99 兎猫チッピィへの質問タイム 2
ステラは先程の質問の答えを待たずに話を再開し、中の人に名前を尋ねる。
「あ、その質問の前にチッピィの中の人の名前を聞かせて」
ステラの若く高い声の後、チッピィの低い落ち着いた声が響く。
「私の名前はマーティア・ファーレイといいます。性別は女です。この兎猫も女の子です」
お、種族名は言わなかったね。おそらく言う必要はないと判断したのだろう。ステラは興味が無いのか次に進める。
「じゃあさっき聞いたトイレのことはどうですか?」
「トイレの時はこの子が行うので私には恥ずかしい気持ちは無いんだけど、怖いという気持ちが強いみたいなので周りに姿が見られないような壁を立てるのをお願いします」
「分かった。後で設置するね」
野生だと無防備になるから命を狙われる恐怖心の方が強いのかもしれない。
「えーと、あ! じゃあチッピィはルイザちゃんと私、どっちが可愛いと思う?」
「……どっちも可愛いですよ」
何その質問、どうでも良すぎない?
ステラはルイザに可愛い可愛いと言って持ち上げてたのに心の奥深くでは対抗心を燃やしてたのか?
「チッピィの目は曇ってるね。絶対ルイザちゃんの方が可愛いから!」
「は、はぁ……」
チッピィはステラに気を使ったと思うんだけど、どう答えても駄目そうな辺り理不尽な質問だったな。
ステラは聞きたいことがあまりないようなので私が色々質問することにした。
色々聞いてみた結果、まず彼女が幽霊となって目覚めたのは10年程前のようだ。偶然見かけた兎猫が可愛くて触ろうとしたらうっかり取り憑いてしまったとのことらしい。
これだけ聞くとアホに見えるけど、どうやら私と違って色々と説明してくれる人が近くにいなかったからしく、自身が幽霊ということすら分からずに触ろうとしてそうなってしまったみたい。
可哀そうに。
私の近くにはたまたま100万年前からずっとこの世界を見てきた幽霊の知人――レナスがいたのでかなりの幸運だったようだ。
私の事はさておき、チッピィの中の人のマーティアについてだけど生前はお店で働くというごく普通の人生を送っている最中、特殊な病気にかかり亡くなったそうだ。熟練の魔法使いなら後天的な病気は100%治せるはずだけど彼女の町にはいなかったのだろうか。
そして生前が何年前のことかは分からないようだ。まぁ私もレナスから説明されなきゃ分からなかっただろうし、突然見知らぬ土地で目覚めれば把握できるわけもないか。
あと彼女の時代は冒険者や勇者、魔物やキメラ、魔術、ディスプレイ、車、鳥車は存在しないらしく、その部分は私の時代と共通していた。だからといって私と同じ時代かは不明だ。
彼女の種族について尋ねるのはエルフという言葉を出してきそうなのでやめておくことにした。
なぜステラに付いてきたのか? という質問には『似た者同士な気がしたし人として扱ってもらえそうだから』と返って来た。
似た者同士というのは私が『ステラに取り憑いてる』という部分のことらしい。
チッピィは他の人からしたら唯の頭の良い動物にしか見えないし、中身が人だと主張したところでそれを証明する方法も無い。ついていく相手を間違えば見世物にされて商売の道具にされるだけだろう。
「ねぇチッピィ。君にはマーティアっていう名前があるけど、せっかくルイザちゃんがチッピィって名付けてくれたからその呼び方をしてもいいかな?」
「ニャーン!」
「ニャーンじゃどっちか分からないよ」
「チッピィでいいですよ、生前の名前はもうどうでもいいですから。私、魔法の練習しすぎて疲れたので今日はもう休みます」
「無理させちゃってごめんね。お疲れ様」
「ニャーン」
チッピィは可愛い声を出した後、床に置かれたクッションの上でゴロンと丸まった。
これからはチッピィにいつでも話が聞けるわけだし、焦って今すぐあれこれ聞く必要も無いな。
というわけで今日のやりたいことは終わった。残りの時間はステラは明日も暇なので夜遅くまでゲームをしたり配信番組を見て過ごした。
私に体があれば一緒にゲームで遊んであげられるんだけど……あ、魔法を使えば結構面倒だけどボタンの操作は可能なのでは? いや、でも体を操作するのとは感覚が違うから変な癖は付けない方がいいか。やっぱり諦めよう。




