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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
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37.作戦開始

 回収された種は即座にかき集められ、広場へと運ばれると同時に、処理作業の準備が慌ただしく進められていった。


 国内すべての種を回収できたわけではない。だが、いつ孵化するかも分からぬ危険物をこのまま放置するにはリスクが大きすぎる。


 マキナの胸にもその焦りが薄く滲んでおり、現場に渦巻く緊迫した空気が肌を刺していた。


 広場の中心にうず高く積まれた種を囲むように、ソニック・オアとフロスト・オアが交互に並べられていく。


 金属が擦れる乾いた音が続き、配置が整うと、さらに四人の魔法使いがその外周を取り囲み、全員の視線は一点に集中する。


 息すら殺すように詠唱の開始を待っていると、やがて低い詠唱が重なり始め、淡い光膜が静かに広がった。


 薄い水面のように波打つ膜は徐々に厚みを増し、続いて白いモヤがその表面を覆っていき、内側を包み隠していく。

 その様子は、何かを封じ込めるための巨大な繭のようだった。



「最初に張った膜は金属物質を媒介にしていて、魔力を通していませんので、種が魔力を吸収することはありません。ただ、物質を再現しているだけですので、そのままでは耐久力が不足します。そこで周りを魔力で覆うことで強度を補っています」



 分析官の落ち着いた声が、緊張で張りつめた空気の中でも鮮明に響いており、その説明のお陰で、マキナも目の前の現象をひとつひとつ理解しながら見つめ続けることができた。



「氷結は金属で、振動は魔力の膜で受け止めます。これで外部への被害は抑えられるはずです」



 膜はやがて完全に濃度を増し、内部の様子は完全に見えなくなってしまったが、結界は確かに起動し、静かに脈動している。



「ではマキナ様、始めます。宜しいですね」



 分析官の声にマキナはひとつ深く呼吸を整える。そしてわずかに顎を引き、小さく頷いた。



「作戦、開始!!」



 鋭い号令が広場に突き刺さり、次の瞬間、内部のフロスト・オアに仕掛けられていた小型爆弾が次々と爆ぜた。


 乾いた衝撃が連続し、表面に細かな亀裂が走ると、そこから凍てつく白い冷気が一気に吹き出し、膜の内側を荒々しく満たしていった。


 無数のフロスト・オアから広がる冷気が空気そのものを削るような速度で温度を奪い、わずかな時間で氷点下へと落ち込んでいく。


 種は拳ほどの大きさにも関わらず、次々と白く凍りつき、内部の脈動を完全に止めていった。


 孵化の兆候はひとつとして現れておらず、想定通りの効果を発揮していた。



「よし、ではこのまま、ソニック・オアの爆弾の起動を!!」



 続く号令とともに、内部の別の仕掛けが起動。

 凍結対策が施された爆弾は問題なく作動し、ソニック・オアの表面を砕いた瞬間、甲高い振動音が雪崩れ込むように発生した。


 耳を刺すほどの高周波が結界越しにかすかに響く。しかし冷気も振動も、結界の膜がすべて受け止めているようで、外部には一切漏れ出していない。


 内部では、凍結した種の表面に細かなひびが走り始めていた。



「よし、共振も上手くいってる。これならいけますよ!!」



 分析官の声は興奮を隠しきれなかったが、その横でマキナはひたすら沈着に、結界の奥で進む破壊の工程を見守り続けていた。



「(……お願い、このまま上手く行って)」



 仮面の奥で揺れる不安を必死に押し隠しながら、マキナは胸の奥底から祈りを捧げていた。

 この作戦が失敗すれば、再び多くの命が危険に晒される。その思いが、手の内にじっとり汗を滲ませる。



「なんだこれは!!」



 その時、耳に飛び込んできた怒声にマキナの心臓が跳ねる。嫌な予感に胸が締め付けられ、視線を向けるとーーーそこには側近アークルを伴ったロス国王の姿があった。



「ロス国王……!!なぜここに……」

「その声……マキナかッ!?なんだこれは!!私は貴様に結界の異常を調査するように命令したはずだぞ!!」



 よりにもよって、この瞬間に。いままさに種の根源を絶とうとしている最中の国王の出現に、マキナの背筋を冷たい予感が駆け抜けた。



「あれだけ恩情で猶予を与えてやったのに……何を遊んでおるのだ!!()()()()が国の被害を見て回るべきだという助言がなければ気付かなかったぞ!!」



 マキナがロス国王の隣へ視線を向けると、そこにはアークルが申し訳なさそうに瞼を閉じていた。


 ロス国王の支持率は評価が割れており、人々の印象にも統一性がない。

 暴君と呼ぶほどではないが、短慮で横柄な面が目立つのは事実で、マキナに対してもその傾向は顕著だった。


 英雄として利用する一方、自分の思い通りでなければ感情を爆発させる――その在り方は、体裁だけを整えた王そのものだ。


 その王政が変わったのは、数年前にアークルが側近へと昇りつめてからである。


 アークルは王自身の名声獲得を名目に次々と政略を提案し、ことごとく成功させていった。


 成果はすべてロスへと譲り、自身は最低限の功績だけを残す。

 その徹底ぶりはロスの信頼を強固なものとし、同時に国の均衡を保つ柱にもなっていた。


 この国は、実質的にアークルの働きで支えられているーーー誰もがそう感じていた。


 だからこそ、今回の一件でマキナに対し申し訳なさげに目を伏せているのだろう。彼女なりの善意が、事態を悪化させてしまったからだ。



「ロス国王、誤解です!!これは魔物から民を守るための行動で……」

「言い訳をするな!!」



 説明を試みたものの、ロスは聞く耳を持たなかった。怒りに飲まれた目は、真実を映す余裕すら失っている。



「結界の異常を調べることと、この、この……なんだこれは!?」

「見たところ、内部で何かを凍らせているようです」

「こんな氷遊びに転じおって!!」



 本来ならば、いま内部で凍らされているものこそが“異常の正体”であるにも関わらず、ロスの怒りは理屈を寄せ付けず、理解は遠のくばかりだった。


 周囲にいた所員も分析官も、国王を前に声を失い、誰一人まともに説明できる者がいない。

 それでもなお、マキナは少しでも理解を得ようと、諦めず言葉を紡ごうとしていた。


 しかしーーーそれこそが致命的な盲点となってしまった。

 誰か一人でも結界へ意識を割いていれば気づけたはずの異変。誰か一人でも視線を向けていれば回避できた事態。


 だが、ロス国王の登場により、全員の集中は完全に奪われてしまっていた。


 最初に異変を察知したのは、やはりマキナだった。実戦で鍛えられた感覚が、結界内から微かに溢れた魔力の震えを捉え、心臓が跳ねる。


 振り返った先、結界の内外に目立った変化は見えない。だが――膜を覆う魔力のモヤの奥、無数の光が脈動するように明滅していた。



「(なに……あれ。種は凍結して、その機能は失われているはず。魔力が内部に入り込むこともないし、種はもう魔力を吸収することは……)」



 そこまで考えて、マキナはひとつの“可能性”に気づき、息を呑んだ。



「(まって……種は外部から魔力を吸収する。それは人であったり、自然に漂う魔力も含まれることは分かってる。でも……)」



 光は次第に強さを増し、鼓動のように明滅を繰り返す。



「(でも、じゃあもし、吸収した魔力を、他の種に吸収させることが出来たら……?)」



 その答えは、次の瞬間に明らかになった。


 膜の奥の光は三つに集束し、圧縮されたかと思うや否や、眩い閃光とともに爆発的に膨れ上がり、直後、周囲の音が一瞬かき消え、空気がえぐり取られたような静寂が訪れる。


 そしてーーー結界が内部から破砕し、猛烈な衝撃波が全方向へと放たれた。


 マキナでさえ踏ん張らなければ吹き飛ばされるほどの烈風が数秒続いた後に衝撃はようやく収まり、周囲の面々は皆、数メートル単位で吹き飛ばされ地面に転がっていた。



「ッ!!ロス国王はっ!?」



 マキナは素早く周囲へ目を走らせる。遠方にロス国王の姿が見え、倒れ込んでいるが外傷はなく、どうやら衝撃で気絶しているだけのようであった。


 安堵をひとつ吐き、マキナはすぐさま視線を中心へ戻すと、種が集められていた場所は濛々と土埃が舞い、褐色の煙幕の奥に三つの影が、ゆらりと立っていた。


 その姿を捉えようと目を凝らした瞬間。


 土埃を切り裂くように、何かが鋭い速度で飛び出し、一直線にマキナへ襲いかかってきた。

※後書きです



ども、琥珀です。


昨晩から少しずつ改稿作業をしております。


毎回仕上がったタイミングと、投稿前日に見返してはいるのですが、三度目の正直で見直すと、やっぱりこっちの表現が良い!とか、このセリフの方が良い!とかなってしまい……


それが50話とかに至ってしまうと、そちらに気を取られて執筆が疎かになってしまうため、30話を超えた現段階で着手を始めました。


内容に変化はありませんので、強く気にされる必要はございません。あくまで自己満です。


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。


もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします!

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