10月31日(木)-15
キャンプ場に、私は圭と水葉嬢と共に帰ってきた。友重さんに報告しに行くと、彼女は「よかった」と言って涙ぐんだ。
「無事で、良かったです。本当に、どうしようかと思ってて」
「御心配をかけました。こうして無事ですし、ついでに半年ごとにお邪魔することになると思います」
水葉嬢がそう言うと、友重さんが「え?」と返す。突然のことに、涙も引っ込んだようだ。
「別案件で、半年ごとにここに来ることになったんだ。とりあえず、キャンピングカーで来ると思うんだけど、予約した方がいい?」
圭が尋ねると、友重さんは「いえ」と首を振る。
「満員になること自体がないキャンプ場ですので、大丈夫だと思います。ただ、そうですね、念のために一週間前に、確認の連絡をしていただけますか?」
「分かった」
圭はそう言って笑う。友重さんもつられて笑った。
「友重さんのご依頼については、詳しい事情を説明できないと思います。近々、上の者が簡単に説明すると思いますけれど、私達がここでお話しすることはできないんです。すいません」
水葉嬢はそう言って、頭を下げた。友重さんは「いえ」と返し、それから静かに微笑んだ。
「私の違和感が気にしなくていいもので、調査に来て下さったお二人が無事で、それだけでもう十分です。私、キャンプ場経営をここでやって大丈夫だってことが、一番知りたかった事なので」
「ありがとうございます。では明日、帰ろうと思います。一応、こちらにサインを」
水葉嬢はそう言いながら、友重さんの前に、文字がプリントされた紙を差し出す。依頼をとりあえず終えた、というようなことが書かれてある。
友重さんはそれにサインし、ほう、と一息ついた。
最初に感じていた違和感も、それについて相談したことも、調査中にいなくなった調査員も、一先ず解決したことに安堵したのだろう。
「ありがとうございました」
小屋を後にしようとする私たちに、友重さんは頭を下げた。それに対し、圭も水葉嬢もただ微笑んで頷くのだった。
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小屋から出ると、既に辺りは真っ暗になっていた。キャンピングカーの辺りが光っているのがなんだか嬉しい。
「やっと、思い切り食える!」
圭が伸びをしながら嬉しそうに声を上げた。普段の食欲の事を考えれば、楠木さんが出してくれたご飯では足りなかっただろう。まさか「おかわり」とは言えないだろうし。
「そうねぇ。こうして穏便に出て来れるとは思わなかったもの」
水葉嬢も笑いながら言う。
「穏便にって……」
苦笑交じりに言うと、水葉嬢は「あら」と言って私の方を見る。
「圭ちゃんとも言っていたんですよ。そろそろ力づくで出るかって。おじさまが村に来たことが分かったから、もうちょっと待ってみようかってなったのですけれど」
「ちなみに、力づくって言うと……」
「力は抑えられていましたけど、振り絞ればできないこともなかったので、私の力を圭ちゃんに喰ってもらおうかと思っていたんです」
ぴた、と私の足が止まった。
「圭君に、力を食べてもらうって」
「私の力は、想創。思い描けば、作り出すことができるものです。だから、鳥とか蝶とか縄とか……とにかく、圭ちゃんの檻の方に力を飛ばせば、それを圭ちゃんが喰らって檻を破ってもらおうと思っていたんです」
「君は、圭君は、大丈夫なのかい?」
「そうですねぇ。無理に力を出すから私は動けなくなりそうですし、圭ちゃんは自分に合わないものを無理に喰らうから、何らかの副作用が出ていたかもしれません。まだ試したこともないですから、何とも言えないのですけれど」
大丈夫ではなさそうだ。
不安そうな私に、水葉嬢は「大丈夫ですって」といって笑う。
「圭ちゃんさえ自由になれば、私を抱えて逃げるか、最悪私を捨ておいてでも浄華に連絡できるでしょう? そうすれば、必ず助けが来ますもの」
しかし、圭には何らかの副作用が出ているかもしれないし、水葉嬢は動けなくなっているし、華嬢も大きく動くことになるし、下手すると事件になっていたかもしれない。
なるほど、確かに穏便だ。
今こうして在るのは、穏便に進められた結果なのだ。
私は大きく息を吐きだす。水葉嬢が「おじさま?」と慌てたように声を出す。
「よかったよ。君たちが無事で、楠木さん達も何もなくて、本当に良かったよ」
私が安堵の声を出すと、水葉嬢が笑った。心から、嬉しそうに。
「おっさん、水葉、早く行くぞ。めっちゃお腹空いた」
なかなかやってこない私たちに、圭が声をかける。私は水葉嬢と顔を合わせ、キャンピングカーのある場所まで足早に向かう。
良い匂いがすでに漂ってきていた。




