表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
184/280

95 兎猫のチッピィ 1

 ステラは久々の母との団欒だんらんを楽しんだ後、兎猫のチッピィが入った籠を母の前に持って来た。飼う事を切り出すようだ。


(反対されたらどうするの?)


(お母さんが猫を飼いたいってよく言ってたし、きっと大丈夫だよ)


 母に伝えた結果、ステラの言う通りとても気に入ってくれた。反対の“は”の字もなく歓迎してもらえた上に餌代は母が負担してくれることになった。


 その後ステラはチッピィを連れて部屋に行き、そこでチッピィを放した。ずっとカゴの中に入れておくのを可哀そうに思ったらしい。


 私は肩から霊体を出し、先ほどの掃除のときにも見たけど改めて部屋を見回す。私の時代にもありそうな木製の机、ベッド、本棚などは懐かしさを感じる。それらと比べて異彩を放つのは映像を空中に照射するディスプレイやビデオゲームなどの機械装置。他にもたくさんよく分からないものが置かれている。


「チッピィ、良い名前貰えて良かったね! 次ルイザちゃんにあったらちゃんとお礼をするんだよ?」


 ステラがチッピィに声を掛けるとチッピィは意味を理解してるかのように頷いた。


「さすがに言葉の意味を理解してるわけがないよね……?」


 ステラが「ははっ」と軽く笑うとチッピィは口を開き、必死に鳴いて何かを伝えようとしてきた。

 当然人間の言葉ではないため私達には意味を理解できない。


(ねぇステラ、人の言葉を理解できる動物って今の時代にはいるの?)


(インコが簡単な会話ならできるみたいだよ)


 100万年も経てば人種族以外でもそういう生物が出て来るのか。

 インコね、インコ。……そんな動物は聞いたことが無い。


(インコとは?)


(鳥だよ。インコっていう種類)


 ステラはそう答えながらチッピィは知能が高そうだから文字も書けるだろうと考え、ペンと紙を置いた。

 

(いや、流石に文字は書けないでしょ)


 私は呆れたけどチッピィは器用にペンを口でくわえて文字を書き始めた。


「おお、ほらほら、書いてるよ!」


 マジか……。

 

「ねぇ、デシリア。……チッピィ凄くない? ここまで頭がいい動物なんて配信番組でしか見たことが無いよ。すごい動物拾っちゃったかも!」


 ステラは興奮しながら満面の笑みでチッピィの頭を撫でた。しかし文字に目を通すとすぐに興奮は冷めた。なぜなら凄く汚い文字だからだ。


「……でもなんで書いてるか分からないなぁ。デシリア、文字が読みやすくなる魔法はないの?」


(思考速度を上げられる魔法があるけど試してみる?)


 私にとっては実用性が低い魔法だったので使ったことはほぼない。身体強化みたいな数十倍数百倍の強化とはいかず、わずかに頭が良くなったかなと実感できる程度のものだ。

 でも無いよりはマシだろう。頭の回転を上げれば解読できるかもしれない。


(じゃあ、お願い)


 ステラに魔法を掛けることにした。ステラが頑張ってる間に魔法の掛かっていない私が解読に挑戦するとあっさりと読み取れた。

 なるほど、といった感じの内容だった。しかしステラにはまだ伝えない。自力で解く楽しみを奪うような気がしたので分からなかったら教えようと思う。


 ステラは必死に唸り、チッピィはその様子を真顔で見つめる。チッピィが何を思ってるのかは分からないけど知能が高いのでステラのことを応援してるかもしれない。


「あー!! ぜんぜん分かんない」


 結局分からなかったようだ。教えない方がいいとも思うけどチッピィをずっと動物扱いするのも可哀そうなので教えることにした。


(私は読めたよ。嬉しいお知らせか、あるいは残念なお知らせになるけどいい?)


(分かってたならさっさと教えてよ!)


 ステラは眉を寄せながら何も無い空中をみつめる。おそらく私の姿をイメージしながら空中を見つめてるのだろう。ステラの中では私はどんな姿が描かれてるんだろうか。まぁいいや、チッピィの言葉を教えよう。


(なんと! チッピィの中には私と同じように人が取り憑いてるんだってさ)


 ステラは一瞬ポカンと宙を見つめた後、チッピィへ顔を向ける。


「え、え、チッピィ、君って人なの?!」


「ニャー!」


 チッピィは肯定と取れる元気な声を出し、頭を何度も下げる。体を動かすのは宿主が優先なはずだけど取り憑いた人の意思に基づいて動いてるように見える。

 取り憑いた人はまさか動物相手に意思疎通が出来てるというの?


 チッピィは再びペンを加え、紙に文字を書いていく。


(捨てないでください。と書いてあるよ)


 私は汚い文字を解読しステラに伝える。


(捨てるつもりはないけど、中に人が入ってると思うと途端に怖くなってきた)


 人並みの知能のある動物はまだ“動物”として見れるけど、中身が人だと分かると外見が動物でも“人”として認識してしまうのは何故だろう。


「ドラマだと喋る動物って人に変身するけどチッピィはできるのかな?」


 ステラはチッピィもそうかもしれないと期待の目を向ける。


 もし人に変身出来てもクマのようなけむくじゃらの太いおっさんだったら捨てたくなるんじゃないかな。もしそうなら捨てられるのを恐れて変身できないことにするかもしれない。


 ステラの言葉に反応したチッピィはペンをくわえて返事を書き始める。口で書くため人が数秒で掛かる事を1分近く掛けてしまう。

 

 う~ん……意思疎通できるとは言ってもこれだと時間も紙も勿体ない。それに文字を書くのも面倒臭そう。魔法で疑似的に声を出せないのかな? 

 というか魔法は使えるのかな? 中の人がもしエルフだとしたら間違いなく魔法を使えるけどどうなんだろ。


 色々と考えてる間にチッピィは書き終えた。ステラは解読しようと意気込むがやはり読めなかったようだ。

 また私が代わりに読み上げる。


(変身出来るなら人の姿になって口で喋ってます。見ての通りできません。ステラに取り憑いてる方は変身の魔法使えたりしませんか? って書いてあるよ……え? あ?!)


 そういえばこいつ……私とステラの不自然な会話を間近で聞いてたな。動物だからって油断してしまった。いやいや、動物にまで気を配れというのは流石に無理でしょ。


(ステラ。チッピィが私の事に気づいてるから口止めをお願い)


 チッピィが変身できないことに残念そうにしていたステラはハッとするとチッピィに顔を向ける。


「チッピィ! 私の中の人については誰にも言わないでね? 言ったら捨てるから」


 チッピィは頭を縦に振ると紙に返事を書いた。


(言わないので捨てないでください、だってさ)


 それにしてもなぜ兎猫に取り憑いたんだろ?

 あ、それよりも先にしないといけないことがあるな。


(そういえばギルドには動物のトイレはあったけど、この家にはあるの? 外で放し飼いできるの?)


(あ……猫飼ったことがないから無いよ。餌もないからお店でついでにトイレも買いに行こうかな)


 でもチッピィって中に人がいるんだよね。動物用のトイレだと私達にトイレしてる姿見られるのは恥ずかしいんじゃないかな?

 ……いやいや、人用のトイレ使わせるわけにもいかないだろうし聞いても意味ないな。恥ずかしいだろうけど動物用のトイレを使わせよう。


 ということでチッピィには少しの間だけトイレは籠にしておくように伝えた後、ステラと私は兎猫用のトイレを買いに外に出ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ