103.侵入
※100話到達記念で16日まで連日更新します!!
ディジーの用意した『遮断隠密ローブ』に身を包み、二人は微かな魔力の揺らぎを頼りに移動し続けていた。
やがて周囲の景色が険しい岩山地帯へと変貌し、巨大な岩肌が連続する場所に差し掛かったところで、ディジーの足がピタリと止まる。
「……ここだ」
ディジーが見上げるようにして視線を向けた先には天を突くほどに一際大きな岩峰が聳え立っており、説明を受けるまでもなく他とは違うひどく異質な雰囲気を漂わせていた。
「……私でも分かる。何か……嫌な気配を感じる……」
ディジーの指し示した岩峰を見つめるマキナの表情が険しさを増し、警戒するように周囲へ視線を配る。
「でも……こんなに異質な気配を放ってるのに、何で今まで気付けなかったんだろう?」
マキナがもっともな疑問を口にすると、ディジーは不気味な岩峰から目を離さないまま、感心したように小さく笑みを浮かべて答えた。
「それは、この岩峰全体に『認識阻害』の魔法がかけられているからかな。しかも意識を無意識下で逸らす効果に並行して、集中して見ようとすればするほど焦点が自然とそれるような、高度な魔法の組み合わせがされてるみたいだね」
「『認識阻害』魔法……こんな大きなものにもかけられるんだね……」
マキナの口からボソッと溢された言葉を聞き逃さず、ディジーは訝しげに眉を顰める。
「……何だか初めて見る感じじゃなさそうだね。『空間魔法』の時もそうだったけど、未知の魔法を見て驚いたという感じじゃない。寧ろ……それを使える者が他にいることに驚いたといった様子だ」
「う、うん、前に一度だけ……」
鋭い観察眼でグイグイと詰め寄ってくるディジーにおずおずとしながらも、マキナは視線を泳がせて何とか頷く。
「誰に?」
「り、リベルさんって人……さっき見せた宝石をくれた人の主さんだよ」
「リベル……リベル……?聞いたことがない名前だ。まさかこの魔法を使える者が現れるとは……」
ブツブツと呟きながら手元を見つめて考え込むディジーであったが、やがて何かを閃いたようにマキナの方へと勢いよく向き直る。
「もしかして、あの宝石から感じたものは……」
ディジーはマキナの言葉をヒントに結論を出したのか、結局は自分の中だけで自己完結し、一人で何かの事実に深く納得しているようだった。
「気にはなるが……まぁ、害はなさそうだから放っておいても良いか」
そう小さく呟いてあっさりと興味を断ち切ると、ディジーは踵を返し、再び目の前に聳える巨大な岩峰へと目を向ける。
「さて、話はここまでにして……いよいよ侵入だ。準備と覚悟は良いかい?」
「勿論。改めて確認しなくても大丈夫だよ」
マキナの表情はひどく硬いもののその決意は揺るいでおらず、寧ろ案内役であるディジーの方が、彼女の覚悟に改めて気を引き締め直す立場にあった。
「よし、じゃあ行こうか」
⚫︎⚫︎⚫︎
荒れた外壁伝いに進みながら、二人は周囲の岩肌にカモフラージュされるように開いた、やや大きな亀裂を発見し、そこから静かに内部に侵入した。
内部は外気温に比べて非常にひんやりと冷え切っており、太陽の光が届かないことも相まって思わず身震いしてしまいそうになる。
しかしそれ以上に二人の肌に粟を立たせたのは、内部の空間に満たされている異常なまでの魔素の濃度であった。
「なに……ここ……息が詰まりそう……」
「魔素がすごい濃いんだよ。通常の大気の魔素の何倍も濃いから、魔力を感じられる者にとっては水中にいるように息苦しく感じるんだ」
ディジーも澄ました顔こそしているがマキナと同様の圧迫感は感じているのだろう、その口調はどこか重苦しく慎重だった。
「呼吸を楽にすることは出来るんだが、気付かれないように出来る限り魔法は使いたくない。悪いが我慢してもらえるかい?」
「これくらい全然大丈夫。ちょっとビックリしただけだから」
マキナの強気な言葉に頷き、ディジーはローブのフードを深く被り直して警戒しながら先へ進むと、マキナも足音を殺してそれに続く。
薄暗い裂け目の中を進んでいく中で、マキナはふと足元や壁の違和感に気付く。
「これ、ただの割れ目かと思ったら、人為的に作られてるみたい……岩の凹凸が少ないし、それに道が直線的で広すぎるもん」
岩肌を撫でて確信したマキナの分析を、ディジーも周囲を見渡しながら肯定する。
「そうだね。雑ではあるが、人が進みやすいように整えられているようだ。『認識阻害』魔法もかけられていることを踏まえると、ここが奴らにとって非常に重要な拠点のようなものであるとみて良さそうだね」
慎重に手を着きながら更に壁沿いに奥へ進んでいると、突然マキナがディジーの肩を力強く掴んで止めた。
「マキナ?どうしたんだい?」
不意に止められて問いかけたディジーに対し、マキナは道の先の方へと鋭い目を向けたまま静かに答える。
「……この先から、魔族の気配がする。真っ直ぐ道なりに進むのは危険かも」
マキナの口から発せられた確信に満ちた警告の言葉に、ディジーは目を開いて驚く。
「なんで分かったんだい?魔力探知を使った?」
どうやって探知したのかとディジーが問い返すと、マキナは首を横に振った。
「気配みたいなのを感じたの。微かな魔族特有の臭いとか、ピリつく肌感とか、何かそんな感じの……」
これまで様々な魔法や知識で驚かす側だったディジーが、この時ばかりは人間の野生的な感覚に驚かされる側に回っていた。
「ボクも大概だが、君も相当だね。ボクには全然わからない感覚だ……」
理屈を超えた五感に唖然とするディジーを横目に、マキナは辺りを見渡し、頭上高く連なった険しい岩壁の上を指差した。
「ここを登って、上から見下ろすようにすれば、見つからないで済むかも」
指さされた方へ目を向けると、そこは足場もろくにない断崖絶壁のような高さの岩壁がそそり立っているだけであった。
「……え、登る?これを?」
「うん。登ろう」
再び上に視線を向けるも、その天辺は暗闇に飲まれて見えるか見えないかと言うほどに途方もなく高い。
「いや、これを登るのは……」
「私背負おうか?ちょっと鎧が痛いかもだけど」
流石に冗談かと思いきや、マキナは真っ直ぐな瞳で至って真剣に提案しているようであった。
束の間の沈黙を、マキナはディジーが鎧の硬さを嫌がっているのだと勘違いしたのか、更に恐ろしい提案を続ける。
「それかあそこまで投げようか?届くかどうかちょっと怪しいけど、多分何とか届k……」
「背負って下さい」
更に過酷なチャレンジという選択肢を突きつけられ、ディジーは迷うことなく背負われることを決断した。
⚫︎⚫︎⚫︎
背負われること数十分。
本当にひと1人背負ったまま垂直に近い絶壁を登り切ったマキナの人間離れした膂力に驚愕しつつ、二人は身を屈めながら高所からの移動を再開する。
先に進むほどにディジーの肌にも強力な気配がビリビリと感じられるようになり、マキナの感覚が正しかったことを明確に表していた。
やがて、岩崖よりも更に天井が高く広いドーム状の空間に辿り着き、二人は岩の縁にうつ伏せになりながら下の様子を慎重に伺った。
暗くてハッキリと視界には映らなかったが、遥か下の空間には異様なプレッシャーを放つ四人の人影があるようであった。
「(ディジー……)」
「(うん、間違いない。あれが残りの『クイントスクーロ』だ)」
絶対に聞き取られないよう最小限の微かな声で言葉を交わすが、距離が離れすぎているため二人も四人の会話までは聞き取れなかった。
「(……?ディジー、なんか、あの奥からもっと別の気配を感じない?)」
マキナに指摘されてディジーも意識を奥へと向けると、四人の魔族とは違う、得体の知れない異質な気配を確かに感じ取った。
ディジーはしばし考え込んだ後、何か最悪の事態に思い至ったのか、目を見開き瞳を恐怖に震わせていた。
「(まさか……魔族が最後の一つを!?)」
ディジーは顔を青ざめさせながらそういうと、這いずりながらさらに奥へと進んでいき、マキナは戸惑いながらも慌ててそれに続いた。
※後書きです
ディ「君とかくれんぼしても、直ぐに見つかりそうだね」
マ「そうなんだよね。だから、訪問先で一緒に遊んでた子どもに遊びに誘われなくなっちゃって……」
ディ「気の毒でしょうがないよ。子ども達が」
本日もお読みいただきありがとうございました。
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