↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァイス・リヴァイバル〜果てなき世界の調律録〜  作者: 琥珀
第1章 『The Maiden's Requiem』
119/120

118.前夜②

「はぁ〜やれやれどっこいしょ!」



 まるで年寄りのような気の抜けた声をだしながら、ディジーが貴賓室のベッドにドサッと腰掛けた。


 そのままぶっきらぼうに指を鳴らすと、パチンと乾いた音が室内に響き、恒例となった魔力の膜が二人の周囲に展開され、外界の音を完全に遮断して溶け込むように見えなくなっていく。



「ボクの予想通り、帝国は魔族との全面戦争を初めから企てていたね」



 張り詰めた静寂に包まれた空間で、ディジーは先程までの態度を捨て、ひどく冷ややかな声色で切り出した。



「……そうだね。拠点の状況と、『クイントスクーロ』の滞在が分かってからじゃ、あれだけの装備は直ぐには整えられないもんね」



 マキナが帝国に訪れていた時、いやそれよりももっと早い段階から、帝国は秘密裏に入念な準備を進めていたのだろう。


 あれだけの規模の莫大な資材と最新鋭の武器が既に用意されていたことを踏まえると、最初から魔族殲滅を狙って国を挙げて動いていたと見てまず間違いない。



「だから作戦会議の時に怪しいって言ったんだよ。こんだけ大規模の計画を企てておいて、しかも『クイントスクーロ』という規格外のイレギュラーもいるというのに、あんな無難な作戦をたてると思うかい?」

「それは……でも奇抜な作戦とかが毎回良いわけじゃないでしょ?ましてや今回は大規模な戦闘になるわけだし、帝国の王道鉄板の作戦を取るのは正しいんじゃない?」

「新型の装備を大量に作り、予め大規模な戦闘を仕掛ける算段を企てておいて、かい?」



『新型装備の量産』と『事前の準備』という二段構えで突きつけられた事実に反論の言葉を塞がれ、マキナは「うっ……」と小さく呻いた。



「……君のその、出来事を素直に受け止める面は美点だと思う。だからそれが間違いだとは言わない。だからこそボクが疑うんだ。この作戦には何か裏があるんじゃないかとね」



 褒められているのか遠回しに貶されているのか分からず、マキナは微妙な表情を浮かべる。


 しかしディジーの言葉の端々には、純粋なマキナが帝国の思惑に利用されるのではないかという懸念が滲んでいた。



「だが不幸中の幸いと言うべきか、『クイントスクーロ』の討伐という目的は一致しているし、遊撃という立ち位置も、この間のボク達が建てた作戦にも良い方向に働く。帝国の狙いが何なのかは分からないが、ボク達はボク達で、『空の器』奪取と破壊の目的を達しようじゃないか」



 ディジーの毒を持って毒を制するような割り切った物言いに、マキナは渋い表情を浮かべる。



「良いのかな……皆さんが真剣に戦っている場で、他のことに現をぬかして……てぇ!?」



 言葉の途中でディジーが一気に距離を詰め、マキナの肩を勢い良く強く掴んだ。



「マキナ、君の言いたいことや不満は分かる。だが、あの日あの時、君も感じたはずだ。『空の器』から発せられた凶悪な魔力を」



 ディジーの鋭い言葉の圧によって、マキナもあの日の『空の器』から感じた、魂を根源から揺さぶられるような恐怖がフラッシュバックする。


 あの透明な器の中で無限に渦巻いていた、悍ましくも圧倒的な魔力。


 何としてもこれは破壊しなくてはならないと、身体の隅々にまで本能が警鐘を鳴らして訴えかけてきた。


 もしあの場に『クイントスクーロ』という絶対的な脅威が居なければ、間違いなく後先考えずに即座に破壊を試みただろうという程の異常さであった。



「君が魔族との争い全般に関わる重い責を負っているのは重々承知だ。だが、だからこそ、『器』の破壊を何としても行わなければならない。破壊できれば人類の勝利に大きく傾き、もし『器』に魔力が満ち、『魔王』が生まれれば、人類は滅亡に傾く。君にとっても、最優先の事項のはずだ」



 その表情は鬼気迫るものがあり、これまで見てきた彼女の飄々とした態度のなかでも、ひと際緊迫感のあるものであった。



「う、うん……そう、だね」



  あまりの剣幕に困惑した声で答えると、ディジーはハッと我に帰り、今の自分の強い言動に痛くショックを受けた様子を見せた。


 フラフラと糸が切れたように身体を揺らし、力なく自身のベッドに座り込む。



「……ごめん。君を責めるつもりは……君に強制するつもりは無いんだ……」



 さっきまでの鬼気迫る表情から一転、ディジーはひどく取り乱したように視線を彷徨わせ、激しく動揺していた。



「ディジー……?」



 その余りの豹変ぶりに困惑して声をかけると、ディジーは両手で顔を深く覆い、苦しげに大きくため息を吐き出す。



「結局ボクも、他の輩と同じ穴のムジナだったってことか……」



 その気落ちは半端ではなく、今までの明るく快活な性格が嘘のように、深く暗く沈み込んだ雰囲気を纏っていた。


 マキナの純粋さを利用し、自らの目的を無理やり押し付けようとしてしまったこと。


 その無意識の傲慢さにハッと気づき、打ちのめされたような痛々しさが彼女の全身から滲み出ていた。



「ディジー……大丈夫?」



 マキナが心配して再度優しく声をかけ、ようやく彼女は顔から手を離し、暗いながらもその顔をマキナの方へ向けた。



「ごめん……取り乱して。もう大丈夫だよ」



 表情はいまだ険しく、大丈夫とは程遠い状態にあるように見えたが、それでも先程よりは少し落ち着いている。



「強制はしないとは言ったが、ボクはやはり『空の器』の破壊は優先すべきだと思う。あれだけの魔力を伴った『魔王』が生まれれば間違いなく人類は窮地に陥る。だから誕生する前に手を打つべきだ」

「……そうだね。魔族達との戦いを放棄するわけじゃないし、むしろその目的さえ達成できれば、私も心置きなく戦闘に集中出来るし……昨日話した作戦通りでやろう」



 マキナがディジーの心情を深く汲み取ってそう返すと、ディジーは目を見開き、そしてどこか安堵したような表情を浮かべて小さく微笑んだ。



「でもディジー、『空の器』の奪還は良いとして、『クイントスクーロ』とはどうやって戦う?帝国の新装備を見て、何か変わった?」

「ふむ……」



 ディジーはいつものように顎に手を当てて真剣に考え込む。



「まぁ正直、あの三つの新装備には驚かされた。あの装備を十分に使いこなせるのなら、人類側の勝率は大きくあがるだろう。そうだね、六割はいくかもしれない」

「六割!?」



 前回聞いた二〜三割という確率よりも大きく跳ね上がり、マキナは思わず驚きの声を上げてしまう。



「だが正直、ここに『クイントスクーロ(イレギュラー)』が加わったらどうなるか分からない。例えば、ガディールは魔法を分解出来ると説明したが、『クイントスクーロ』が本気を出せば、『ディスラプト・オア』の出力を力技で超えて制御することも不可能じゃないだろうからね」



 ディジーの口から語られるその技量に、マキナは固唾を飲むも、その後でふと何かを考えついたのか、そっと尋ねる。



「……ディジーも出来る?」

「当然だとも!!ボクは天才だからね!!」



 不安を吹き飛ばすように高らかに胸を張って発言するディジーの様子を見て、マキナはホッとして小さく笑みを浮かべた。



「ふふっ!良かった、調子戻ってきたみたい」

「むっ……」


 マキナを安心させるためにうまく乗せられたことに気が付き、ディジーは一瞬悔しそうな表情を浮かべるも、マキナの優しい笑顔を見てすぐに毒気が抜かれたのか、ディジーも釣られて小さく笑みを浮かべた。



「しかしあれだな。君……笑顔くっそ可愛いな」

「えっ!?」

「ボクだから耐えられたけど、男女問わず心を奪う威力があるから、人前でやらない方が良いよ」

「笑うのを!?」

「そう。取り敢えずボク以外の前ではずっと兜被ってた方が良い。秩序が乱れる」

「平和のために戦ってるのに!?」



 真顔でろくでもないアドバイスをするディジーに、マキナが思わず突っ込む。


 冗談めかしたくだらないやり取りに、やがて二人は堪えきれずに吹き出し、声を上げて笑い合う。


 命懸けの決戦を間近に控えながらも、この時の二人には、重苦しい緊張感は微塵も存在していなかった。

※後書きです



マキナ「ねぇディジー。前々から私のこと褒めてくれるけどさ……」

ディジー「ん?うん」

マキナ「わ、私って……その、それなりには、可愛い、のかな……?」

ディジー「君ちょっと無自覚過ぎるってほんと」




本日もお読みいただきありがとうございました。

次回の更新は金曜日の朝7時頃を予定しておりますので宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。