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10月31日(木)-9

 檻の隙間から、圭が手を出す。肘くらいまでは、外に出せるようだ。


「おっさん、かがんで」


 圭に言われ、私はその場にしゃがみこむ。ちょうど、私の肩辺りに伸ばせるように。

 圭は私の肩の辺りで何かを掴む。掴み、引っ張り、口元へと持って行く。


 金色だ。

 目が、金色に光る。


「え、なんで」


 章くんが目を見開く。が、圭は気にする様子もなくただ笑みを返し、ぐ、と両手で檻を掴む。


「せえの!」


 そう気合を入れたのち、ぐに、と檻の棒を曲げた。

 ぎりぎり、人が出れるくらいに。


「圭ちゃん、力持ちじゃない!」


 ぱちぱち、と水葉嬢が手を叩く。圭は「ふう」と息を吐きだしつつ、に、と悪戯っぽく笑う。


「どうして、そんな」


 章くんはただただ驚き、曲がってしまった棒に触れる。

 ちょっとやそっとで曲がりそうにない、鉄の棒を。


「圭ちゃん、こっちもお願い」


 水葉嬢の言葉に、圭は「ん」と頷き、もう一方の私の肩へと手を伸ばす。何かを掴み、ぐいっとひっぱり、口元へと持って行く。

 再び、目が金色に光る。

 あとは先程と同じように、水葉嬢の入っている檻の棒を曲げてしまう。

 水葉嬢は「やっと出れるわ」と笑いながら言い、下りの外へと出てきた。狭い場所に閉じ込められているので、筋力が落ちているのだろう。ふら、とふらついている。


「大丈夫?」


 ふらつく水葉嬢を受け止めると、彼女は「はい」と返事をしながら、頬を赤く染めながら笑った。照れ屋なのかもしれない。


「圭くん、どうするんだい? 私の目的は、君たちを見つけるだけだったんだけど」

「うん、なんかおっさんの気配がしてたから、そうかなって思ってた。さっさと見つけてくれたらいいのにって思ってたんだけどさ」


 無茶なことを。

 苦笑しつつ、ふと思い出す。


 この場所に着たきっかけは、小さな紙飛行機だった。よれよれだったけれど、その紙飛行機のお陰でこうして圭たちを見つけることができたのだ。

 更に、章くんがいてくれたから、忍び込まずに済んだ。私がこの村に来ていることが分かっており、尚且つタイミングを図っていたのだとしたら。


 私がそう考えつつ、圭と水葉嬢を見ると、二人は笑って頷く。


「圭ちゃんから、おじさまの事は聞いていたわ。だから、いいタイミングで私たちの存在を知らせることができたなら、勝てると思ったの」

「あの紙飛行機、やっぱり水葉さんが?」

「本当は、もっと違うものを生み出したかったの。鳥とか、蝶とか。だけど、能力を抑えられてしまってて」

「能力を抑える? それは、ここが神社だから? それとも、楠木さんが何らかの能力者だとか?」


 私の問いに、水葉嬢と圭が顔を合わせた。なんとなく予想しているけれど、確信はない、といったところだろうか。


「なんなんだよ……」


 しん、としたこの場で、章くんの声が響く。


「いったい、なんなんだよ。俺の家で、屋根裏で、二人いて。父さんが閉じ込めたって」


 混乱したように、章くんは言葉を続ける。

 暗かった表情は、今や恐怖と驚きに変わっている。訳の分からない出来事が立て続けに起こっている。

 己の常識さえも、覆すかのように。


「変だと思っていたら、俺の家に知らない人がいて。知らない人たちは父さんが閉じ込めて。すごい力をもってて。何なんだよ……いったい、何なんだよ!」

「章くん……」


 何と声をかけてよいのか迷っていると、梯子の下から「章?」という声が聞こえてきた。

 楠木さんだ。

 圭たちの方を見ると、二人ともじりじりと前ににじり寄っていた。私を護るかのように、立ちはだかる。


 一応、私は大人なのだけれども。

 私が逆に、先頭に立たないといけないのではないだろうか。


 そんな風に考えていると、梯子を上る音が聞こえた。

 きっと、もう楠木さんは分かっているのだ。

 章くんがここを案内し、楠木さんが隠していた事を暴いてしまったことを。

 私は、ごくり、とつばを飲み込んだ。

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