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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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95.束の間の休息

 拠点から離れること五キロ、マキナとディジーの二人は、前回撤退したあの時の大きな岩陰まで戻り、冷えた身を休めていた。


 日は既に完全に沈んでおり、辺りは闇に飲まれつつあったが、目の前では周囲を赤く照らす焚き火がパチパチと心地良い音を立てながら燃えている。



「どうだい、少しは落ち着いたかい?」



 その炎の爆ぜる音に静かに耳を傾けていると、暗い岩陰の奥から、湯気を立てた白いマグカップを二つ手に持ったディジーが姿を見せる。


 甘い香りを漂わせるカップがスッと差し出されるが、マキナはそれを受け取るのを反射的に躊躇ってしまった。


 目の前の彼女がそんな真似をするわけがないと頭では理解していても、『英雄』としての側面が毒の混入を本能的に疑ってしまう。


 だがディジーもその事情は理解しており、寧ろ何の気遣いもなしに飲み物を差し出してしまった己の失態を恥じ、カップをマキナの前の石にコトリと置くだけに留め、決して飲むことを強いはしなかった。


 気まずそうにしつつ、マキナはゆっくりとディジーに語りかけた。



「えっと……プロディジーさん、助けてくれてありがとうございます」

「よしてくれよプロディジーさんなんて堅苦しい。さっきみたいに、気軽にディジーと呼んでおくれ」



 相変わらず距離感を忘れてきたかのような親しみのある話し方をするディジーに、マキナはふと肩の力が抜け、強張っていた表情が微かに和らいでいく。



「えっと……じゃあディジー」

「うん、なんだい?」



 声を掛けたものの、底知れぬ実力を持つディジーに対して何から問い掛ければ良いのか分からず、パチパチと火の粉が舞う音だけの僅かな沈黙が続く。


 しかしやがて意を決したのか、マキナは膝の上で両手を強く握り締め、微かに震える声で尋ねた。



「……あの拠点の人達のことなんだけど、本当にマリアルザの言う通り……」



 消え入りそうな声で細々と尋ねられた問いかけに、ディジーは珍しくすぐに答えようとしない。


 彼女もまた、心に深い傷を負ったばかりの今のマキナに対してどう返答すべきか迷い、伝える言葉を見極めようとしていた。


 答える前に一度マキナの目をじっと見つめると、その青い瞳は不安と恐怖の残滓に揺れながらも、逃げることなく真っ直ぐにディジーを捉えている。


 今の彼女に対して下手な慰めを言うより、残酷であっても事実を伝える方が良いと判断し、ディジーは静かに真実を語り出した。



「……残念ながら、マリアルザの言ったことは事実だ。あの拠点にいた人達は、既に全員亡くなっている」



 その決定的な言葉を聞き、マキナの顔がクシャりと苦痛に歪み、沈痛な面持ちを浮かべた後、耐えきれないように深く項垂れた。


 暗い岩陰に再び重苦しい沈黙が続いたのち、マキナがゆっくりと顔を上げ、ひどく暗く掠れた声で尋ねる。



「拠点の人達は、どうやって亡くなったの?」



 心がひどく傷付いても尚、救えなかったという現実に打ちのめされても尚、マキナは皆の『英雄』であるために、真実を求めてディジーに問いかけた。


 心がひどく傷付いても尚、自らに課せられた『英雄』という偶像を守るために、必死に気丈に振る舞おうとするその姿。


 ディジーにはその健気さが痛いほどに伝わっており、今にも壊れてしまいそうな一人の少女を前に、静かに目を細めていた。


 しかし、一度冷酷な事実を口にした以上、いまさら誤魔化すことは許されず、ディジーも静かに覚悟を決め、改めて真実を伝え始める。



「ボクが拠点の状況を正確に把握したのは、君がマリアルザと戦ってからでね。君の考えた対処法の効果は見込めると思っていたが、相手が『クイントスクーロ』ともなれば想定外の事態が起こり得ると考えて、ボクもこっそり後を尾けていたんだ」



 ディジーはそこまで話すと、「気付かなかっただろう〜♪」と場違いなほど無邪気に笑う。


 マキナの張り詰めた緊張をほぐす為に、敢えて少しふざけた軽い調子で話しているのだろう。


 その細やかな気遣いがある程度の効果を発揮したのか、マキナも「もう」と小さく文句をこぼしながら、僅かに口元へ笑みを浮かべていた。



「そして調べていくうちに、マリアルザの魔法が幻覚魔法ではなく水を媒介にした魔法であることが分かってね。そうなると、君の考えた魔力を乱すアイディアが十分な意味を成さないと気付いた」



 ディジーの観察と予測は全て的確に当たっており、実際『マジック・チャフ』による強引な対処法では、マリアルザの根本の魔法を破ることは出来ず、マキナは窮地に陥ったからだ。



「ごめんよ。本当は気付いた段階で君のもとに駆けつけたかったんだが、ボク自身がマリアルザに完全に対処出来ないと意味がなかったからね。その後も身を潜めて分析を続けていた」

「ううん。そのお陰で助けられたんだもん。謝ることなんて無いよ」



 ディジーが直ぐに残酷な結論を口にしないのは、順を追って論理的に説明しようとしているのもあるだろう。


 だがそれ以上に、意図的にゆっくりと紡がれるその穏やかな声色からは、マキナの心がこれ以上壊れないようにという細やかな配慮が確実に伝わってきていた。


 そのどこまでも自分を思いやってくれる優しい語り口調に、マキナは先程までの怯えをわずかに拭い去り、静かに、しかし真っ直ぐな眼差しで傾聴を続けた。



「そこからは見ての通りでね、マリアルザの魔法に対する対処方法を見つけた後、直ぐに君のもとへ駆け込んだわけだが……」



 ここからが残酷な本題であり、ディジーは一度言葉を止め、マキナに対して本当にこの続きを話して良いのかと問うように静かに目配せした。


 マキナも直ぐにその無言の意図を感じ取り、小さく、しかし力強く頷き返したのを見て、ディジーは重い口を開き話を続けた。



「ボクが彼女の魔法の中和を始めた場所にも、いくつもの死体が無惨に転がっていた」



 マキナは一瞬苦痛に顔を歪めたものの、ディジーの事前配慮の効果もあってか、直ぐに表情を取り繕い、先を促すようにじっと見つめ返す。



「……その時に気付いたんだが、死体の腐敗進行には明らかな差異があった。君が見た完全に白骨化したものもあれば、まだ生々しく皮膚が残っていたものもあった」



 マリアルザが無造作に投げ付けた人間の白骨化死体。それが脳裏を過り、僅かにマキナの身体が震える。


 そうなることを分かっていたディジーも僅かに苦悶な表情を浮かべたが、心を律して続ける。



「だがここで、一斉に拠点内の全員を仕留めたのであれば、遺体にここまで大きな差異が生じるのは不自然でおかしいと考えてね」



 無論、環境条件によって死体の腐敗状態に差異が生じることは珍しいことではなく、気温や湿度、その時の被害者の健康状態などによって差は大きくなる。


 しかしディジーの言う通り、マリアルザがこの拠点内の人々を濃密な『霧』のなかで一斉に殺害したというのなら、それ程の絶対的な差が生じることは考えづらい。


 だからこそディジーは、その死体から僅かな違和感を感じ取ったのだろう。



「それを追加で調べていたから、到着が更に遅れてしまったわけだけど……お陰でマリアルザがこの拠点で、一体何をしていたのかが判明したよ」



 パチッ、と薪が爆ぜる音さえも、マキナが息を飲む音にかき消されるほどの張り詰めた静寂の後。ディジーがゆっくりと、その恐ろしい答えを口にした。



「マリアルザは生きた人々を昏睡させ、その状態で少しずつ魔力を吸い取っていたんだ」

※後書きです



ども、琥珀です。


連続更新終わり!!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!

来週からはまた週三日に戻りますので宜しくお願いします!!


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は月曜日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。

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