57 しょうもない喧嘩 2
「お前一人でも大丈夫だと思ってたんだが、まさか子供に負けるとはな。意外な結果だ」
ゼラルドと呼ばれた男は女が勝ちそうならそのまま静観してたかもしれない。
女は憎しみの籠った目つきを男には向けず、ルイザに対し向けた。
何か言いたそうだが何を言っても負け惜しみなのを理解してるのか、ただ視線のみを向ける。
と、こちら側からも声が上がった。
「バァァアアアアカ!! 年上で格上のランクDのくせにクソ弱すぎませんかぁ?? ねぇねぇ子供に負けてどんな気持ちぃぃ??? あなたこそ冒険者やめた方がいいと思いますわよ、オーッホッホッホ!」
ルイザは下の瞼を下げ、舌を大きく出し、女に向かって過剰に煽る。
余裕が出始めたのか口調が戻り始めていた。
(ルイザちゃんこんな子だったんだ、ちょっとびっくり……)
(さっきの言葉遣いではそう思わなかったの?!)
ステラはルイザの言動に少し引き気味だ。それでも心配してルイザに近寄り声を掛ける。
「ルイザちゃん怪我はない?」
「見ての通り何もないですわよ。偉そうな割に弱すぎて拍子抜けしちゃったわ」
喧嘩が終わったとほぼ同じくらいに男のギルド職員がやってきた。
しかし今更来てももう終わった後。
来ないよりはマシだけどね。
それでこの後はどうなるんだろう。
先に手を出してきた女に何か罰でもあるのかな?
「何があったんですか?」
職員はあまり関わりたく無さそうに女に尋ねる。
「あの子から暴力を受けたわ。ほら、顔が腫れてて痛っ、早く治して欲しいわ」
女はルイザに指を差し、やられたことを過剰に主張する。
ルイザは怪我ひとつないからか落ち着いて反論する。
「あの女の人が私達に先にちょっかいを出してきたのよ、私に怪我がないのはあの女が弱かったからですわ」
ルイザの煽るような言い方に、女は憎しみの籠った目つきでは足りないのか動物の威嚇みたいに歯ぎりしを見せ始める。
ギルド職員は私とケミーと女の仲間の男に視線を向けた後、再びルイザと女に視線を戻した。
「うーん、とりあえず二人の冒険者証を出してもらっていいですか?」
要求されたルイザは少々不満そうながらも四角く薄いカードのような冒険者証を差し出す。
女の方は提出を拒んだ。
「なんで出さないといけないの!」
「アニータ、ギルド職員の指示には従った方がいい」
ゼラルドは仲間の女――アニータに促す。
「し、仕方ないわね、ほら!」
アニータは不満ながらもゼラルドの指示には逆らわなかった。
ギルド職員は申し訳なさそうな態度で受け取ると窓口に戻り、何か作業を始めた。
その作業は大した時間もかからず冒険者証は返却された。
「それで、あの女の人、アニータって人にワケも分からず絡まれて仲間に危害を加えられたのですが、何か罰はないのかしら? このまま何も無しだとこっちはやられ損ですわ」
ルイザはギルド職員に訴えるとアニータも同じようなことを喚き始める。
「何を言ってるの、お前達が先に私に手を出したんでしょ! さっきから嘘ばかり付いて! ねぇお兄さん、あの子達に罰を与えなさいよ!」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて、罰はちゃんとあります。後でどちらに非があったのかを確認してから冒険者の評価を下げさせていただきます。その時はお二方にちゃんと通知いたしますのでご安心ください」
「え、後で? 言ってる意味が分からないんだけど」
アニータは疑問符を浮かべる。
「とにかく言えることはギルド内で悪い事をしてもすぐ分かりますので今後は揉め事は起こさないように注意ください」
「は、はぁ」
アニータはよく分かってなさそうな返事をした。
ゼラルドは呆れた表情をするとアニータを連れて外に出て行った。
「ちゃんと罰があるようで良かったですわ。残念なのはあの女の吠え面が見られない事ですがまぁいいですわ。さて、時間も惜しいですしこんな場所にいると苛つきます、気分転換も兼ねてさっさと行きましょう」
ルイザは苛つきを残したまま外に向かった。




