96 幽霊として目覚めた時の記憶 2
「どうする……ってのは?」
「今の時代はあなたの生きてた頃から100万年分の変化が積み重なり、当たり前に存在してた物がなくなってる世界。変わってないものもまぁギリギリあるかもしれないけど、そんな世界を見て回りたいと思う?」
レナスは一旦言葉を止め、私の反応を伺う。その時の私は急に言われたからよく分からず他人事の様に聞いてたかも。
私の薄い反応を見たレナスは話を続ける。
「あなたは魔法以外は何もできない体でこれから先、おそらく永遠に生きていくことになる」
「でも幽霊でしょ? というか幽霊なのに生きるっておかしくない?」
「幽霊という生き物になった、とでも思えばいいんじゃないかな。食事も睡眠もいらない。寿命も無い。必要なのは魔力だけ。その魔力は大気中を漂っているし、私達幽霊の体に勝手に吸収されるからまず死ぬことは無い。あ、でも回復速度は遅いからそこは注意ね」
「じゃあ魔法を使い過ぎたら死ぬってこと?」
「死なない程度のところで魔力の使用に制限がかかるだけだよ。普通の生物だって限界以上に動くなんてそうそうできることじゃないし、幽霊もそのようにできているんだよ。幽霊の場合は直接命を脅かす存在がいないから限界を超えてまで魔法を使おうって気持ちにはならないだろうね。ちなみに幽霊の魔力容量は少ないから気を付けてね、って言っても使う機会あんまりないと思うけどね」」
「死なないってことは何もしなくても永遠に生きられるってこと?」
「永遠かは分からないけど、少なくとも私は10万年以上幽霊やってるよ。この星の魔力が枯渇しないかぎりは死ぬことは無いんじゃないかな。あ、でももし生きるのに飽きたなら死ぬ方法はあるよ。人に取り憑くと取り憑いた相手が死ぬと同時に寄生虫である幽霊も同じく死ぬみたい」
「……へぇ~、人に取り憑けるんだ。なんだか幽霊って感じがするね。でも寄生虫って言い方なんか嫌だなぁ。というか退屈だからってわざわざ死のうって思う人もいないでしょ」
「それがいるんだよね~。まぁでも取り憑くことには死ぬ以外にメリットがあるんだよ」
「でも引き換えに死ぬんでしょ? 常識的に考えて死なない幽霊のままの方がいいんじゃ――」
「まぁまぁ私の話を聞いてから結論を出してよ」
そしてレナスはメリットの部分の説明を始めた。そのメリットを知らなかったら私はステラに取り憑くことはしなかっただろう。
メリットは幽霊よりも多い魔力の確保と従来の生き物の機能を得られるということ。デメリットは不自由と寿命の獲得。不自由は相手次第なところもあるから宿主にメリットのある物を提示できないと自由は一切ないかもしれない。贅沢がしたいからと金持ち相手に取り憑いても魔法がまともに扱えなかったり頭の悪い無能な幽霊では意味が無いということだ。体を動かす主導権は宿主にあるわけだから役立たずには何もさせないだろう。
でもステラが寝てる時に私は体を自由に動かせたんだけど、もしや私だけしか出来ないとかかな?
「幽霊のままなら命の危険を気にせず永遠に世界を見て回ることができる。でも食事を楽しんだり風呂に入って体を癒したりってのはできないから見て回るというだけだね」
私にとって食事は生きるための手段であって楽しむためのものじゃないので魅力を感じない。豊富な魔力も命の危険が無いならいらない気もする。やはり幽霊のままの方がいいかもしれない。
「終わりのない旅かぁ……、まぁ時間はたくさんあるみたいだしどうするかはゆっくり考えようかな。それよりも私が死んでから100万年が経ってるってのはあまりの数字の大きさに信じられないんだけど……」
「100万年分のこの遺跡周辺の変化が分かる画像があるけど見てみる?」




