96 幽霊として目覚めた時の記憶 3
レナスは部屋を少し暗くすると私が生きていた時代である100万年前の画像を板状の装置に映した。板に映し出された画像はうっすらと光っている。実経過時間が100万年とは言われてもその風景を最後に見たのは私の体感としては100年前なんだよね。ちょっと懐かしいくらいにしか感じられない。
「これが今から約100万年前のこの遺跡周囲の風景ね。遺跡自体は山の中に隠れててこの画像には映ってないから。それじゃあ1日ずつ変化していく様子を見せていくよ」
次の日の画像を表示した。1枚で1日分らしい。当然1日で変化などない。それを5秒間隔で次々と切り替えていく。1分で12枚。5分が経過した。60枚程度では変化が分からない。いや、1日ごとだと変化に気づかないんじゃないか?
まだわずか100枚もいってないのに疲れて来た。大きな変化が欲しい。1年分でも360枚、100年で5桁枚……。これ、24時間見てても300年くらいしか経過しないよね? 1カ月寝ずにずっと見るとかまるで拷問だよ。
「あの、何枚見せる気なの?」
「えーとね……3億枚はあるかな。1枚当たり1時間ごとの経過だと60億枚だから多いかなって思ってこれでも減らしたんだけど――」
「いやいや、アホか! 60億枚って1秒に1枚を寝ずに見ても200年かかるし人間だと7世代くらいは変わっちゃうよ!」
夢の私の指摘にレナスは嬉しそうに笑う。
「あははは、久々に誰かにアホって言われた」
「褒めてないから嬉しそうにしないでよ」
「これでも1日1枚に減らしたんだよ。それだと1年で360枚。100年で3万枚、1万年で300万ま――」
「1万年分でも多すぎ!!」
「もっと減らせって? 一気に飛ばしたらそれはそれで本当に100万年なのか疑うでしょ?」
「まぁそうかもしれないけどさすがに1日ずつの変化を見せなくても1年ごとでも分かるでしょ!! それでも100万枚って……やっぱ多すぎ!」
「せっかちだね。じゃあ100年ごとの変化を見せることにするよ」
1枚辺り100年単位で変化を見ることになった。流石に100年だと変化が一目瞭然ではあるのだけど、30万年近く森の風景ということに変わりはなかった。
「全然変化ないんだけど、嘘ついてないよね? これだけ時間が経てば町の1つや2つくらい出来たりするんじゃないの?」
「この周辺以外の場所はデシリアの想像通りに変化はしてたよ。後で色々と見せてあげるね」
レナスは画像を変えていく。
突然風景に変化が起きた。森が消失しごく一部の草を残し土だけという風通しのよい状態になっていた。
そして次の100年後には消失した森は完全には戻らなかったけど、しかし草が伸びた緑豊かな風景になった。
「その100年だけ異常なくらい変化があったけど?」
「今から70万年前くらいだね。何があったかな……忘れた。私、この遺跡に籠ってる時間長いし外の状況ってよく分かってないからね」
「まぁ70万年前だし気にしても仕方ないか。じゃあ進めて」
画像は切り替わり、しばらくすると徐々に周囲が砂漠に侵食されていった。
「これは65万年前だね」
それ以降大きな変化はなく、今に続くまで砂漠は続いた。
「疲れたぁ~」
肉体はないので精神的な疲れだね。
「はい、これがこの周囲の100万年の変化だよ。森が消失したり、山の形が変わったのは分かるよね」
レナスは100万年前の画像と今の画像を交互に切り替え、変化が分かりやすいように違いを見せつける。
「山は明らかに変化してるし、じゃあ本当に100万年経ったって……こと? じゃあエルヴェクスタはどうなったの? 私の故郷の国は?」
「エルヴェクスタ? 大昔のことなんて全然覚えてないからちょっと検索してみるね」
レナスは機械を操作すると私の故郷のエルヴェクスタの街並みを映し出した。私が知ってる姿と大きな変化はない。
「ごめんね、95万年前のしかなかった」
5万年近く変化がなかったということか。
それ以降のがないということは私の故郷は滅んでしまった可能性が……? 実際にこの目で見るまでは信じないようにしよう。
「最近のは無いの? それかベルエイルやエルザートの国は?」
レナスはそれらの国の首都となる街並みも映し出す。しかし建物に著しい変化があるのは分かっても時間経過がどのくらいのものか私には判断がつかない。
とにかく時間はかなり経過してるようには見えた。
「どちらも70万年前くらいのだね。最近のそれらの国はもしかしたら滅んでるから残ってないのかもしれないなぁ」
レナスは遺跡周辺以外の様々な場所の画像を表示していく。見慣れた形式の建物が建ち並ぶ街、文明の進化を一目で感じられる不思議な形の建築物、廃墟、絶景で有名だった風景の変わり果てた姿、見知らぬ生物などなど。って、あの奇妙な生物は今思えば魔物だったか。
知ってる風景もあったけどほぼ全てが知らないものだった。
「とにかく世界は激変した。私は徐々に変化してる時代と存在してきたから実感は薄いけどね。画像で見るとこんなに変わったのかとしみじみ思うよ」
レナスはそう言ったあと機械の小さく光る画面に手を向ける。
「これを見て。デシリアの生きてた頃に見せた事あるけど忘れてると思うから説明するね。この装置には年月と日付が記されているの」
画面には文字や絵などが表示されている。レナスは画面に触れ操作し数字を表示させた。
「100万年前はここに20万年って表示されてたと思うけど覚えてるかな? 私は忘れちゃったけどね」
レナスが自分の年齢を説明するときにこの機械の数字を交えて説明してくれたのは覚えてる。たしかその機械はレナスよりも15万年上の先輩だとか言ってた。
「覚えてるよ」
「この数字にはね、この装置が完成してからの年月と、この機械を使い始めてからの年月の2つが記されてるの。使い始めてからの数字は書き換えられるけど、完成してからの年月は書き換えられないようになってるの。つまりこの機械は完成してから――」
レナスの説明途中、子供の高い声が聞こえて来た。
「デシリア? デシリアどこ? いなくなったの??」
不安そうに私を呼ぶその声はステラだ。なんでこんな場所にステラの声が? ああ、そうだった。ここは夢の中だったね。もう朝なのか。
レナスの説明はもう知ってるしステラを放置するわけにもいかないな。
さて、目覚めるとするか。
古代遺跡の無数にある機械はレナスが作ってない物で大半を占めている。
機械は高度に設計されてるため非常に壊れにくいが、壊れてもそれを修理するロボットがいるためレナスに知識が無くても支障はない。
基本的に機械には製造した年と修理した日付が記憶領域に記されている。




