18.急襲
※5月6日まで連日投稿します
リベルたちと別れ、エルゼルク王国へ帰還したマキナは、勢いそのままに借家のベッドに倒れ込んだ。
戦場を駆けていた日々とはまるで異なる、濃密すぎる二日間だった。
ラヴィス、イグニヴァ、そしてリベルとの出会い。
壁外で暮らすカイとソラとの遭遇、過去の偉人、稀有な魔法の存在、そしてこの世界の成り立ちと発展について。
すべてが新鮮で、未知で、刺激的だった。
しかしそれ以上にマキナの胸に深く刻まれたのは、彼らからの「接され方」。
生まれてこのかた、ただ『英雄』として扱われ続けてきた自分。
だがリベルたちは、マキナそのものを見て語り、受け入れてくれた。
それが、こんなにも嬉しいことだとは思ってもいなかった。
マキナは寝返りを打ち、机の上に置かれた髪飾りに視線を移す。
淡い桜色の宝石がはめ込まれたその装飾品は、初めてラヴィスと出会ったあの日、衝動に駆られそうになりながらも買えなかった、あのアクセサリーによく似ている。
いや、それ以上だった。
比べものにならないほど美しい輝きに、思わず目を奪われる。
何十年も戦場で過ごした日々よりも、リベルたちと語り合った数時間の方が、ずっと自分らしくあれた気がする。
その思いと同時に、気づかされもした。
どれほど自分が“戦争”という価値観に縛られていたかを。
平和のためにと謳いながら、マキナ自身は魔法を戦いの道具として用い、早期終結という名の一方的な勝利ばかりを望んでいた。
かつて魔法が、人々の暮らしを豊かにする手段だったことすら、知ろうともしなかったのに。
「ん゛〜〜……」
喜びと自責の狭間で、マキナは枕に顔をうずめた。
――人類の新たな一歩。そのために、自分ができること。
イグニヴァは言っていた。『適材適所。他人を頼れ』と。
再び寝返りを打ち、今度は天井を見上げる。
「……私、頼れる仲間なんていないもんなぁ」
マキナは『英雄』という立場ゆえに、どこにも属さず、各地の戦場を渡り歩いている。
戦地ごとに顔ぶれが変わる兵士たち。互いの素性を語る暇などなく、絆も深まらない。
そして一般市民たちからも、ある種の神のように崇められ、距離を置かれていた。
もちろん、それには利点もある。
各地での指揮権を一任されることが多く、戦場での混乱は最小限に抑えられる。
だがその分、責任も負担も一身に背負うことになる。
持ちつ持たれつ――とは名ばかりの、一方的な関係だった。
“マキナ”としてではなく、『英雄』として頼られる。
それはイグニヴァの言う「適材適所」とは、どこか違っている気がした。
「はぁ……」
腕を額に乗せ、目を閉じる。
思い浮かぶのはリベル、彼を主と慕うラヴィスとイグニヴァの姿。
“主従”と口にしながらも、あの三人の関係はまるで家族のようだった。
言葉少なにとも心が通じ合い、たった一言で意思を伝えられる、確かな信頼がそこにあった。
――あれこそが、イグニヴァの言う「適材適所」なのかもしれない。
「……私には、無理だよぉ……」
またひとつ大きな溜息をこぼし、布団の上でゴロリと転がる。
「魔族との争いも終わる気配ないし……そんな中で、人類の発展まで望むなんて……やっぱり無茶なのかな……」
思考の渦に巻き込まれながら、マキナの意識は徐々に薄れていった。
やがて静かな寝息だけが、部屋に静かに響く――。
●●●
翌朝。マキナは、胸を刺すような異様な気配と共に、眠りの淵から目を覚ました。
「(なに……?急に街から魔力が!?)」
跳ね起きると、ベッドから一気に飛び出し、勢いよく窓を開けて外を覗く。
早朝の空気は凍てつくほどに静かで、街はいつも通りの穏やかさを保っている――ように見えた。
しかし、その平穏は一瞬で砕け散る。
ゴォンッ!!
爆音と共に、大地が鳴動した。続いて響くのは、建物の崩れ落ちる轟音。
その音の発生源に目を向けたマキナの視界に、信じ難い光景が飛び込む。
「な、なに!?」
遠く離れていても視認できるほど、常軌を逸した巨躯を持つ魔物が街の中心で堂々と立ち尽くしていた。
「嘘……どうして、城壁の内側に魔物が……?」
脳裏に走る疑念を押し殺しながら、思考を強制的に切り替える。
今は何より、国民の安全確保と魔物の排除が最優先だ。
マキナが手早く装備を身につけ始めたその最中、リベルの言葉が脳裏をよぎった。
『近いうちに、魔族の動きが活性化することになると思う。これまでとはまるで違う戦いになるはずだ。気を抜くなよ』
「まさか……こんなにも早く、それが現実になるなんて」
準備を終えたマキナは、窓から街を見据え、一直線に跳躍。
空気を裂いて着地した建物の屋根の上で、目を閉じ、魔力感知に意識を集中させる。
「(……10、20、30体以上!?なんて数……どうして、これほど多くの魔物が!?)」
感知された魔力の密度と数に、汗がこめかみを伝う。
「(でも……強大な魔力を放っているのは、あの巨体の個体だけ。その他の魔物はそこまででもない……問題は、散開していること。個別に対応していたら、あの巨獣の蹂躙を許しちゃう!!)」
その時、遠くから助けを求める悲鳴が響き、マキナは思考の海から引き戻された。
目を開き視線を走らせると、民が逃げ惑う姿が見える。
早朝という時間帯が災いし、避難は遅々として進んでいない。
そもそもこの壁内に住む人々は、安全を保証された者たち。
予兆もなく突然襲われれば、対応できるはずもなかった。
「(……とにかく、先ずは近くの住民を避難させつつ、魔物を排除。同時に衛兵へ避難誘導の指示を伝達する!!)」
迷いを直ぐに振り切り、足に力を込め、爆発的な勢いで跳躍。
獣型の魔物に襲われる民の前に舞い降り、鮮やかな動きで叩き伏せた。
「ま、マキナ様!!」
「このまま真っ直ぐ、壁沿いまで走ってください! 魔物は中央に集中してます! 結界の余波の影響で、壁近くは安全なはずです!」
短く、的確に。焦りの中でも要点だけを伝えると、民は何度も頷きながらその場を離れた。
「(結界は機能してる……なのに、どうやって城壁の内側に……?)」
新たな疑問が頭をもたげるが、今は考えている時間も惜しい。
魔物の気配が強まる中心部を目指し、再び跳躍する。
飛翔の途中、衛兵長が指示を飛ばす姿を視界に捉え、空中で体をひねって着地。
「ま、マキナ様!! 一体、何が……!? 我々はどうすれば……!」
「落ち着いて。最優先は人々の避難です」
混乱する衛兵達を一喝し、マキナは指示を与える。
「魔物の討伐は後です。先に市民を中央から壁沿いへ避難させてください。結界の余波を利用して、皆の安全を確保します」
「「「はっ!!!」」」
即座に命令を受けた衛兵達が、それぞれの持ち場へ散っていく。
「し、しかしマキナ様! 魔物の数は多く、このままでは……」
「分かっています。でも、あなた達は国内警護専門で実戦経験が浅い。まずは避難を完了させてください。人の往来さえ止められれば、壁外の兵団が加勢してくれるはずです」
確信と冷静を帯びたマキナの言葉に、兵長も迷いを断ち切るように敬礼し、駆けていく。
広場に一人残されたマキナは、改めて視線を巨体の魔物へと向けた。
「(あの巨体……動きは鈍い。なら今は、小型で素早い個体の方を優先すべき。群れられたら民に被害が出る!)」
再び魔力に意識を集中。魔物の位置を把握すると、彼女の身体は即座に動き出した。
●●●
魔物出現から、わずか五分。
マキナは魔物を退けながら、人々の避難誘導を続けていた。
そしてついに、兵団が到着する。だが、安堵したのも束の間だった。
「……10人?」
報告された兵の数に、マキナは耳を疑った。
同時に、到着した兵士たちのひとりも顔を伏せ、言いづらそうに口を開く。
「……兵団のほとんどは、王宮の警備に回されました。中央で魔物が出現したことで、陛下の命令で……迎撃を許されたのは、我々だけです」
マキナは、愕然とした表情で頭を抱える。
これほどの脅威を前にして、王が自衛を最優先にした――その現実が、信じられなかった。
「マキナ様、我々は……」
10人の兵士に視線を向けると、彼らの顔に不安と緊張がにじんでいるのが見て取れた。
顔を見れば分かるほどに全員が若手。
16歳のマキナより年上とはいえ、彼女のように幼少期から魔族との戦いを前提とした訓練や実戦経験はない。
共に戦った熟練兵の姿も見えず、動揺するその表情が、何よりの証拠だった。
「(私が直接指揮して討伐を……いや、それじゃ手が足りない。あの巨獣を放置すれば、街が……!!)」
時間は刻一刻と過ぎていく。迷っている暇は無い――そう思いながらも、マキナは次の一手を決めかねていた。
その時、静かだった隊列の中から、一人の兵が一歩前へと進み出た。
※後書きです
ども、琥珀です。
GW企画6日目イェー
最近乗り物酔いが酷くなりまして……
車はもちろん、バスや電車でも酔うようになりました……
もう酔い止めが必需品です……
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次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。
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