じぃじの夜更かし
【本編】
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シキ◇サイというアプリの噂が一般化するより少し前くらいのお話。
じぃじにも悩みはあるようです。
「ふぅむ、なんだろうなこれは」
モニターに顔を突き合わせて悩むじぃじ。
「どうしたんですか、そんなに難しい顔して」
「いやぁ、なかなかの難物だよこれ」
「あなたが老人ぶるのを忘れるくらいってことは、確かに相当みたいですねぇ」
「いやいやいや。そんなまさか、忘れてた訳ないじゃないか……じゃよ。……おや?」
「はいはい。で、何を悩んでたんですか?また無茶な依頼でも安請け合いしたとか、どうせそんなところでしょうけど」
「そんな風に思われとったんかワシ。いや、今回は仕事じゃなくてじゃな」
「へぇ、仕事以外でモニター見たくないっていつも言ってるあなたが、どんな風の吹き回しです?」
「ほれ、あれじゃ。シキサイとかいう妙ちきりんなやつ」
「あぁ、あの。……眉唾でしょう?」
「それならそれでええんじゃがの。どんな理屈で動いてるかだけでも覗いてみようかと思ってのぅ」
「また訳の分からないことを」
「悪ふざけの類なら破綻なり改竄なりして噂ごと消し去ってやろうかと思ったんじゃが」
「ほどほどにしてくださいな。……それで、どうして悩むことに?結局分からなかったんですか?」
「ワシに解析出来ないもんなんかそうそうあるもんかい」
「はいはい」
「……なんと説明したもんかのぅ。あべこべというか、辻褄が合わんというか」
「言語化苦手ですものね」
「ぐぅ。……いや、作り自体は簡単なんじゃよ。単純に色の数値化というだけで。いやまぁそれもカメラの性能も撮影環境もガン無視して均一な結果を出すとか気色悪い挙動してる訳じゃが」
「はぁ」
「で、プロテクトもザルなもんでパラメータも好き勝手弄れるんじゃがなー。やたらとミラーサーバーがあるわ、ミラー同士が相互補完して起動ごとに自己修復するだとか、訳分からん芸当しよってからに。こんなもんどうにかしようとしたところで、太平洋をもんじゃベラで枯らそうとするようなもんじゃわ」
「あらあら」
「しかもシキサイ自体にはどれほどの価値があるもんでもないときた。噂で悪目立ちしなければ誰も見向きもしなかったじゃろうに、一円玉を核シェルターで守るような真似をしよる」
「それはまぁ、随分と割に合わないことをしているようですねぇ」
「ほんとにのぅ。寿命がどうとかの噂との因果関係もさっぱりじゃし」
「…………あんな悪質な冗談、さっさとなくなってほしいものですけど」
「そうじゃのう。寿命なんぞ、知らんでもそのうちお迎えは来るんじゃし」
「私らはいいんですよ。沙織や優鷹さん、なにより彩の歳で寿命なんて知って、いいことなんてありゃしないじゃないですか」
「……全くじゃのー」
(彩とワシの色がほとんど変わらなかったってことは、寿命もそう変わらんということじゃよなぁ。伊達や酔狂じゃなかったとしたら、さて、誰がどう反応するか。
まず間違いなく、沙織は取り乱すわな。さすがに優鷹くんまで一緒に取り乱したりはしないじゃろうが、宥めることは出来ても、憎まれ役を任せるには力不足かのー。ま、そこはジジイの役割だとして。
読めないのは彩とばぁさんか。彩は皆で宥めるとして、ばぁさんに沙織と一緒になって取り乱されたら堪らん。やっぱり先んじて腹をくくってもらうしかないか……?)
「また難しい顔して。……あぁもう、変な話してたせいでお茶が冷めちゃったじゃないですか。淹れ直してこないと」
「お前のお茶は冷めてもうまいからそれでええよ」
「そうですか?私は身体が冷えるので淹れ直しますが」
「じゃあ、これはこれ、それはそれで」
「なら、私の分も飲んじゃってくださいな」
「あぁ、いただくから置いといておくれ」
「はいどうぞ。いい歳なんだから、あんまり根を詰めないようにしてくださいよ」
「うむ、承知した」
「全く、返事だけはいいんだからこの人は」
台所へ向かう足音が聞こえなくなったのを確かめて、溜め息。
(…………泣く顔なんぞ見たくないんじゃがのぅ…………困った)
もんじゃもんじゃ。
じぃじのダジャレに気付いたのは手直し終えての読み返し時点でした。




