110.協力要請
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翌朝。
ガディールの呼び出しを受け、二人は帝国の軍事基地へと向かっていた。
移動には専用の馬車が用意されるなど相変わらずの高待遇での移動であり、最初は警戒して行き渋っていたディジーも、途中からは馬車のフカフカな座席で悠々自適に寛いでいる。
「う〜ん、君と一緒だと色々と融通が利いて楽だなぁ。これからずっと君と一緒に行動しようかなぁ」
「私を便利な優待パスか何かと勘違いしてない?」
二人が移動の最中にそんな緊張感に欠けるやりとりをしていると、ガタンッ!という揺れとともに馬車がピタリと止まった。
「マキナ様、プロディジー様、お待たせしました。司令室で最高執政官がお待ちです」
馬車のドアを開けた兵士がその場で恭しく頭を下げ、二人を見送った。
マキナがこの軍事基地に来るのは二度目であったが、以前と同様、その時以上に大量の物資や武器が所狭しと置かれている。
行き交う兵士達は明らかに殺気立ち、ヒリヒリとするような殺伐とした雰囲気が周囲に広がっていた。
「(国民だけじゃなく、ここもか……いや、寧ろここが帝国の今の不穏な雰囲気を作り出している根源なのか)」
ディジーは顔の向きはそのままに、視線だけを動かして周囲の状況を細かく確認する。
「(想像以上の武器の数……だけじゃないな。あちこちに魔道具や、そのための様々な資材も大量に積まれてる。十中八九、大規模な戦闘や侵攻作戦を企てているね)」
視界に入る情報を瞬時に積み上げ、ディジーは自身が昨晩たてていた仮説がほぼ正しいことを確信した。
物々しい通路を数分進むと、基地の中心部にある広い司令室へと辿り着き、その中央には既にガディールが待っていた。
彼がマキナ達に気がつくと、恭しく頭を下げて二人を室内へと招き入れる。
「ご足労いただき感謝致します、マキナ様、プロディジー殿」
中央に設置された巨大なホログラムの側まで二人が近寄ると、ガディールは神妙な面持ちで静かに話し始める。
「実はお二人に、改めてご協力の申し出をさせていただきたく、お呼び出しさせていただきました」
声色は丁寧で依頼するために下手に出ている様子であったが、その実は、必ず二人の協力を取り付けるという絶対的な強かさを背後に感じさせた。
「協力というのは?」
マキナもその重いプレッシャーは感じただろうが、一先ず話を聞かなければ分からないと判断したのか、兜の中で一切の表情を見せずに淡々と尋ねた。
「先ず、マキナ様達から頂いた貴重な情報をもとに帝国の偵察部隊を送りましたところ、想像以上の事態であることが発覚致しました」
ガディールの勿体ぶった物言いに、マキナとディジーが警戒を含んだ視線を交わす。
二人の反応を確認したガディールは手元のホログラムを起動し、「こちらをご覧ください」と光る盤面を指し示した。
『クイントスクーロ』と『空の器』が存在していたあの岩峰が、ホログラムに立体的に映し出される。
そこには、その広大な岩峰の各所に赤い点が点在しており、それが隙間なく、幾重にも重なるようにして無数に存在していた。
「……この、赤い点は?」
マキナがホログラムを指差して尋ねると、手を顎に当てて考え込んでいたディジーが、忌々しげにポツリと推測をこぼした。
「……魔族か」
その言葉にガディールが深く頷くと、マキナは信じられないといった様子で二人を見た後、再度ホログラムの赤い点に目を向けた。
「……この、赤い点が全部、魔族?」
マキナが驚愕するのも無理はない。
いまホログラム上には、数え切れないほどの夥しい数の赤い点が表示されているのだ。
幾多の過酷な戦場を駆け抜け、数え切れないほどの魔族と戦ってきたマキナと言えど、一度にこれだけの数の魔族の反応を目にしたことはないからだ。
「どうして、こんなことに……」
「ハッキリとした理由は不明ですが、お二方の仰っていた『聖遺物』の存在が影響しているのは間違いないでしょう」
『聖遺物』、即ち『空の器』のことだ。
二人はウィガード達に報告するにあたって、1から100まで全ての事情を話すのは危険で信じられないというディジーからの申し出で、『空の器』の詳細を敢えて伏せていた。
重大な報告を誤魔化すことはマキナとしても憚られたものの、マキナも『空の器』には思うところがあったため、その隠蔽に同意していたのだ。
結果として、帝国には膨大な魔力を伴った『聖遺物』としか報告しておらず、ガディールが『聖遺物』と口にしたのはそのためである。
「どういうものであるかは私には分かりかねますが、お二人がその『聖遺物』を目にしたことで、魔族共が臨戦態勢に入ったものではないかと思われます」
この考察内容に、二人は賛同するように頷いた。
あの時『クイントスクーロ』の打つ手としては、マキナ達二人を逃がした後に、『空の器』ごと姿を消して隠れることは容易かった筈だ。
しかしそれならば、あの場で二人を仕留めてしまえばより簡単に済んだ話であり、それをしなかったということは、敢えて所在を知らせて誘い込んでいるとも取れる。
「つまり、『クイントスクーロ』は予めボク達の追撃を予測して仲間を呼び寄せているわけだ」
「私も同様の推測をしております」
ディジーが渋い顔で考えを述べると、ガディールも賛同するように頷いて答える。
「ですが一方で、我々はこれを好機とも捉えています」
「好機……ですか?」
ディジーが怪訝な顔を浮かべる横でマキナが問い返すと、ガディールは再び頷いた後に、ホログラムへと野心的な目を向けた。
「魔族との戦いは100年にも及びます。先代『英雄』の活躍により、我々人類は今の生活を維持できるほどに領土を取り戻せてはいますが、戦争の終わりは未だに見えていません」
先代『英雄』。
その名前を聞いた時、マキナの身体に僅かに緊張が走るが、誰にも気付かれないように兜の中で小さく呼吸を整える。
「しかし、これだけの魔族をもし一網打尽に討伐できれば、一気に形勢は傾きます。そのため、我々スカラビア帝国はこの好機に際し、大規模な殲滅作戦を決行したいのです」
ガディールの野心的な宣言がもたらすであろう未来を想像し、マキナは兜の奥で唇を噛み締め、ディジーはやはりそう来たかと言いたげに目を伏せていた。
「しかし、『クイントスクーロ』だけならまだしも、集結した魔族もこの数だ。見た感じ1000近くはいる。この規模に対抗するための戦力は、いかに帝国といえど無いんじゃないかい?」
昨晩とは見解が異なっていたが、ディジーとしても流石にここまでの数は想定外であったのだろうという様子が窺える。
「仰る通りで御座います。現在の帝国兵は一万人近くはいますが、実戦投入出来るのは8000人程でしょう」
「それじゃあ死にに行くようなものだ」
ガディールの返答に対し、ディジーは明確に拒絶の意を示す。
「並の魔族一匹を抑えるのに兵士十人がかりがベースラインだ。それに上位個体がいるならその数は更に増えるし、『クイントスクーロ』まで居るとなれば単純な数だけじゃ計算しきれない」
ただ否定するのでは無く、その理由と根拠を述べることで、ガディールの論じ伏せようとする。
「いくらボクやマキナが居たところで、覆せる戦力差じゃない。そんな見え透いた自殺行為に巻き込まれるのはゴメンだね」
ガディールから与えられた絶望的な情報を聞き、ディジーは表情を険しくし、改めてハッキリと拒絶した。
マキナとしては『英雄』としての立場と使命もあるため、無闇に作戦を拒否することは出来ない。
しかしそれでも、この圧倒的に不利な場においては、ディジーの言う発言内容の方が正しいと感じ、今は口を挟まない。
「その懸念はごもっともで御座います。そして無論、我々も無策ではありません。その解決案をご用意しております」
こちらの様子を伺ってから後出しで解決案を出すやり口が心底気に入らないという表情を浮かべながらも、ディジーはガディールの言う解決策を黙って待つ。
ガディールはホログラムを操作し、立体マップの画面を消すと、代わりに複数の特殊な魔道具と思わしき道具の設計図がいくつも表示されていった。
「こちらが、その解決案で御座います」
※後書きです
マ「ディジーって、私以外に当たり強くない?」
ディ「なんで好きでもない奴に媚び諂わなくちゃいけないんだよ」
マ「……(照)」
本日までお読みいただきありがとうございました!
次回の更新は月曜日の朝7時頃を予定しておりますので、引き続き本作を宜しくお願いします。




