第35話 おもちちゃんの決意
昼休みになると、弁当を持った稲見がおもちの教室に来た。
「おもちちゃ~ん!一緒に食べよ~?」
近くにいた男子生徒が、稲見に反応する。
「善哉ならさっき出て行ったぞ」
「そうなの?どこに行ったんだろう……」
その頃。おもちは食堂の食券機で発券していた。
(お弁当家に忘れちゃった……)
本当は稲見に連絡してから行きたかったが、稲見のクラスはまだ授業中で、食堂はすぐに席が埋まるため伝えられなかった。
列に並び、順番がやって来ると食堂のおばさんに渡す。
「お願いします」
「あら?かつ丼に超特大ビッグビッグパフェ……あんたもかい?」
「えっ?」
「若い子はすごいねぇ……すぐ作るから待っててね」
他にも頼んだ人がいるのだろうか?
「はいよ。かつ丼と超特大ビッグビッグパフェね」
「ありがとうございます」
料理が載せられたお盆を持って辺りを見渡す。
(埋まってる……授業終わるの待ってたから仕方ないか……)
席が空くまで待っていようとしていたら、おもちちゃ~ん!と呼ぶ声が聞こえた。
声がした方を向くと穂乃花と優が座っていた。
「ここの席空いてるよ!」
「……!雪宮先輩……」
二人がいる席へ移動する。
「いいんですか?ご一緒しても……」
「もちろん!いいよね優?」
「あぁ」
「……ありがとうございます」
おもちがお盆を置くと、それを見た優の表情が固まる。
「……マジか」
「どうしたの優?」
「穂乃花と同じだと思って」
「本当だ!おもちちゃんも同じものを頼んだんだ!」
おもちのお盆にもかつ丼と超特大ビッグビッグパフェが載っていた。
(同じって雪宮先輩のことだったんだ……)
「おもちちゃんもいっぱい食べるんだね」
「恥ずかしいですけど……」
「そんなことないよ!いっぱい食べるのって幸せなことなんだよ?」
「穂乃花は食べるの好きだからな」
「うん!大好き!」
穂乃花がかつをバクッと頬張る。
「えっ⁉一口⁉」
「美味しい~!」
「贅沢な食べ方するな~穂乃花は」
「あの……お二人に相談があるんですけど……」
「あに?(何?)」
「食べながら喋るな」
優がツッコむと、穂乃花はゴクリと飲みこんだ。
「私……彼氏ができたんですけど……」
「そうなんだ!おめでとう!」
「おめでとう」
「ありがとうございます……でも恋人になってからそれを意識するようになって……緊張してしまうんです……どうすればお二人のように話せるようになりますか?」
二人が顔を見合わせる。
「そう言われてもなぁ……」
「うちら幼馴染だしね」
「そうなんですか?」
「うん。優はずっとうちのことが好きだったんだけど、うちは今のおもちちゃんぐらいの時に好きになったから」
「穂乃花は昔から鈍感だったんだよな~。俺のアピール効かないし」
「優は緊張した?うちと恋人になって」
「いや?逆に嬉しかったから緊張はしなかったな」
「うちも同じかな?」
穂乃花がおもちの目を見る。
「おもちちゃんは彼氏さんのこと好き?」
「す……好きです……」
おもちの頬が赤い。
「アハハ。恥ずかしかったかな?でも長く一緒に過ごせば自信満々に言える日は来るよ」
「そう……ですかね?」
「それに恥ずかしいって感じているなら、今の気持ちが本当なんだなって思うよ。これから彼氏さんとどんなことをしたい?」
「……」
思い浮かべる。大翔とどんなことをしたいのか。
「私は……いつも通り一緒にお弁当食べて……一緒に勉強して……今まで通りの学校生活を送りたい……」
あの時に出会ってから大翔と過ごすことは楽しかった。
ご飯も、勉強も、家に泊めてくれた時も。
「でもそれだと友達と変わらない……大翔君と念願だった恋人になれたから……手を繋いでデートしたいし……キ、キスだって……」
欲望を言う度におもちの顔が赤くなる。
「恥ずかしいです……」
「最初は誰だってそうだよ。自分の心の中にあった『特別』を言葉にするのは、裸の心を見せるみたいで勇気がいることだもんね」
少し間を置いて、穂乃花は語りかけるように続ける。
「でもね、おもちちゃん。さっき言ったいつも通りの日常を大切にしたいっていう気持ち、実はすごく素敵なことなんだよ。
背伸びしたデートやキスだけが恋人じゃない。今までと同じ景色があるだけで昨日よりちょっと輝いて見える……それが、恋人になれた一番の特権なんだから」
おもちは、膝の上で握りしめていた手に少し力を込める。
「だから、まずはその今まで通りを楽しんで。手を繋ぐタイミングなんて、きっと風が吹くみたいに自然にやってくるよ」
穂乃花は時計を見ると、立ち上がる。
「次に会うときは恥ずかしさ半分、のろけ話半分で聞かせてくれるのを楽しみにしてるね?」
穂乃花がお盆を持って、返却口に向かおうとする。
「次の授業、体育だから行くね!またね!」
穂乃花が早歩きで去る。
「俺もさ……穂乃花と恋人になった時……なんていうか特別に感じられたんだよな。それが穂乃花の言う輝いて見えるじゃないかな?」
「輝いて……見える……」
「まぁ穂乃花の言ったことはおもちちゃんが聞きたかったこととずれてるかもしれないけどさ。要するにそんなに身構えなくても大丈夫なんだよ。
恋人になったからって今までの関係性が大きく変わるわけじゃないからさ」
優もお盆を持って、立ち上がる。
「俺も次の授業が移動教室だから行くね。頑張って」
「は、はい!ありがとうございました!」
おもちが頭を下げると、優は微笑んで返却口に向かった。
授業が終わり、大翔はスクールバッグを持って教室を出た。
(昼休みおもちちゃんに会えなかったなぁ……)
ホッとしたような……残念なような……
「……大翔君」
振り返るとおもちが立っていた。
「おもちちゃん。河野から聞いたよ。お弁当忘れたんだって?」
「はい……ごめんなさい……」
「いいよ全然。でも次からは河野と二人きりだけは勘弁してほしい……」
「……?どうしてですか?」
「その……おもちちゃんと恋人になってどう?とか言われるから……」
「……!」
二人の顔が赤くなる。
「その……今日も一緒に帰りませんか?」
「うん……」
二人が歩道を歩く。
「あの……大翔君……」
「何?」
「私……その……大翔君にはずっと普通に話すことができなくて……なんでかな?って思って……」
「それは性別の違いじゃない?河野とはすぐに話せるようになったじゃん」
「それもあるかもしれませんが……もしかしたら……大翔君と出会ったあの時から……異性として意識していたのかなって……」
おもちの頬が赤くなっていく。
「大翔君と恋人になれて……舞い上がっちゃって……でも会うのが怖いって思う自分もいて……」
「……俺もおもちちゃんと恋人になれて嬉しい。でもどんな顔して会えばいいか分からなくて……」
「一緒……ですね……」
おもちがフフッと笑う。
「大翔君も緊張してるんだって思うと……安心しました。私が変なのかなって思って……緊張もやめなきゃって思ってましたから……」
おもちが決心したようにふ~っと小さく息を吐くと、大翔の目を見る。
「大翔君……これからは敬語なしで話してもいいですか?」
「……!もちろん」
「じゃあ……これからよろしくね。大翔君」
「こちらこそ。おもちちゃん」
二人が少し恥ずかしそうに笑う。
二人の緊張状態が和らぎ、これからは恋人として接していけるだろう。




