第8話 夕食の席、白銀の記録
黒と銀の食堂。キャンドルの炎が揺れる中、食事が一巡した頃、ダークシアがグラスを静かに置いた。
「リリアーナ。せっかくの機会です。アリアとセリスに、あなたのことを少し話してあげては?」
リリアーナ・ヴァル・セラフィムは優雅にワインを傾け、紫灰色の瞳を細めた。
「いいわ。ダークシア、あなたが説明してちょうだい。優雅にね」
ダークシアは小さく頷き、テーブルの上に小さなホログラム・プロジェクターを置いた。
淡い青光が広がり、リリアーナの立体映像とデータが浮かび上がる。
「では、簡潔に。
こちらが現在、戦乙女序列第1位。
白銀の頂乙女、リリアーナ・ヴァル・セラフィム大聖女将の実績よ」
アリアとセリスが同時に身を乗り出した。ダークシアの声は冷たく、しかし誇らしげに響いた。
「エイドロン殲滅数 487体。
うち中級個体148体、上級個体3体を単独または指揮下で撃破。
特に『絶望の王』討伐は戦乙女史上最速記録として残っているわ。
作戦時間はわずか47分、味方の損害ゼロ」
セリスが息を呑んだ。
「47分で……上級個体を?」
「ええ。しかも単独に近い形で」
ダークシアはデータを次々に切り替えた。
「能力面では極めて完成度が高い。
白銀聖裁
広域光属性フィールド。
半径300m以内のエイドロンの赤核を強制的に露出させ、弱体化させる。複数同時相手でも効果を発揮する最高位浄化魔法。
白影
アリア、あなたの神速を凌駕する機動能力。
しかも残像を操り、多方向同時攻撃が可能。
持続性と精密制御で現時点では上位と評価されている。
絶対命運
先読み能力の極致。
ルシアの神託を直接深く受信し、戦闘中に複数の『未来』を視て最善を選択できる。
神託同調率はS+……戦乙女史上でも極めて稀」
アリアは無意識に自分の手を見つめた。
自分の「先読み」と「神速」が、すでにこの女性の領域に近づいていると言われている事実に、複雑な感情が湧いた。
ダークシアは続けた。
「加えて、過去5年間で関与した凍結執行は39名。
そのうち元戦乙女が12名。
彼女が指揮する作戦における戦乙女の戦死者は過去3年でわずか2名……『損耗ゼロの完勝』を徹底的に追求するスタイルよ」
リリアーナが静かに微笑んだ。
「褒めすぎよ、ダークシア。
ただ、私はルシアの意志を最も正確に実行しているだけ。
使命に疑問を抱き、迷い、力を出し切れない者は……結局、仲間を死なせるか、自分が凍結されるかのどちらかよ」
彼女の視線がアリアに真っ直ぐ向けられた。
「アリア・ルミナリス。
あなたは神速と先読みを併せ持つ稀有な才能。
もしその才能は上級戦乙女にも匹敵する才能。
アリアが私の側近で戦う日も近いかもしれませんね。」
食堂の空気が一瞬で凍りついた。
セリスがアリアの袖をそっと握った。
ダークシアは無言でワインを注ぎ足し、複雑な表情を浮かべている。アリアは赤い瞳を伏せずに、リリアーナの紫灰色の瞳を真正面から見つめ返した。
「……頂点に立つ人が、それだけの実績を残しているのは理解しました。
でも、487体のエイドロンを倒し、39人を凍結させて……本当にそれで『救われた』と言える人は、どれだけいるのでしょうか?」
リリアーナの笑みがわずかに深くなった。
「面白い子。
期待しているわ、アリア。
来週の共同作戦で、あなたがどれだけ『使命』に近づけるか……楽しみね」
キャンドルの炎が揺れ、ホログラムに映る白銀の乙女は冷たく輝き続けていた。




