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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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95 兎猫のチッピィ 2

「お母さん、チッピィのトイレ買ってくるね」


「待って、あなたお金ないでしょ。ほらこれ使って」


 ステラが外に出ることを母に伝えるとお金を渡そうとしてきた。お金はたくさんあるのでそのお金は必要ないのだけど、どこで手に入れたのか聞かれると面倒なので私はステラに受け取るように促す。


「気を付けて行ってくるんだよー」


「はーい」


 お金を受け取りリビングで見送られた後、自宅の玄関の扉を開けた。内階段を下り、日の当たる通りに出るとステラは途端に立ち止まった。


 目の前は人々が通り過ぎ、灰色の道路の上は鳥車や自動車が忙しくなく駆けていき、周囲は5階建てくらいの建物が建ち並び私達を見下ろしている。

 さっきまではそんな見慣れたはずの風景を特に気にしてなかったと思うけど……どうしたんだろ? 改めて故郷に帰って来たという実感でも湧いて感動でもしてるのかな?


(どうしたの?)


(1人だと急に怖くなってさ。また攫われるんじゃないかって、デシリアがいるから大丈夫なのは分かるんだけど……)


 あ、そっちだったか。

 か弱い子供であるステラには攫われる時の恐怖が心に深く刻まれたのも無理は無いか。いや、攫われる経験はきっと子供じゃなくても心に傷を負うはず。


(魔法でその恐怖心を消そうか?)


(できるの?)


(少なくとも一時的に抑えることはできるよ)


 心の傷は浅ければ魔法でも治る可能性が高くなる。傷が深い場合はその原因となるものを除去しないと何度でも再発してしまうけど、ステラの場合は街中を歩いても何も起きないという状況が続けば慣れて恐怖心はなくなるだろう。


(私、デシリアがいないとどうなってたんだろう……? せっかく家に戻って来れてもこれじゃずっとデシリアに頼ることになってしまう!)


 ステラは建物の陰に入り、顔を薄く歪めて静かに涙を流し始めた。当たり前の事ができなくなってることが怖くて悔しいようだ。


(ステラ、私を頼ることは悪い事じゃない。ステラは悔しがるくらいには自分の力でどうにかしたいと思ってるから偉いよ)


 こういう時私にも体があれば頭を撫でて慰めてあげられるのになぁ、もどかしい。


(私だってステラがいないと出来ない事が多いよ。私とステラは支え合ってるってことは忘れないでね、だから私が困ってる時は助けて欲しい)


 私は一方的に与える存在じゃない。じゃなきゃステラに取り憑くなんてことはしなかった。


(そうか。私にもデシリアにしてあげられることがあるんだよね)


 私はステラに恐怖心を抑える魔法を掛けた。するとステラの涙は止まった。


(あ、不気味なくらい気持ちがスッキリしてる)


(いま魔法を掛けたよ。まぁでも気になるなら交代して私が歩こうか?)


(不安はなくなったから大丈夫。たかだか歩くだけのことすらできないなんて嫌。だから頑張ってみるよ)


 ステラは顔をパチンパチンと強く叩いて気合を入れると力強く前を見据え、歩き始めた。


 その後はステラの調子が悪くなることもなくペットショップ――ペット用の商品だけを取り扱うお店で猫用のトイレだけでなくそれ以外の物も買い物カゴに入れて購入した。トイレは大きな四角く分厚い紙の箱に入っている。

 ちなみに兎猫用のトイレというものはなかったために猫用のトイレを買ったわけだけど、兎猫の身体は猫と9割同じなので問題はないだろう。


 ここまでは良かったけど大きな箱を抱えて歩くのはステラにはきつそうだ。ただただ持ちづらいというだけで重くはないので力の有無は関係ないため身体強化だけでは少々難儀だ。

 どうしようかと私が悩んでいるとステラは近くに留まっていた鳥バスに乗り始めた。


(家の近くのバス停で降りられるから)


 鳥バスはバス停と呼ばれる場所で客を乗り降りさせるらしく、この鳥バスはステラの自宅近くのバス停で停まるようだ。


 * * * * *


「ただいまー」


 ステラが声を発するとステラの母アンネリーが姿を見せた。

 どういうわけか今にも泣きそうな顔をしている。


「あ、……おかえりステラ」


 一転、笑顔を作ると母はステラからトイレを受け取った後それを地面に置き、ステラを抱きしめた。


「ちょ、お母さん……?」


「ごめんね、一人で買い物に行かせてしまって。でもそう何度も攫われることなんてないし……大丈夫よね?」


 母は自身を納得させるように言った後、腕を解いた。ステラを一人で外に出したことが怖かったのだろう。私がいればもう攫われてもどうにでもできるのだけど、私の存在をステラの母は知る由もない。そして教えるわけにもいかない。


「お母さん、大丈夫だよ。変な所には行かないし、それにデシ……えーと、とにかく大丈夫だから心配しないで!」


 私の名前を出して安全をアピールしようとしたけどそれやったら余計に不安がられるだけだからね。攫われたショックで頭がおかしくなったと思われるはず。ルイザには病院に行けと言われてるわけだし、きっと母もルイザと同じ行動を取るだろう。


「そうだよね。夜に出歩いても連れ去られるなんてあまり聞いたことないし、そんなことしないステラが攫われることなんて……さすがにもうないよね」


 母は納得する理由を並べた後、兎猫のトイレを持ち上げ、リビングへと向かう。


「あ、お母さん。トイレは私の部屋に置こうと思ってるんだけど」


「ステラの部屋の扉を開けっぱなしにするならいいけど、しないでしょ? 私もチッピィを可愛がりたいからこれはリビングに置くね」


 ステラは特に言い返すことなく他の荷物を手に持ち、自分の部屋に向かった。

 部屋の扉を開けるとチッピィが出迎えた。


「にゃー」


「ただいま」


 ステラは撫でようと手を出したけど触れる前に引っ込めた。

 いつもなら頭を撫でて可愛がっているのにチッピィの中身が人だと思うとそういう気になれないのかもしれない。


(撫でないの?)


(え……どうしたらいいんだろう)


 ステラは撫でるか迷いながら買ってきたトイレ以外の荷物――チッピィの餌を入れる皿など――を紙袋から出し床の上に置いて行く。荷物の内の一つが手のひらサイズの小さな人形で銀髪のポニーテールの女の子の形をしている。なぜそんなものを買って来たかというとステラは幽霊で姿が見えない私に向けて話すとき視線の置き場に困るため、その人形を私だと見立てて会話しようと考えたのだ。


(じゃあチッピィと話の続きでもしようか)


 私はステラにそう告げ、話を始めようとするとチッピィの方から話しかけて来た。そして汚い字で書かれた紙を差し出して来た。


(お腹が空きました。申し訳ないけど食べ物をください、だって)


 早速買って来た餌を与えることにした。

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