40.対キメラ②
『スカイ・ブラー』と『ヴェノム・ストーカー』の二体が雄叫びを轟かせ、ロス達を明確な標的として捉え、鋭い視線を突き刺す。
「ヒィ!?お、お前達!!何をしている!!早く撃て!!もっと撃て!!あの化け物どもを仕留めるんだ!!」
眼前に迫る異形の圧に気圧され、ロスは声を裏返らせながら命令を飛ばし、兵士達もまた恐怖に突き動かされるようにして、半ば反射的に攻撃を再開した。
だが、統制を欠いた攻撃はほとんど効果を成さず、むしろ弾着と衝撃で巻き上がった土埃が視界を奪い、自らの目を塞ぐ結果となってしまい、迫り来る脅威に気付く術を失いつつあった。
土煙の奥から響く『ヴェノム・ストーカー』の咆哮が、空気そのものを震わせるように兵士達の恐怖を増幅させ、思考をさらに鈍らせていく。
その彼らの狭まった視野の死角を嘲笑うかのように、『スカイ・ブラー』が突如として目前へと姿を現した。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ど、どこから!?いつの間に!?」
兵士達は正面の『ヴェノム・ストーカー』に意識を奪われ過ぎていたために、保護色で姿を溶け込ませていた『スカイ・ブラー』の接近に、誰一人として気付くことが出来なかった。
もし平時の戦闘であれば、彼らももう少し柔軟に対応できていただろう。
だが今回は、ロスによる強引な招集に加え、王を守りながら密集陣形を維持するという無理を強いられたことで、本来の実力を発揮できない状態に陥ってしまった。
さらに言えば、今対峙しているのはマキナでさえ後手を踏んだキメラであり、これを前にして平静を保てる兵など、本来存在しない。
「ぬぅん!!」
──ただ一人、老兵グラッブを除いて。
兵士達と『ヴェノム・ストーカー』の間へ躊躇なく割って入り、構えた盾で振るわれた一撃を受け止め、火花と衝撃を撒き散らしながらもその身で兵士達を守った。
「散れ!!」
激突の余波で数メートル弾き飛ばされながらも、グラッブは着地と同時に体勢を立て直し、間髪入れず号令を飛ばす。
「このまま固まっていては、奴らの格好の的になるだけだ!!標的を絞らせるな!!散開し、少しでも奴らを惑わせよ!!」
その言葉に真っ先に反応したのは、マキナと共に死線を越えた十名の若き兵団達であった。
たった一度、されど極限の戦場とその修羅場を生き抜いた経験が、彼らの心を強く鍛え上げていた。
近くにいた別の兵士や衛兵を抱え上げ、迷いなくその場を離脱し、互いに距離を取りつつ散開していく。
「ロス国王、無礼をお許しください!!」
駆け戻ったグラッブはロスを力強く抱え上げ、有無を言わさずその場から退避行動へ移る。
「グ、グラッブ貴様……い、いや、よくやった!!」
一瞬、王を抱えた無礼を咎めかけるも、自身が救われている現実を受け止め、ロスは言葉を改めた。
一方のグラッブは、視線こそ『ヴェノム・ストーカー』へ据えていたが、胸中ではこの混乱を招いたロスへの呆れが渦巻いていたが、すぐに雑念を振り払う。
グラッブの的確な指示によって兵士達が上手く散開したことで、キメラ達は標的を絞り切れず、わずかに動きが鈍っている。
その一瞬の隙を逃さず、グラッブは近くで後退していた衛兵へ歩み寄った。
「そこの者、国王様を頼む」
「え!?はっ……え!?」
「ぬぉ!?グラッブ貴様!!」
衛兵は動揺を隠せなかったが、細かに説明している猶予はないため、やや雑にロスを預け、振り返ることなく再びキメラへ向き直る。
「動ける者は来い!!撹乱しつつ奴らを討つ!!」
その号令に、まず若手の兵団十名が応じ、続いて周囲の兵達が次々と集結する。
「グラッブ師団長、作戦は?」
その内の一人、隣に並んだ歴戦の気配を漂わせる兵士が低く問う。
「師団長はよせ、ガイル。それはお前の役目だ。今の私は一介の訓練兵長に過ぎん」
「あの状況で真っ先に動いたのは貴方だ。やはり俺には荷が重い」
グラッブは小さく鼻を鳴らし、すぐに鋭い眼光へ戻る。
「お前もマキナ様の戦いを見ていただろう。あの魔物どもは、複数の特性を併せ持つキメラのようだ。一体を相手にするにも、複数の能力を同時に警戒せねばならん」
「ええ。しかしマキナ様のお陰で、三体がどの魔物の特性を持つかをある程度把握できました。御方には頭が上がりませんね」
情報が整理され、次に必要なのは、勝つための一手となる。
「この場には何名の兵団がおる」
グラッブの低い問いに、ガイルは素早く周囲へ視線を走らせ、散開した兵達の位置と数を瞬時に把握する。
「二十名ほどはいます。若手も混ざっていますが」
「構わん。あやつらは特異個体『ボルム』との戦いを生き抜いた兵だ。案ずる必要はない」
その言葉にガイルは一瞬驚きで目を見開き、やがて納得したように口元を緩めた。
「なるほど、それで皆いい面構えをしていたのか。やはり兵は、死線を乗り越えてこそ鍛え上がる」
感嘆を滲ませるガイルとは対照的に、グラッブは視線を鋭く保ったまま、キメラの動きを追い続ける。
「本来なら数で押し切りたいところだが……キメラ化したことによって身体能力が跳ね上がっておる。群れられると厄介だ」
その言葉を聞いたとき、ガイルはグラップの手がふグラッブの手が震えている事に気がつく。
先ほど『ヴェノム・ストーカー』の一撃を受け止めた反動よって、骨身に響いた衝撃が肉体を蝕んでいたのだ。
ただ防いだだけで命取りになり得る攻撃力に、改めて事態の危険さが胸に刻まれる。
「分断して対処する必要がありますね。班を分けましょう。一体につき六、七名ほどでしょうか」
「よかろう。ならば二体分の十四名の指揮は一時的に私が執る」
グラップの回答に、ガイルは思わず目を丸くする。
「訓練兵長が、ですか?先ほどはああ言いましたが、俺が大人数を率いた方が……」
言い終える前に、グラッブが短く遮った。
「分かっておる。だから一時的にと言ったのだ」
真意を測りかねているガイルに、グラップはキメラ達が暴れる方向をを指し示す。
「お前はまず、あの鈍重な個体に向かい、下敷きにされてしまっているマキナ様をお救いしてこい」
その言葉に、ガイルは頷いて理解を示す。
「……なるほど。マキナ様を解放し、そのまま共闘して討伐に当たるわけですね」
「馬鹿を言うな」
しかしグラップはこれを否定し、その予想を裏切る一言に、ガイルの眉が跳ねた。
「マキナ様の救出は当然のこと。そして国内の治安の維持は兵団の本分、我らの役目だ」
そこでようやくグラップの真意を悟り、ガイルは苦笑を漏らす。
「ああ……そういうことですか、訓練兵長殿。俺が少数を率いてあの個体へ向かい、マキナ様を救出する。その上で、キメラも討て、と」
答え合わせのような言葉に、グラッブは不敵に口角を上げた。
「理解が早いな。マキナ様はここまで連戦続きだ。これ以上、我らの国の不始末であの御方の手を煩わせるな」
半ば呆れたように肩を竦めつつも、ガイルは短く応じる。
「……了解しました」
それだけ告げると、彼は迷いなく踵を返し、自らの戦場へと駆け出していった。
それを見届けた後、グラッブは深く息を吸い込み、戦場の喧騒を切り裂くように声を張り上げる。
「これより、この2体の魔物の討伐にあたる!!後衛魔法使い2名と、前衛兵士14名は私の指示に従え!!残りの兵はガイル師団長と共に行動せよ!!」
グラップの号令は鋭く迷いが無かったため、兵達は即座に反応し、動きが一瞬で統制されたものへと変わる。
素早く班分けが行われ、十六名がグラッブのもとへ集結し、残る三名は迷うことなくガイルの後を追って駆け出した。
「グラッブ訓練兵長」
呼びかけと共に一人の兵士が歩み寄り、その男は、周囲を冷静に見渡しながら口を開いた。
「宜しいのですか、ガイル師団長には3名しか付けなくて」
彼は若くして団長補佐にまで上り詰めた男、ランド。現師団長ガイルと共に国内兵団をまとめ上げる中核の一人である。
「心配はいらん」
ランドの言葉に、グラッブは視線を外さぬまま静かに言葉を返す。
「若いお前は知らんかもしれんが……奴が師団長になる前、前線に立っていた頃はこう呼ばれていた」
遠ざかっていくガイルの背を見つめながら、グラッブは低く呟いた。
「『エルゼルク王国最強の剣士』とな」
※後書きです
ども、琥珀です。
創作秘話
キメラの能力は、実は生物の知識に乏しい私はかなり苦戦しました
なので、毒、姿が見えない、空を飛ぶとか、できるだけシンプルな物から考えてました
そんでもってマキナが脳筋なので、物理が効かない、効き辛いなどを考えて、効果とスライムを選出したりと、結構雑です
そしたら攻略方法が分からなくなってきて、また思考の袋小路に……
創作って大変ですね……
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