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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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102 ボニー

(私と先生との試合は参考になったかな?)


 私はステラに確認する。


(えーと、ごめん! 全然参考にならなかった。いや、それは下手って意味じゃなくてむしろ上手すぎっていうか、なんていえばいいんだろ。なんでそう動くのかそもそも理解できないと言うか――)


(ああ、うん。参考にしづらくてごめんね)


 実力差がありすぎると動き1つ1つの意味が理解できなくてついていけないことがある。私がステラのビデオゲームのプレイを見たときと同じことが今のステラに起きている。


 それだけ私とステラに差があるということだろう。


 今回は私の技量を見せつけただけでも意味はあったと思う。次からはステラの段階に合わせた動きを見せる事にしよう。


 試合が終わったので元の待機位置に戻り、先生はまだ終わってない1年生との試合を始めた。


 その試合に注目してると横から少し低い女の声が掛かった。


「ステラ、先生との試合はさっき私と試合したときのステラとは思えない動きに見えたぞ。まさかいつも私達に負けてるからって本当は勝てるのに、気を使って私達には手加減でもしてたのか?」


 この子は同学年のボニーって名前だったか。同好会の中だとオウロンに次いで2番目に強い生徒だ。


 ステラは手加減はしてないけどそう思われたようで、それが理由でボニーは不機嫌なのかと思えば逆に期待の満ちた熱い視線を向けていた。


「え? あ、いやそれはデシリ……」


「でしり?」


「えーっと、たまに不思議なくらい調子のいい時ってあるでしょ? 多分それだと思う」


「いや、あの動きはそんなんじゃ説明できないぞ。急にあんな上手くなるものか」


「説明できなくても実際そうだし、って先生の試合見ようよ」


「それもそうだな。じゃあ稽古が終わった後1戦だけ私とお願いする」


 ボニーと1試合やる流れになってしまった。


 先生との試合ではステラの参考になる動きが出来なかったのでボニーとの試合も私がして見せることにした。


 そして今日の稽古が終わりみんなが帰り支度を始めようとする中、私は約束通りボニーとの試合に向かう。


(デシリア、勝っちゃ駄目だからね!)


(そのつもりだけどボニーに期待されてるから何発かはマグレのようなするどい攻撃入れて、後は適当に喰らって負けておくよ)


 ステラはいつも負けてる相手だから勝ってはいけないと思っている。それだけ差があるということだろうね。でも全部で劣る戦い方をしてもステラの参考にはならないから部分的には真面目にやらせてもらうよ。


「さぁステラ。さきほどの動きを私に見せてくれ」


 ボニーは剣を構えると期待を込めて言って来た。相手から攻めて来る気配が無かったため私から攻めることにした。


 先程のボニーとステラの試合のように、私は一振り目は同じ動きをしてみた。一振り目、ステラの身体能力では奇抜な動きは出来ないし、どう打とうと絶対防がれるので受けとめられた後のことを想定して動く。


 ボニーは上手く体をズラし、次に繋げやすい体勢で受けた。私の方は先程のステラと同じように動いたので体勢が崩れ隙が出来る。


(あぁ~、こうなったらもう駄目だ~)


 ステラが嘆いた。ステラなら致命的な大きな隙になるけど私にとっては相手の油断を誘うチャンスだ。


 ボニーは先程のステラとの試合と同じく、こちらの隙を狙い振り下ろす。ステラには効いても私には効かないよ。


 私は器用に相手の腕にぶつけ軌道を逸らし直撃を防ぐ。と同時に相手の腕に当てたので点が入った。


 ボニーは目を見開くとニヤリと笑った。


「さっきは喰らってたのに、防ぐどころかやり返すとは、面白い!!」


 ボニーは悔しがるどころか楽しそうに声を上げた。


(デシリア、勝っちゃ駄目だよ)


 ステラの注意が入る。熱が入ってうっかり勝ってしまうのは避けないとね。


 さて、実際にボニーと剣を交えて感じたけど私なら余裕で勝てそうだ。やはり相手は未熟な子供だな。


 後の試合はわざと苦戦してるように見せかけて程よく負けることにしよう。


 そして私は淡々とこなし、ボニーは白熱した状態で試合が終わった。


(私じゃ1点も入れられないのにデシリアってよく点数獲れたね)


(ステラの身体能力はボニーより高いからね。私の技量が合わされば負ける要素は無いよ)


 相手よりも身体能力も技量も上なら当然点数は取れる。同学年相手ならよほどの筋肉おばけでも無い限り負けることは無いだろう。


(まさかステラは普通にやっても負けると思ってたの?)


(えーと、少しは……だって私の体だしそう思うのは普通でしょ?)


(じゃあ負けろって言う必要なかったんじゃない?)


(でもデシリアなら勝っちゃいそうだし……)


 ステラと言い合ってるとボニーが近づいてきた。ほんのり汗臭い。あ、ステラも汗臭いかもしれないな。学校を出たら魔法で消臭しておくとしよう。


「ステラ!! 先生と試合する前と後じゃ何もかも違うじゃないか?!」


 ボニーが興奮した様子でステラに詰め寄った。


「え?」


 私は思わずそんな声が漏れる。何もかもと言う程の違いはないと思うけど。ボニーからちょっと点を取っただけでもこんな凄いことなの?


「ま、まぁボニーから点を取れたことには私もびっくりしてるよ。でもそれ以外はボロ負けだったし――」


「はははっ。ステラ、お前は鈍感だな。だから今まであんな弱かったんだろうな。確かに私は勝ったけども先程よりも手こずったんだぞ。つまりはお前は何かを掴んだという事だろう」


 負ければいい、そう思ってかなり手を抜いたし表情もわざとらしく苦戦してるように演技もしたけど、弱さを見せるにはまだ足りなかったか。


 というか私って長らく剣から離れてたのに動きは体に染みついてるんだね。一線を越えるレベルの下手な動きはやろうと思ってもできないのかもしれない。


「え、えーと、アレだよ。さっきのは体がまだ温まってなかったから、今が私の実力が発揮できる状態なだけなんだよ」


「なるほど。……いや、もしかして私が弱くなったのか?」


(わわわ、デシリア、自信無くしそうになってるから否定してあげて!)


 伸びるきっかけが掴めなくて停滞することもあるけど先程の試合を見ていた限りボニーはそうではない。


「疲れてたんじゃない? 私は体力馬鹿だから長期戦になるほどボニーとの差は埋まってくと思うんだ」


 同学年だし体力馬鹿という言い方で通じるはず。


「今日の稽古はいつもと同じくらいだし疲れるとは思えないんだが……そう思うことにしよう。だが少なくともステラは成長してると感じたぞ」


 ボニーはステラを褒めてるつもりだけど試合をしていたのはステラではなく私だ。それを理解しているステラは頭の中で悔しそうに呻いた。


(くぅぅっ、私も褒められたい~! はぁ……私と次試合したらガッカリされるんだろうなぁ。でも頑張らなきゃ。デシリア先生、学校が休みの日は特訓お願いします)


(そう言われても、こういうのって手を合わせる相手がいないと強くなりづらいと思うんだよね。まぁでも出来る限りの事はやってみようか)


(やったー!! よし、卒業するまでにはボニーに勝ってやるぞ!)


 試合が終わる頃には他の生徒は既にこの場を後にしており、ステラとボニーも帰るために更衣室へ向かった。


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