21話-俺は成長していない-
子供の頃から変わらない。
何か困ったことがあるといつも親父の研究室へと駆け込んだ。
「これからどうしようか」
何の力も持たない雫がいの一番に口を開いた。
「アレを取りに行くか」
タバコを咥えたまま親父は頭を掻いている。
その顔には、ご先祖に頼ることを不満に思っていることがありありと浮かんでいる。
二人の話に乗る前にすることがあった。
白藤だ。
白藤は二本の刀を胸に抱き、顔を俯かせている。
謝って済む問題じゃない。確か白藤にとってお爺さんは唯一の肉親だったはずだ。
「白藤、気が済むまで殴ってくれ」
殴って、吐露して、そして感情を爆発させてほしい。
きっと俺があの時、したかったことだ。
でもあの時は責めるべき個人がいなかった。だから俺は飲み込んだ。
その結果が鬱屈した俺を生んだんだと思う。白藤に、お爺さんの孫にそんな風になってほしくなかった。
白藤は少しだけ顔を上げたが、そこに生気は見られない。
だけどそれも一瞬で、白藤は微笑んだ。
「勝手にお爺ちゃんを殺さないでよ」
そのまま静かにそう言った。
「間違いない。ごめんね」
「うん、許す。こっちもごめんね、暗い顔しちゃってて。ちょっと考え事しててさ」
こんな状況で笑えなどという奴がいたら殴ってやる。そう思えたけど、的外れもいいところだ。
「大地はさ、なんなの?」
「ヴィランじゃないよ」
まっさきに告げるべきところだった。
「知ってる。昔言ってたじゃない、この世界の人、現界人だって。でも学園の誰よりも強いじゃない? 前から不思議だな~とは思ってたけど、そんな現界人がいてもいっかくらいで済ませてた」
その大らかさに俺は救われた。嫉妬ややっかみの視線は白藤が俺に構ってくれるおかげで、別種の嫉妬ややっかみの視線に変わってくれたんだ。
「神衣憑依だっけ? 変身みたいなの。それに凝着、その上さっきのあれ。何かさ、ま、いっかだけじゃ流せなくなって来てさ、えとね、大地時々見えない何かを見ているような時があったの知ってる?」
「自覚はなかったかな」
「やっぱり? で、それでね、何か複雑な事情があるんだろうなって思ってて、訊かないでいてあげよう、そう思ってたんだけど……」
自惚れかもしれない。だけど、自惚れだと決めつけることだっていいことじゃないはずだ。
たぶん、俺は俺が思っている以上に白藤からの好意に救われているし、白藤は俺のことを想像以上に好きでいてくれているのだろう。
「何から話せばいいかな」
一瞬見た雫は親父と話をしていた。
『私と結婚したいならおじさんよりもカッコいいって思わせてくれてからかなあ』
そんな風に言われたことを思い出した。




