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プヲタJKとアラサー俺、プロレス部をつくる  作者: 遊星


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5話 JKW、始動!

生徒会室へ急ぎながら、瀬尾さんの言葉を反芻する。

『規則の規則1:規則は誰かに都合がいいように作られている』

なるほど、部活動規則は学校や生徒会が部活を管理するのに都合がいいように作られている。



三度、生徒会室の重厚な観音扉を開ける。すでに市川美依希が一本の線のように立っていた。よし。


「中嶌会長、何かありましたか」


と白々しく尋ねる。


「市川さんから、クラブ紹介での負傷は自分の過失もあり、初期対応も適切だったので処分を軽減してほしいとの申し出を受けました。

が、生徒会としてはそのような事由での軽減は前例がなく、承服できかねます」


「中嶌会長、昨日たまたま議事録を見ていたら、3年前県大会を控えたバレーボール部での体罰事件で、被害者の過失による事情を酌んで活動停止期間が2日間短縮された事例がありました。今回と同じじゃないですか?」


議事録のコピーを机に置く。

中嶌が無表情で目を通す。


「……すみません私が不勉強でした。活動停止期間を1日短縮します」


『規則の規則4:破られた規則は破られ続けなくてはいけない』

よし、まずひとつだ。


「今から活動再開可能ですね。

ではさっそく」


と部員名簿を美依希に渡す。

小さく頷きサラサラと自分の名を書くと、小鞠に渡す。


「負けたままじゃ終われないですからね」


小鞠が笑顔で応える。

と、名簿に目を落とした小鞠が頓狂な声をあげる。


「センセ、市川さんの上にもうひとり書いてあるけど?」


中嶌が名簿をひったくる。


1-F 桂木小鞠

2-B 橋本優羽

1-A 市川美依希


の3名の名がある。


「……昨日までは勧誘も含めた部活動が禁止のはずですが」


「ええもちろん。ただ昨日は市川さんのお見舞いにはいきましたが」


「アタシは活動停止前の20日に書いたわよ。2人のエキシビションにそりゃ〜もう感動してね。見てないけど」


いつの間にか、壁際に優羽が立っている。なんでこいつ気配消せるんだ。


まあとにかく

規則の規則2:規則には穴がある、だ。


「でも創部にはあと1人足りません。あと1時間で勧誘してきてサインさせるつもりですか」


「ええ、そのつもりです」


俺はそう答えると中嶌会長の小さな体を右肩に担ぎ上げた。


「よし、じゃあ行くぞ!今日の部活動は校外学習だ!」


「こら!やめて!降ろしなさい!」


「え?え?センセ?どこ行くの?

……あ、抱っこいいなぁ」


「いいんですかね、本当に……」


「ふふ、今日は遠足ね」



俺の愛車、20年落ちのマーチのロックを開ける。


「優羽はデカいから助手席、中嶌会長は逃げないように真ん中で挟むか」


「それにしてもクサリュウ、車ボロすぎない?」


「尊敬するクソ野郎から5万で買ったクルマだからな、まあ我慢してくれ」


「草野先生!これは立派な誘拐ですよ!どこへ連れて行く気ですか!」


「中嶌すみれ会長、狭い車内ですがどうぞお寛ぎください。当機はこれよりバトルゲートプロレスリング試合会場、とどろきアリーナに参ります」


とどろきアリーナと聞いて中嶌の身体が固まり声を絞り出す。

「アンタ、なんで……」


アリーナに着く。

大会はすでに始まっているようだ。

大盛況のようで『当日券完売』の張り紙がしてある。

ロビーには忙しいピークを終えた受付スタッフと遅れて入るファンがちらほら居るだけだ。


さあ、決めただろ。「できることは何でもやる」って。プライドも拘りも要らないだろ。


この子たちのためか?

プロレスのためか?

自分のためか?

分からないけど、前に進むんだろ。

小鞠が灯してくれた火で足元を照らして。

行くんだよ、草野龍哉。


生徒たちを待たせ、受付の前に立つ。

鼻からめいっぱい息を吸い、胸郭を広げる。

2度と言うまい、関わるまいと決めていた単語を並べる。


「お世話になります。西東京プロレスで瀬尾さんに世話になっていた草野龍哉です。今日はご挨拶と勉強させていただきにお邪魔しました。立ち見でけっこうですので見学させていただけますでしょうか。」


受付スタッフがインカムでどこかに確認を取っている。少しして


「1階立見でしたらご用意できるそうです、どうぞ」


生徒を呼び受付を通る。


「草野センセ、顔パスじゃん!スゴい!」

小鞠は無邪気に喜んでいる。


「クサリュウ、泣きそうな顔してんじゃないわよ。シャンとしなさいよ」

と優羽に小突かれる。



アリーナに入ると大音量の音楽と乱舞する照明が飛び込んでくる。


マスクウーマン、ライトニングガールの入場。俺も知っている、小柄だが空中殺法が売りのいい選手だ。

コーナーポスト上でポーズを取ると、スパンコールとラインストーンがふんだんにあしらわれたガウンに照明が乱反射する。ガウンを脱ぎ捨て、対戦相手に振り返り不敵な笑みを浮かべる。


「綺麗……」


「かっこいい……」


4人ともそれぞれに、リング上にくぎ付けになっている。


対戦相手の宇野彩夏が入場。対照的にがっしりした体格のパワーファイターだ。

テーマ曲が止み、序盤のじっくりしたレスリングの攻防。観客は、そして4人も固唾を飲んで見守っている。

俺はリングの方を向いたまま口を開いたを


「中嶌さん、ごめん。少し調べさせてもらった」


「小さい頃から新体操を頑張ってたんだよね。でもお父さんが亡くなって経済的な事情で続けられなくなって、このアリーナで開かれる大きな大会に出られなかったんだよね。」


中嶌もリングの方を向いたまま耳を傾けている。


「だから小鞠がこのアリーナの名前を出した時、あんなに怒ったんだよね」


「正直打算もあるよ。部を続けたいって。でも中嶌さんの小さな頃からの夢の続きに、俺たちとプロレスが絶対連れていけると思ってるんだ」


「あらためて言う、俺たち4人とプロレスをやらないか」


リング上では、ライトニングガールがコルバタでリング外に落とした相手に向かってバク宙でフェイントをかけ艶めかしく挑発している。

中嶌はなにも言わず、眩しそうにただそれを見ている。


「人のこと勝手に調べ上げて、誘拐まがいに連れてきて、草野先生は本当にずるい人ですね」


言いながらポケットから部員名簿を取り出し、サインしまたポケットに収める。


「受理しました」


小鞠の丸い瞳からボロボロ涙が溢れ、俺の肩で震えている。一瞬抱き寄せようとして止め、頭をひと撫でしてやる。

優羽が俺の足を軽く踏んでニヤリと笑いかける。

美依希は泣き顔を見せまいと顔を伏せている。



規則の規則3:規則を作った側は規則を破れない。


これは生徒会や部活動の規則じゃない。

中嶌すみれが新体操に触れた幼子の時に、彼女の中に規則が出来てしまったんだ。


『夢を、憧れを絶対に諦めない』


という規則だ。その規則は、何年経っても消えないし破れない。


俺も同じだ。夢は一種の呪いで宿命だ。魅入られたら死ぬまで取り憑いて離れない。



「さあ、遅くなってもいけない。

帰ろうか」


ライトニングガールの試合が終わったところでロビーに出ると、小鞠が出しぬけに大声を出した。


「あ、グレート瀬尾だ!」


おそらくスポンサーだろう、初老の男性と話していた瀬尾さんがその声にこちらを見る。俺と目が合い近づいてくる。


「草野か」


俺の身体を上から下まで見回す。


「細くなったな」


「……まあ試合楽しんでいってくれ」


立ち去ろうとする瀬尾さん。

何か言わなければ、という思いに駆られる。


「瀬尾さん!俺こいつらと団体を旗揚げしました。このアリーナ埋めるくらい、瀬尾さんの所と張り合えるくらいの団体にしますんで!」


「あぁ、すまん忙しいんで、じゃあな」


そうか、瀬尾さんは俺にもう『関心が無い』のか。愛憎も悔恨も侮蔑すら向けられなかった。


でも今は考えるのはよそう。

いよいよこの子たちとの日々が始まる。考えることはいっぱいあるじゃないか。


「グレート瀬尾、すごい迫力だったね」


「ああ、そうだな」



学校へ向けて車を走らせる。


「とにかく、JKW本格始動だな。皆よろしく」


「センセ、本格始動の前にひとつ言っときたいんだけど」


「何だ」


「生徒会室でスミレちゃんをガン詰めしてたの、あーゆうの怖いから止めてね」


え?


「桂木さん、私上級生なんでスミレちゃんはどうかと思うんだけど」


「だってスミレちゃんちっちゃくてかわいいし……」


「確かに、あの話し方はかなり陰湿でしたね」


え?


「クサリュウの名探偵気取りのドヤ顔がまた寒かったわよね」


え?


「わかるー!」


忘れていた。

こいつら女子高生だった。



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