プロローグ
この世界には、産声を上げた瞬間に決定づけられる絶対的な理がある。
それは己の内に『魔法』を宿しているか否かだ。
かつてその違いは人生そのものを残酷なまでに分かつものだった。
魔法を宿して生まれた者は、神に愛された“選ばれた存在”
持たずに生まれた者は"ただの凡人"
どれほど足掻こうとも、空を飛ぶことも、指先から炎を生み出すことも、傷を癒やすこともできない。
無力な者たちはただ頭上を往く魔法使いたちの背中を這いつくばって見上げることしか許されなかった。
少なくとも、ほんの少し昔までは____
だが今の時代は事情が違う。
魔法を持たずに生まれた者でも、等しく奇跡に触れられる術が生まれたからだ。
魔導具【スペルギア】
一見すればどこにでもありそうな、小さな機械仕掛けの道具。だけどその奥底で密かに真紅の光を瞬かせるその歯車が回り始めた瞬間、誰であろうと魔法使いと同等の力を振るうことができるようになった。
それは持たざる者たちにとっての希望であり、世界を隔てていた絶対的な身分の壁を崩し去る革命だった。
だがこの革新的な道具には、ひとつだけ例外がある。
生まれつき魔法を持つ『選ばれた存在』だけは、絶対にこの道具を起動できないのだ。
なぜ魔法使いには使えないのか。
こんな昔話が伝えられている。
『このスペルギアを創り上げたのは、魔法を持たずに生まれた名もなき人間だった。そして彼は、魔法使いたちから筆舌に尽くしがたい迫害を受けていた』のだと。
だからこそこの道具の根底には深い呪いが刻み込まれている。
己を虐げた生まれながらの魔法使いたちには決してこの奇跡に触れさせないという持たざる者の執念が。
人々は皆その悲しい昔話を信じて疑わない。
それが何者かの手によって都合よく記憶から消し去られ、すり替えられた『偽りの歴史』であるとも知らずに。
本当の優しい真実が呪いという名で塗りつぶされているのだ。
それでも、一つだけ確かな事実がある。
今の世界において魔法を持たずに生まれることは、決して『弱さ』と同義ではないということだ。
魔法使いと魔装士
二つの力が拮抗する、新たな時代。
そして今日もまた一人。
魔法を持たず、あろうことかスペルギアの恩恵すら受けられない一人の少年が、塗り潰された真実を暴き、世界の常識を根底から覆す物語を始めようとしていた。




