10月31日(木)-8
屋根裏部屋は、とても暗かった。
空気の入れ替え用らしい、小さな窓がポツンとあるだけだ。それだけでは屋根裏部屋全てに光を渡すことはできない。そして、窓から入った光が照らすのは、何もない空間だけだ。
「電気、つけますね」
章くんはそう言い、手探りで壁にあるらしい電気をつける。
光を受けて晒された部屋内は、神社で使うらしい太鼓などの楽器や神輿、衣装がかかったクローゼット、箪笥、扇風機などの季節用品などが置かれていた。
ぐるっと見回すが、人の姿はない。
(間違えた?)
私は考え、頭を振る。
いや、恐らくここで間違いないはずだ。きっと、いや、絶対に。
ぎし、という床が軋む音をさせ、私は歩く。ちょっと震えていたからか、その軋む音すら心臓を撥ねさせた。
「あの……誰かいますか?」
私は問いかける。すると、がた、と奥の方から音がした。
箪笥などの大きなもので分かりにくいが、奥の方にまだ空間がある。
そちらに向かって行くと、壁が現れた。
壁だ。
もうここで終わりだ、と主張するような、壁だ。
「どうして」
私が呟くと、章くんは少し考えたようにしてから、壁を触り始める。
「あの……ここ、変な隙間がないですか?」
章くんに言われ、壁をよく見る。確かに、筋のようなものが入っている。
その筋を辿ると、まるで、ドアのようにも見える。
「隠し扉かな?」
私の問いに、章くんは「そうかなって」と頷く。おそらくは、住んでいる章くんも知らない場所だ。
私は筋を辿りつつ、手が引っかかりそうな場所を探す。ドアのようになっている部分をひたすらぺたぺたと触っていると、薄い穴のようなものを見つけた。
取っ手のような、四角い穴。
私は意を決し、穴に手をかけ、前後左右に小さく揺らす。押すのか、引くのか、横に動かすのか、どの方向に動く変わらないからだ。
カタカタと動かしていると、ギイ、という音をさせながら押すことができた。押戸だ。
「開いた……」
章くんが、ごくり、と唾をのむのが分かった。違和感の正体が、この奥にあるのかもしれない、とドキドキしているのだろう。
私も、ドキドキしている。
戸を開け、中へと足を踏み入れる。入って右は壁で、左には柵がされた小部屋が二つ、並んでいる。
部屋の中には、布団と、小さなトイレが設置されていた。まるで監獄だ。
薄暗い檻の中、ごそ、と何かが動いた。震える足で進み、薄暗闇に慣れてきた目をぱちぱちさせ、私は問いかける。
「圭くん?」
私の問いかけに、はあ、という大きなため息が響いた。そしてその後、呆れたように、それでいて嬉しそうに、声が響いた。
「おっせーよ、おっさん」
声の主は、そう言って笑った。
紛れもなく、探していた圭だ。
「圭くん、無事だったんだね!」
私が檻に駆け寄ると、圭は「うーん」と言いながら腕を組む。
「これを無事と言っていいのか、いまいちわからねぇけど」
「あら、無事と言っていいんじゃないのかしら。生きてるし」
女性の声がし、隣の檻を見る。肩までの黒髪に、目鼻立ちがはっきりとした美少女がそこにいた。
「ええと、君が穴吹 水葉さん?」
「はい。気軽に、水葉って呼んでくださいな、おじさま」
にこ、と水葉嬢が挨拶した。さすがに呼び捨てはまずい。
「穴吹さんが、紙飛行機を?」
「ええ、力が足りなくて、ちょっとだけ血を媒体にしましたけれど」
水葉嬢の言葉に、紙飛行機の中にあった赤黒いしみを思い出す。
振り絞ってくれたのか、と胸がじんとする。
「助かったよ、穴吹さん」
「水葉でいいですって。なんなら、みずりんでもいいですよ」
「水葉、みずりんとか言われると馬鹿みたいだぞ」
「分かってないわね、圭ちゃん。私をみずりんって呼んで馬鹿みたいって思われるのは、おじさまの方なのよ」
なかなかに強かだ。そして、元気そうだ。
「じゃあ、ええと、水葉さん。体は大丈夫かい?」
「はい。適当に食事だけは下さっていたので」
「だから、最近、冷蔵庫の中が急に減ったりしてたんだ」
私の後ろで、章くんが一つ疑問を解決していた。
だが、その顔は暗い。
無理もない、自宅の屋根裏部屋に、知らない人間が二人もいたのだ。しかも、檻に入れられて。
「この檻、なんとかならないのかい?」
「意外と頑丈なんです。だから、交渉を重ねてはいたんですけれど」
水葉嬢はそう言い、ため息をつく。
このような状況でも「交渉」とは、本当に強い。強くて、カッコイイ。
「父が、なんか……すいません」
章くんが、圭と水葉嬢に頭を下げた。
「私たちをここに入れたのは、あなたのお父さんであって、あなたじゃないからいいんじゃない?」
「謝られても、どうにもなんねーし」
「ちょっと圭ちゃん。言い方」
「事実じゃん」
私は二人に、まあまあ、と宥める。
「ここの鍵は、やっぱり楠木さんがもってらっしゃるのかな?」
「多分、そうじゃないかしら。見せてもらったことはないけれど」
どうしようか、と考えていると、圭が「そうだ」と言いつつ、私を手招きする。
「いいこと考えた」
それは本当にいいことなのかな? と私は疑問に思いつつ、圭に近づく。
自然と、口元が綻んでいるのにも気づかず。




