぜいがづはでげねえ。げんどどじよりばな....」
意外にもそこら辺はしっかりしており、差別というよりは男女が共にお互いが出来る仕事をして暮らしているらしい。しかし年寄りのことに話題が移った途端、首領の顔が暗い中でもわかるぐらいに曇る。
曰く、存在意義がなくなった者たちは、痩せさらばえてすぐに死んでいってしまうらしい。それまであった年長者としての威厳も何も一瞬にして消えて行ってしまうので、結果的に鍛冶師の寿命イコール人としての寿命となる。そのためここには老人と呼ばれる歳の人があまりいない。
「怖くないんですか。あなただってその例に漏れず、ちょっとした事故で腕に怪我をしたり、目が見えなくなっただけですぐ死ぬかもしれないんですよ。そんな人生は嫌じゃないんですか?」
「ぞいがわじらがいぎがだだだ。がなどごばだだげんだら、いぎででもじがだねだだ」
首領が当然というように語る人生観は礼一にとっては悲惨な生涯にしか思えなかった。しかし同時にバルバロさんが最終的にここを出る決断をした理由がわかった気がした。ここにいる鍛冶をする人々とは根本的に相容れなかったのだろう。
何だか想像以上に考えさせられる内容のあった首領との対話はこうして終了し、礼一達はまた別の場所へと連れていかれる。案内をする小人に従って穴道を歩いていくのだが、段々と周りから人気が消え、陰気な雰囲気が漂うようになってくる。
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