第33話 御曹司に告白されたおもちちゃん
「おもちちゃんのことが好きです。僕と……付き合ってください」
「……!」
おもちは驚いて、大きく目を開く。
「……えっ?」
「おもちちゃんは……優しくて……心が綺麗で……裏表がなくて……本当にいい人だと思ったんだ。これからも仲良くしたいし……もっと一緒にいたい……」
恥ずかしそうに、言葉を続ける。
「その……どうかな?」
「えっ……えっ……⁉」
大翔の告白に、おもちは顔を赤面させ、パニックになっていた。
(大翔君が……私を……好き……私を……)
そうであったらいいなと思っていたことが、実際に起きている。
決してありえないと思っていたことが……今……
「おもちちゃん?」
「は、はい!」
「大丈夫?」
心配そうな表情でおもちを見つめる。
「はい……その……びっくりしちゃって……」
「そっか……ごめんね」
「いえ!その……」
思っていることをうまく口にすることができない。まだ戸惑っているからだろうか。
「私……」
想いを口にしようとすると、バン!と休憩室のドアが開き、稲見が入ってきた。
「大翔君!こんなところでおもちちゃんとさぼってたの?」
大翔の手を引っ張ると、休憩室を出ていく。
「早く!片付け手伝って!」
「ち、ちょっと!」
稲見に逆らえず、そのまま奥に消えてしまった大翔。
ポカンと後ろ姿を見つめていたおもちは、そのまま誰もいない廊下を見つめていた。
(返事……できなかった……)
私も戻らないと。そう思い、休憩室を出た。
教室で片付けをしていた大翔は、荷物を置き終わると、ため息を吐いた。
「どうした大翔?女の子にでもフラれたかい?」
「……まだフラれたって決まってねぇ」
「そうかそうか。……今なんて?」
豆腐が聞き直す。
「聴き間違いか?その返しは……告白はしたってことだよね?」
「あぁもううるせぇな!今お前に構ってる暇はないんだよ!」
大翔が離れると、教室を掃除していた千賀に話しかけた。
「千賀ちゃん。大翔の好きな人って知ってる?」
「えっ?知らないなぁ……稲見ちゃんの方が仲良いから詳しいと思うよ?」
「えぇ……稲見ちゃんに聞くのはちょっと……」
「私に聞くのは何って?」
背後から稲見に話しかけられると、豆腐がビクッと反応する。
「うわ~~~~~!出た~~~~~!」
「私は幽霊か!」
豆腐の頭を思いっきり叩く。
「痛いって……」
「あんたが出たとか言うからでしょ?で?私に何を聞きたいの?」
「大翔の好きな人って知ってる?」
「うん。知ってるよ」
「誰?」
「あんたが知らない子だから面白くないと思うよ?」
「なんだ。てっきりクラスメイトかと」
豆腐は興味をなくしたのか、片付けを再開する。
「たかが一回告白したぐらいで落ち込むなって話だよな」
「どういうこと?」
「大翔がその子に告白したんだって。でもまだ返事をもらえてないらしい」
「そうなの⁉」
稲見の大声が教室に響く。
「それ大翔君が言ってたの?」
「あぁ」
「いつ告白したの?」
「そこまで聞いてないって」
豆腐が片付けで離れると、稲見は休憩室で大翔とおもちが二人きりだったのを思い出す。
(もしかして私……やらかしちゃった?)
一方、おもちのクラスも文化祭の片付けをしていた。
(ふぅ~……これで全部かな?)
一通り片付けを終え、他の人の手伝いをしようとすると、あの!と後ろから話しかけられた。振り返ると真奈美の取り巻きの一人が立っていた。
「あなたは……」
「その……ごめんなさい!」
取り巻きの子が頭を下げた。
「今までおもちちゃんにひどいことをしちゃった……許されないことは分かってる。でも……どうしても伝えたくて……」
「……顔を上げて」
取り巻きの子が顔を上げると、おもちはニッコリと微笑んでいた。
「大丈夫。気にしてないから」
「……!」
「大翔君に自首してくれたんでしょ?そのまま黙っておくこともできたのに。でもそれをしなかった。
それは自分がいけないことをしたって分かっていたからだと思うから」
「それは……」
おもちちゃんと声をかけられ、おもちは声がした方へ向かって行く。
「とりあえず私は気にしてないから。またね」
取り巻きの子はポカンとおもちを見つめる。許されないと思ったのに……
(またねって言われた……)
心が不思議な感覚になる。まるで黒く覆われた心が浄化されていくかのような……
片付けが終わり、大翔が教室を出ようとすると、同じく片付けを終えて教室を出たおもちと目が合う。
「「あっ……」」
お互い気まずい空気になる。
休憩室で告白して、返事を聞けなかった大翔と、返事を言えなかったおもち。
二人の間に沈黙の時間が流れていた。
「えっと……一緒に帰る?」
「……はい」
二人で学校を出て、駅に向かって歩き始めるが、会話は無く、二人共黙ったままだった。
「えっと……文化祭色々あったね……」
「そう……ですね……」
少し会話をしても、すぐに沈黙が生まれてしまった。
(どうしよう……気まずいよ……)
おもちが流れを変えようとすると、大翔が口を開く。
「あのさ……」
「は、はい!」
大翔が口を開いたことに対して驚いてしまい、変な声を出してしまった。
「その……急かすみたいで申し訳ないと思ってるけど……さっきの件……どうかな……?」
「え、えっと……」
さっきの件……告白のことだろう。
「私は……ずっと自分に自信がなくて……自分は皆より劣っていて勝る部分もないから……でも……大翔君と出会って……稲見ちゃんと出会って……
自分に自信を持てるようになったし、自分のことも好きになれて……体育祭で自信がなくなった時も大翔君のおかげで取り戻すことができて……」
おもちには、今まで自分を見てくれる友達がいなかった。
褒めてくれる人も……自分に興味をもってくれる人も……
周りには友達に恵まれて学校を楽しそうに過ごしている子がいるのに、自分は恵まれていなかった。だからといって、嫉妬をしたりはしなかった。
友達ができないのは自分に至らないところがあるからだと思っていたから。
この先も自分に友達はできず、一人で生きていくことになるのだろう。
そう思っていたが……
―――「……あの。あなたの名前は?」
あの日。図書委員の仕事をしていた時に、名前を聞かれたことを忘れられない。
同年代の人に名前を聞かれたのはいつぶりだろうか?
「善哉おもちって言います」
「善哉……おもち……」
男子生徒が自分の名前を呟くことに、少し恥ずかしさを感じる。
「何だろう……不思議な気配を感じますね」
「えっ?私にですか?」
「はい。言葉でうまく表せないけど……一緒にいたら心が安らぐような……」
「……!」
「あっ……すみません変なこと言って……とりあえずこれ借りてもいいですか?」
「は、はい。わかりました」
本の貸し出し手続きをすると、男子生徒に手渡す。
「ありがとうございました」
頭を下げて、図書室を出ていくのをおもちはじっと見つめていた。
(一緒にいたら心が安らぐ……か……)
―――「あの時から自分が変わり始めたような気がして……私が変わったのは大翔君たちのおかげなんじゃないかって思うことがあって……」
「そんなことないよ。変えたのは俺でも河野でもない。おもちちゃん自身だよ」
「それでも……自分を変えられたのは大翔君や稲見ちゃんのおかげなのは間違いないです」
おもちが大翔の顔を見つめる。
「でも……私が一番感謝しているのは大翔君です。大翔君に出会えなければ……今も一人ぼっちだったと思うし……大翔君と出会えたことは……
凄く運命だったような気がします」
おもちの顔が赤くなっていく。
「私も……大翔君ともっと一緒にいたい……」
二人の間に少し、沈黙の時間が流れる。
「私と……付き合ってください……!」
「……!」
二人の空気を悟るように、周囲が静かになる。
何も聞こえない。気配を感じない。感じているのは胸の高鳴りだけ。
「……それって俺のこと好きってこと?」
「……はい」
小声の返事を聞いた、大翔の胸の鼓動が大きくなり、しゃがみ込んだ。
「ひ、大翔君⁉大丈夫ですか?」
「……よかったぁ」
大翔の安堵した声を聞いて、おもちが戸惑う。
「おもちちゃんと付き合えないと思った……」
「……私も大翔君と付き合えないと思ってました」
「お互い同じこと考えてたんだ」
大翔が立ち上がり、おもちを見つめる。
「じゃあ……今から『恋人』ってことで……いい?」
「……!はい……」
二人は恥ずかしそうに照れた表情になる。
『恋人』になりたいと思っていた二人の願望が遂に叶った。
これから先……二人にどんな未来が待っているのだろうか?




