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リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
17/21

16.贈り物

※5月6日まで連日投稿します

 イグニヴァは机に頬杖をつき、不機嫌そうに眉をひそめながら口を開いた。


 その目にはどこか怒りとは違う、憤りのような感情が宿っていた。

 


「お前な、人間がいつまでも成長しないとか言ってるけどな。人間ほどバカみてぇに変わる生き物はいねぇんだよ。分かってんのか?」

「え……えっと……」


 

 突然の喧嘩腰な言葉にマキナは目を丸くし、戸惑いながらリベルへ助けを求めるような視線を送る。


 しかしリベルはそれを遮ることをせず、興味を惹かれたのか、静かにイグニヴァの続きを待っていた。



「そもそもこの世界の人間はな、昔は魔法すら使えなかったんだぞ。それを、自分たちの手で魔力を見出して、魔法を生み出したんだ。知識も何も無い時代にだ。これがどんだけの偉業か分かってんのか、あん?」

「は、はい……っ!」



 鋭く突き刺さるような視線に、マキナはただ頷くしかできなかった。

 

 理由は分からないが、その真剣な目に、軽々しく言葉を返す気持ちにはなれなかった。



「作物の育成に使えるよう工夫したり、建物づくりに応用したり、天から授けられた知識を元に、魔族に対抗できるまでに発展させたのも、全部人間の“知恵”と“努力”だろうが」

「それは……そうだけど……」



 イグニヴァの熱を帯びた言葉に、マキナも反論することができない。


 それでも、彼女の言わんとすることは、確かに胸へと響いていた。



「つまり、人類はいまも成長を続けているってことを……理解しろ、ってこと?」

「ちげぇよ、バカ」



 あまりにも即答で言い放たれた言葉に、マキナは肩をすくめ、「あぅ……」小さく涙目になる。



「じゃ、じゃあ一体どういう──」

「人間がこれまで刻んできた軌跡があるのに、それを自分で否定すんじゃねぇって言ってんだよ」



 その言葉に、マキナはハッとして目を見開いた。


 まるで何か、覆い隠されていた視界が開けたような感覚だった。



「人間ってのは困難や壁にぶつかっても、そのたびに知恵と経験で乗り越えてきた。だから発展してきた。だったらよ、他人に頼って変えてもらう進化じゃなくて、“自ら進んで変えようとする発展”を目指せよ。それが、本当の意味での成長なんじゃねぇの?」



 マキナは、言葉を返すこともできずに立ち尽くす。


 しかし、胸の奥てま何かがじんわりと熱くなっていくのを感じていた。



「“英雄”だからとか、そんな肩書きなんて関係ねぇんだよ。必要なものがあれば、人間ってのは勝手に吸収すんだ。だからこそ、魔族と戦えるようにもなったし、一部の国は平穏も保てるようになった。なのに、見えもしねぇ未来ばっか見て、これまで積み上げてきた過去に目もくれずに“成長出来ない”なんてよ。それじゃ、変えられるものも変えられねぇよ」


 


 核心を突かれる言葉の数々に、マキナは思わず目を伏せた。


 イグニヴァの言っていることは正しい。マキナは、自分自身で変える努力を、どこかで諦めていた。



 リベルの見せた、あの強力な魔法。


 それを見た瞬間、どこかで「自分では無理だ」と決めつけて、抗う気持ちすら手放してしまっていた。


 しかしそれでも、マキナの胸にはまだ迷いが残っていた。



「でも……私は魔法が得意じゃないし、自分で何とかしようにも……」

「得意不得意があるのは、しょーがねぇよ。アタシだって家事は苦手だしな」



 その発言に、ラヴィスが咳払いしながらジト目で睨み付け、イグニヴァは気まずそうに目を逸らしながら続けた。

 


「そういうのは“適材適所”って言うんだよ。魔法の発展が必要だと思うなら、魔法が得意なヤツに相談すりゃいい。自分で解決しようとする努力ってのは、何も“周りに頼るな”って意味じゃねぇからな」



 その優しい一言に、マキナは言葉を失い、ぐっと喉元で言葉が詰まってしまう。


 しばしの沈黙が場を包む中、ふいに優しいそよ風がマキナの髪を撫でた。


 頬をくすぐるような柔らかな感触に、マキナが顔を上げると、片腕に緑の魔法陣を展開したリベルの姿が視界に入る。



「これは、最初期に存在していたと言われる風の魔法だ。かつては、作物を育てるために気候を調整する目的で使われていたらしい」



 リベルの声に続くように、魔法陣がさらに大きく輝きを増す。


 その光に呼応するかのように、風が段々と力を帯び始め、次第に室内の家具や装飾品までもが揺れ出すほどの暴風へと変わっていった。



「これが発展した風魔法。より魔力を多く注ぎ込み、術式を追加することで風の出力を飛躍的に上げている。そして、“乱気流”のように風の流れを意図的に不規則にしている」



 先ほどまでの心地よい風はもはや影を潜め、突如吹き荒れる荒々しい風が部屋の空気を震わせる。


 その不快な風圧に、マキナの不安がじわじわと高まっていった。


 やがて、再び魔法陣が輝きを放つ。風が一気に収束し始め、小さな渦へと変貌していく。



「ここに“圧縮”の術式を加え、さらに“変形”の術式を組み込むと──」



 風の渦は形を変え、徐々に横に広がり始めた。そして、まるで刃のように鋭い形状を形作っていく。



「近年でも扱われる風の攻撃魔法──『風の刃(ウィンド・カッター)』になる」



 静かにそう告げられた瞬間、マキナの背筋がぞくりと震える。


 その魔法はつい先日、彼女の命を狙った魔族が使用していたもの。


 傷こそ残っていないものの、記憶の奥底からその時の恐怖と痛みががありありと蘇り、体が疼いてしまう。


 当然リベルが攻撃に移ることはなく、魔法はすぐに霧のように消え去ったが、それでもマキナは気づかぬうちに大きく息を吐き出していた。



「魔法が誕生してから今日まで、風魔法一つ取ってもこうして数え切れないほどの改良と発展を重ねてきた。そこには多くの人々の知恵と努力がある。当然、ジニアス・フェルクルクもその一人だ」



 リベルは残っていた魔法陣を手のひらで払うようにして消し去ると、柔らかい声で続けた。



「マキナ、君は確かに“英雄”かもしれない。だけど、平穏を願っているのは君一人じゃない。魔族との長い宿命を一人で背負う必要なんてないんじゃないか」



 その言葉が、静かにマキナの心へと刻み込まれていく。しかし、すぐに納得できるものでもなかった。


 魔族との幾多の戦い。


 その現実の重さが、今も心の奥で鉛のようにのしかかり、マキナを解放するには至っていなかった。


 鎮痛な面持ちで沈んでいると、不意に気配を感じて振り向く。


 するとそこにはラヴィスがいつの間にかマキナの背後に立っていた。



「失礼しますね、マキナさん。ご主人様の風魔法で髪が少し乱れてしまいましたので、お直しを」

「えっ!?い、いえ!髪なんていつも戦いでボロボロですし、大丈夫ですよ!」



 まさかの申し出に慌てて断ろうとするマキナだったが、ラヴィスは両肩をそっと押さえ、落ち着いた声で微笑んだ。



「そんなことありません。私、身だしなみには少しうるさい方ですから分かるんです。マキナさんの髪、とても丁寧に手入れされていますね」



 そう言うとどこから取り出したのか、小さな櫛を手に取り、慣れた動作で優しく髪を梳き始めた。



「大切にされているんですね。当たり前ですよね。“英雄”である前に、一人の女の子ですもの」



 その一言が、胸の奥で静かに温かく響いた。


 先ほどまで張り詰めていた心がふっと緩み、少しずつ、冷たく固まっていた感情が溶けていく。


 梳かれるたびに心が癒されていくようで、いつしかマキナの目頭には熱が滲んでいた。



「(……どうして、この人たちは……こんなにも自然に、私が欲しい言葉をくれるんだろう)」



 こぼれ落ちそうになる涙を必死にこらえていると、ラヴィスの手がふわりと髪から離れた。


 ふと、頭にかすかな重みを感じて手をやると、何かが髪に付けられていることに気づく。



「あれ?……こ、これは……?」

「“オネスティ”という花を模した髪飾りです。先日お会いしたとき、マキナさんが気に入っていたネックレスのお買い物を邪魔してしまいましたから、そのお詫びとして──」



 ラヴィスが手際よく手鏡を差し出すと、そこにはマキナの姿が映り、その髪には桜色の宝石があしらわれた美しい花飾りが輝いていた。


 その美しさに呆然しつつも、直ぐにハッと我に帰る。



「あ、あのっ……これ、おいくらですか?私、お支払いしますので!」

「ダメです♪」

「ダメですっ!?」



 にこやかな笑顔で断られ、思わず声を上げるマキナ。



「先程も申し上げました通り、これはあの時の非礼に対する謝罪の品です。ですから、お代は頂きません」

「そ、そんなのダメです!だって、私の方こそラヴィスさんに助けていただいたのに!」

「ダメです♪」

「だ、ダメです!!」

「……なんの譲り合いやってんだよ、これは」



 二人の軽妙なやり取りを、呆れ顔のイグニヴァが遠くから眺めていた。



「困りましたね……そんなに私の選んだ髪飾りが気に入らなかったのでしょうか……?」

「ち、違います!!とっても気に入ってます!!じゃなくて!!問題はそこじゃなくて……!!お礼をしたいのに、逆にされてばかりなのが……」



 マキナは思わず立ち上がって声を上げてしまう。


 すると、ラヴィスは少しだけ残念そうに微笑みながら、花飾りに手を伸ばした。



「……そうですか。では、いらないと仰るのであれば……」



 そっと花飾りに触れたその瞬間、ラヴィスは小さく呟く。



「また、握り潰してしまいましょう」

「ちょちょちょちょちょ!!??」



 マキナは慌てて一歩下がり、花飾りを両手で覆い隠すように守った。



「な、なんでそうなるんですか!?い、意外とパワフルですね、ラヴィスさん!?」



 当の本人は口元に手を当て、「フフフッ」と品よく微笑むだけだった。


 このままでは埒が開かないと思ったのか、ここでリベルが間に入る。



「貰ってやってくれマキナ。その髪飾りは、普段あまり自分の意見を言わない彼女が珍しく申し出て買ったものなんだ」



 リベルがそう告げると、ラヴィスは先程までの余裕がなくなり少し照れたような表情を浮かべた。


 尚も躊躇いはあったものの、このまま返せば冗談無しにラヴィスは握り潰しそうであった。


 様々な葛藤の末に、マキナはこれを素直にプレゼントされることに決めた。

※後書きです






ども、琥珀です。


GW企画4日目イェー


この間、空港に行ってきたんですよね

別に飛行機に乗るわけでもなく、ただ観光に


ただ呆然と飛行機を眺めていると、何だか心が落ち着くんですよ

どういう理屈なんでしょね?


本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は明日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。


評価やブックマーク登録、リアクションも大変励みになります。

もし面白い!面白そう!と思っていただけたら是非宜しくお願いします

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