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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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101 放課後の活動 3

 ステラと3年生の同学年で最上級生である男子生徒のオウロンと先生の稽古試合が始まった。


 先生はわざと隙を作ってるのか喰らってる場面が結構あった。本気を出してしまっては圧倒的格下である相手が委縮してしまうので実力に合わせて成功体験を植え付けているのだろう。


 この試合は僅かな差で先生が勝った。続いて2年生の男子との試合が始まった。その試合も先生が僅差で勝利した。何試合か過ぎた後、私の番が来た。


(ステラ、みんないい線いってたし勝ちさえしなければ目立たなさそうだよ。だから思いっきりやってみるよ、どうせ勝てないだろうから)


 子供の身体能力のままでは技量がどんなに優れていてもおそらく勝てないだろう。今回は身体強化を封じ、技量のみで挑む。


 生前の時代に剣を極めてるエルフは私含めてもほぼいない。なので私が先生に勝とうと思ってもきっと厳しいだろう。


「ステラは久しぶりの試合だから以前よりは弱くなってるかもしれないな。色々と荒い部分が多くなってるだろうから気にせず勘を取り戻すつもりで来い」


 試合は剣を軽くぶつけることで始まる。開始の合図は私に委ねられてるので先生に剣を軽くぶつけた。


 ぶつけた後は一旦距離を置くのが決まりのため私と先生の双方が一旦離れる。


 ぶつけてすぐ攻めてはいけない理由は、ぶつけられた方は剣を弾かれることで攻撃が遅れて不利になるという理由からだ。


 ステラ達が学んでいる剣術は実戦のためのものではなく技術を競い合うというのが目的となっており、相手の技量を上回れるかが重要となる。


 なので技術とは全く無関係な部分で有利不利になってはいけないようだ。


「さぁ自由に打ち込んで来い」


 先生は少しだけ緊張感を漂わせて言って来た。


(ステラのイメージする攻め方と私の攻め方の違いをよく見といてね)


 そう言ったあと私は踏み込む。

 まずは相手の剣にぶつけて弾いてみるとしよう。


 私は先生の剣に目掛けて振るう。

 私の頭の中ではとっくに剣を弾いてるはずだけど微妙に遅れてから剣を小さく弾いた。


 先生に出来た隙は小さい。


 隙が小さいということはすぐ攻め入ったところで防がれるか、すぐに反撃をしてくるということでもある。


 他の生徒と先生の試合から推測するに、こちらの動きを計算した上での攻撃をしてくるはず。


 ステラは他の生徒よりも力があり動きは少しだけ速い方だ。他の生徒と同じ隙があっても防げる可能性は高い。


 先生は私の僅かに崩れた体制からいけると思ったのかすぐさま反撃をしてきた。


 その攻撃に私は余裕で反応した。ただし頭の中だけの話。

 体がついていかず点数を取られた。


(子供の体だからか思った通りの動きが出来ないみたい)


(それうちのお母さんもよく言ってたよ。若い頃は動けたけど今は体が頭についていかないって――)


(私のは老化じゃないから!)


 ああ、でも老化するとそんな感じになるんだろうな。幽霊の私にはそんな経験はできそうにないけど。


 それにしてもステラの身体能力に合わせて頭の中の動きを微調整しないといけないのは難しいな。でも変な癖が付きそうだからステラの素の能力に合わせるのはあまりしないようにしよう。


 一旦仕切り直した後は次は先生の方から攻めて来た。動きの遅さから少し手加減しているのが分かる。稽古だし圧倒的格下の生徒相手に本気を出す必要はないということだろう。


 とはいえ生徒の誰よりも早い動きである。


 私は頭でイメージした動きを少しだけ微調整して体を動かしていく。

 

 先生の剣を程よい間合いで弾いた。思ったよりも弾けて先生に大きな隙が出来ている。どう見ても相手は手加減をしているので今攻めてこいということだろう。


 先生が立て直す前に打ち込み、あっさりと点数を得た。


「久々の割には思ってるほど動きが鈍ってないようだな」


「そうなんですか? そう言われて安心しました、えへへ」


 先生が相手をしてるのはステラじゃないからね。


(なんでデシリアは今の打ち込めるの? 私に内緒で身体強化使ってないよね?)


(最初に宣言した通り使ってないよ。つまりはステラは頭の方が体についていけてないってことだね)


(どうせ私は馬鹿ですよー)


(馬鹿でもなんでもいいからちゃんと参考にしなさいよ?)


 次は私から攻め込む。相手はこちらの攻撃を軽く弾き反撃をしてきた。私は体をずらして紙一重で回避するとすぐ先生に打ち込みに行く。


 先程よりも大きい隙だったので決まるかと思ったら弾かれた。


 やはり子供の体は遅い。生前の私なら絶対決まってたはずなのに。

 

 先生は距離を一旦置くと今の私の動きに驚いていた。


「今のを剣で受けずに避けるとは信じられん」


 あ、もしかして今の動きはやりすぎだったか?


 一応ステラの身体能力でも可能だったわけだし変じゃないと思ったんだけど、次からは剣で受けるとするか。


「いや、ステラは唐突に変な事を試そうとすることがよくあったな。じゃあ今のはマグレか。なら次は避けられないだろう」


 疑われるどころか納得されてしまった。まぁでも目立たなくて良かった。


(でもステラがなんで試合に弱いか分かった気がする)


(なにが駄目だったの?)


(基本が出来てないのに奇抜な事をするところ)


 変な事を試そうとするところがよくある、と聞いて私はそう思った。


 筋力も同好会の中で上位のステラが下級生に負けるとするなら基本が出来てないとしか考えられない。


 基礎というのは地味で成長の実感を得られにくいから別の方法に逃げたくなる気持ちはよく分かる。だから試合では上手く対応できず負けてるのだと思う。


 と、今はそんなことよりも試合に集中しよう。


 先生は剣を構えたまま私を見つめている。私が打ち込んで来るのを待ってるようだ。


 さっきはいくら私の技量があるとはいっても、大人相手には力と速さで劣るため上手く立ち回ることは難しかった。


 ということはステラの身体能力では私が本気でやっても圧勝するなんてことはまずないのだろう。


 勝ちさえしなければいいので私は気兼ねなく攻めることにした。


 そして試合結果は、他の生徒の時と変わらず僅差で負けた。

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