98.情報整理
数日は掛かると想定していた弔いが僅か数分で終わってしまい、マキナは次の行動を決めかねていた。
現実的な選択肢はスカラビア帝国へ戻り事態の報告をすることだ。
だが、魔族の襲撃とその撃退という結果は、帝国にとっては朗報かも知れないが、マキナにとっては骨折りの割に収穫のない結末である。
ディジーと再会できたことはまたとない僥倖ではあるが、根本的な問題の解決に至ったわけではないからだ。
「そもそもさ、君は何で帝国にいたんだい?」
静寂の中でどうするか考えている最中、ディジーがふいに顔を覗かせるようにして尋ねてくる。
「え?それは、ディジーを探すために……」
「おっと!ボクの可愛さが君を誑かしてしまったかn……止めてくれよその冷めた瞳は……悪かったよ」
人前で滅多に見せることのないマキナの冷え切ったジト目を真っ向から浴びて、ディジーはあからさまにショボンと肩を落とす。
「うーん、昨日はまだ落ち着いて話が出来てなかったし、話したいことも山ほどあるから、先ずはそこからかな。ディジー、色々話し合っても良い?」
マキナの真剣な問いに、ディジーはこれまでの飄々とした空気を引っ込め、真面目な雰囲気を露わにする。
「構わないよ。ただ正直に言うとまだ話せないこともあってね。それを踏まえた上であれば、出来る範囲で答えよう」
今までのどこかふざけた様子の時とはまるで違う、圧さえ感じさせる雰囲気に、マキナもスッと表情を改め気を引き締め直す。
「それで、何から話そうか?」
肌を刺すような威圧感は解かれたものの、僅かに口元を引き締めてこちらを見据えるディジーの姿に、いつものゆるい雰囲気の面影はなかった。
「えっと……じゃあ中途半端になっちゃったから、先ずは私がさっきの質問に答え直すね」
マキナは記憶を整理しながら、これまでの事の経緯を話し始めた。
ディジーとエルゼルク王国で別れた後のこと。
結界内に再び魔物が現れ、それがキメラへと変異した経緯、そしてその正体が『種』であった事実など、順を追って説明していく。
加えて道中の出来事などを交えながら説明を続け、ディジーは真剣な面持ちで、時折深く頷きながらその話に耳を傾けていた。
しかしその張り詰めた空気の中でも、租界の集落の話をした時だけは、ディジーはその表情をパッと緩めた。
「あ〜はいはい!確かに作ったよ魔道具。丁度スカラビア帝国から離れて間もない頃だったからね。実験も兼ねてパパッと作って置いてったよ!!」
「絶対そんな気軽に作れるものじゃないと思うんだけど!?」
相変わらず歴史的なオーバーテクノロジーをサラッと語るディジーに、マキナは堪らず前のめりになって突っ込んでしまう。
「そうかい?でも難しい設計はしてないからなぁ。周囲の魔素を吸い込んで、それを放つだけの極めてシンプルなデザインだよ?」
「り、理屈はそうかも知れないけど……でもそんな気軽に作れるものじゃ……て、ていうか資材とかはどうしたの!?いくら設計が出来ても、作るための材料が無かったら……」
「そりゃ収納してたに決まってるだろう?ほら、ここに」
そういってディジーがぶっきらぼうに手を横にかざすと、何も無かったはずの虚空に、突如として黒い穴が開く。
「ッ!?ッ!?!?」
目を丸くして驚くマキナを他所に、ディジーはその空間の穴にズボッと腕を突っ込み、ゴソゴソと漁った後にゴロリとした一つの物体を取り出した。
「ほら!これはシンプルな鉄鉱石だ!こういう材料がこの中に沢山詰め込まれていて……おや?どうしたんだい?」
手に取った鉄鉱石を自慢げに見せびらかしていると、ディジーは目の前のマキナが完全に唖然としていることに気がつく。
「そ、それ……」
マキナが震える指で宙に開いた穴を指さすと、ディジーはようやく状況を理解してポンッ!と手を叩いた。
「あぁそうか!空間魔法に驚いているのか!!」
「そりゃそうでしょ!?」
マキナの渾身の突っ込みが、静かな採掘場の辺り一帯に木霊する。
⚫︎⚫︎⚫︎
「いやぁごめんごめん!!色々とぶっ飛んでしまったね」
拠点の開けた一箇所に腰を落ち着かせ、二人は改めて向かい合って話し始める。
「取り敢えず、魔道具を作るにあたっての材料云々の話は納得してもらえたかい?」
「まぁ……うん。材料があれば誰でも作れるってものでも無いと思うけど、もうディジーだからってことで一旦納得することにする」
「お、天才の扱い方が分かってきたねぇ」
まるでめげないディジーにマキナは呆れたように小さくため息を零しながら、何とか話を本筋へと戻す。
「でもあの『空間魔法』!!それはどこで覚えたの!?」
ビシッと指を指されて詰め寄られたディジーは、キョトンとした表情を浮かべた後、顎に手を当てながら静かに答える。
「それは言えない」
即答にマキナが不満げに眉を顰める様子を見て、ディジーは素直に申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ごめんよ。でも今はまだ話せないんだ。君には出来る限り隠し事はしたくないんだけど……」
「それも」
ディジーが言葉を濁して弁明する途中で、マキナがそれを鋭く遮ってさらに問い詰める。
「貴方は私に借りがあるって言ってたけど、そもそも私は貴方のことを知らないし、会ったこともない……はず」
「言い切れない辺り、言葉が軽いねぇ」
痛いところを的確に突っ込まれてしまい、マキナは僅かに頬を赤らめるが、それを強引に押し切って話を進める。
「だから貴方から借りがあるって言われても困るし、覚えのない貸しを返されても困るよ。貴方は一体何者で、私にどんな借りがあるの?」
マキナの真っ直ぐな瞳に射抜かれ、ディジーはこの問いにも困ったように唸り、必死に答えの言葉を探そうするが、やがて諦めたかのように力なく苦笑いを浮かべた。
「ごめん、それにも今は答えられないや」
マキナはこの時初めて、目の前のディジーに対して少なからず疑いの感情を抱いた。
短い付き合いではあるが、これまでの行動を見ていれば、ディジーが決して悪人ではないことはよく分かる。しかしそれを差し引いても、彼女を取り巻く秘密は余りにも多すぎる。
しかもその秘密が、彼女自身のことだけでなく、マキナ自身の過去や因果にも向けられているからだ。
しかし、適当な嘘で誤魔化すことも出来たはずの問いに対し、ディジーは熟考の末に「答えられない」と正面から突き返してきた。
その逃げ場のない真っ直ぐな瞳は、彼女なりにマキナへ真摯であろうとしている証にも見え、その重苦しい沈黙を前にして、マキナは静かに息をついた。
隠し事は多いが、あの弔いの優しさに嘘はないと、そう結論付けたマキナは、追求することはやめて表情を和らげた。
「……分かった。じゃあディジーの素性を聞くのは一旦諦める」
「……ごめんよ」
普段の明るく快活な姿は見る影もなく、膝の上で手をきつく組みながら、痛ましそうに目を伏せるディジーの姿。
そのあまりにも重い罪悪感を前に、追求したマキナの方が逆に申し訳なくなってしまう。
「話を戻すけど、私が帝国に行ったのは、一つはディジーを探すため。租界の集落の魔道具もそうだけど、他にもポンポン魔道具を作って配ったりしてない?」
「失礼だな!ボクはそんなに考えなしに生態系を乱すようなこと……は……」
始めのうちはガタッと立ち上がって声を張り上げるように否定したディジーだったが、その声は後半に向かうにつれて徐々に自信なさげに小さくなっていく。
「……ディジー?」
「……ごめん、一回だけある」
鋭い視線に耐えきれず、最終的にディジーは地面に座り込むまでに小さくしょぼくれてしまう。
「その……さっきの租界の集落の話をしただろう?ボクはその後、エルゼルク王国、つまり君と会った場所に向かっていたんだけど、そこで二人の小さな兄妹に会ってね」
ディジーの話し始めた内容に、マキナの記憶のなかで薄らぼんやりとあの二人の兄妹のイメージが浮かび上がり始める。
「国の壁の外の過酷な状況を知って、何とか二人の力になりたくてね。とはいえ国内に住ませることは流石に不可能だった。だから、子どもでも使える簡単な魔道具を渡したんだ。少しでも生存の可能性が上がれば、と」
バツが悪そうに語るディジーの話に嘘はないだろう。その上で、マキナは一つだけ確かめたいことがあった。
「もしかしてその魔道具って、強い閃光を放つものだったりする?」
「そう!暫く視界を奪うほどの激しい閃光を即座に放つ魔道g……どうして分かったんだい?」
食い気味に返ってきたその情報で確認が取れたことで、マキナはディジーのいう二人の幼い兄妹が、かつて出会ったカイリーとソラリスの二人だと確信した。
※後書きです
※来週から二週間、100話到達記念でまた連続更新します!!
マ「なんで租外の集落に行ったの?」
ディ「食事の概念忘れて夢中になってたら、行き倒れたんだよね」
マ「……」
本日もお読みいただきありがとうございました。
次回の更新は月曜日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。




