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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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94 ラーメン

 現在時刻は昼の12時を少し過ぎた辺り。


 ようやく家の中に入ることが出来た。

 ステラは靴を脱ぐと温かみのある茶色の木板の廊下に上がり、壁にある何かのスイッチを押した。すると天井のオレンジの照明が付き白い壁は淡いオレンジ色に変化した。


 ステラは久々の自宅に感動したのも束の間。廊下を進み、広いリビングに出るとあまりの散らかりっぷりに固まる。

 衣服だけでなく椅子や机、食器の破片などが派手に散らかっている。窓ガラスの近くにも割れた破片が落ちているけど窓ガラスには傷一つついていない。


 ただの精神的な不安での行いというにはやりすぎな気がしないでもないけど、入院するほどならそれくらい荒れるものなのかもしれない。


「お、お母さんこれは?」


 ステラは顔を引きつらせながら尋ねる。

 最後にこの家にいたのはおそらくステラの母だろう。じゃなければ泥棒でも入り込んだことになる。


「あ、えーと……ステラが好きだから取り乱しちゃったのかもね」


 じゃあ母の仕業か。でも他人事のようなその言い方はなに?

 ツッコミを入れたいところだけど私がステラの母に直接話しかけては、口調や言葉遣いの些細な違和感から何か怪しまれるかもしれないのでできない。2人は親子だから誰も気づかないような些細な違いという物にもきっと反応するだろうし、今は不安になるようなことは避けたほうがいいだろう。


「まぁいいや。私が片付けるからお母さんは休んでてよ。病み上がりで疲れてるでしょ」


 散らかった理由よりも綺麗にしたい欲が勝ったステラは掃除を始めようとする。


「大丈夫、私もやるわ。一緒に片付けましょう」


「キツくなったら途中で休んでもいいからね」


 そして2人での掃除が始まった。

 私は手助けする余地が全く無いので傍観するのみ。ただただ地道で細かい作業は私の魔法とは相性が悪い。


 ステラは掃除が面倒だからと私に体を動かせて押し付けるなんてことはしてこないので、私は家具やディスプレイなどを眺めて暇を潰すことにした。


「そういえばあの猫人ねこびとの子は初めて見たけど、友達? なんか凄い格好してたよね」


 母がステラにルイザのことを聞いてきた。母から見てもルイザの格好は異質なようだ。


「私は友達って思いたいんだけど……向こうはそうは思ってないかも。でも明後日会う約束したし、そのうち友達だと思ってくれるかも!」


「それにしてもなかなかの美人だったわね。どこで知り合ったの?」


「えーっと……この町に戻るときの鳥バスで一緒の部屋の席になってから仲良くなったんだよ」


 ルイザとステラを繋ぎ留めてくれたのはケミー達だ。ケミー達がいなければ今の関係はなかっただろう。


 しばらくして片付けが終わった。二人は遅めの昼食をとることにした。

 ステラは大きな長方形の箱の扉を開ける。するとヒンヤリした空気が溢れ、中には食べ物に関係する物が多数置いてあった。

 この不思議な収納箱が何なのか聞こうとするとステラは母と話を始めてしまった。


「お母さん、冷蔵庫の中の物は食べても大丈夫なのかな?」


「1週間くらいしか留守にしてないから多分大丈夫だよ。お腹壊してもそれくらいなら私が魔術で治してあげるわ」


 さらっととんでもないことを母は言ったけど、いつものことなのかステラは気にも留めず冷蔵庫の中から紐が絡まったような固形物を取り出し、次に食器棚から丸い蓋がついた手を広げた程度の大きさの四角い箱を2つ取りだす。

 そして絡まった糸のような物体を2つの箱に入れた。

 他には何も入れないようだ。


(それが昼ご飯なの?)


 たぶん麺なのだろうけど、今の時代は硬くなった麺を食べるのか?


(え、知らないの? ああそうか昔はなかったのか。この硬い麺にお湯を入れるとあっという間に完成するんだよ)


 ステラは透明な容器に入った水をカラフルでオシャレなポットに移し、それを平たい台に置き、スイッチを押して小さな青い火を出してお湯を沸かし始めた。


(おお、青い火だ! 色んなものがスイッチ1つでできるなんてホント便利な世の中になったもんだね)


 私の時代では魔法で火をおこすのが普通だったし、調理の時には台の下の焚火で鍋などに直接火を当てる必要があった。


(便利な世の中とは言っても道具がないと無力だからね。そう考えるとデシリアみたいに魔法を使いこなせるのって羨ましく思うよ)


 道具頼りだといざ何も無い環境だと無力なのは確かだね。でもさすがに砂漠では私の魔法があろうと無力に近いと思う。


 さて、少し待つとポットから湯気が立ち上り始めた。ステラはお湯を硬い麺の入ってる容器に入れると蓋をし、1分ほど待つとスープに浸された麺料理が完成した。


 あれほど硬そうにしていた麺は柔らかくなっていた。


(デシリアも味見してみる?)


(いいよ、私が食べる意味なんてないから)


 料理をしない私にはどうでもいいことだし、食べればステラの楽しみが減ってしまう。それに加えて食べた分の脂肪の蓄積はステラに回る。

 ステラ目線では味わってもいないのに太るというデメリットだけを受けることになるわけだから意味も無く私が味わうわけにもいかない。


(でもでも、美味しい物食べると幸せになるよ? デシリアが食べても私のお腹が膨れるだけだけどさ、デシリアに私の感じてる世界を少しでも知って欲しいなって思うんだ)


 う……。ここまで言わせてしまっては断りづらいな。私自身にはデメリットは無い訳だしもうこれは食べるしかないか。


(じゃあ一口だけ)


 ステラから体を交代した私はフォークで麺を掬うと一口だけ口に入れた。


 直後、口の中から全身に快感が駆け巡る。


 数日ぶりに感じたそれは一言で言うなら美味しい。でも現代のものだから美味しいのかと言われても判断が付かない。なぜなら私は生前、味にこだわった料理をあまり口にしたことがなかったからだ。


 お腹が空けば道端の雑草や木、虫や動物などを魔法で加工して栄養の塊にし、それを口に入れるという効率重視でよくやってきたわけなのでまともな味覚など持ち合わせていない。


 一応たまには普通の物を食べてきたわけだけど、家庭料理レベルでさえあまりの美味しさに感動は大きかった。なので今食べた麺料理が生前のそれと比べてどうなのかと言われてもよく分からない。

 とにかく大抵のものは感動するほどに美味しいのでそのままステラに伝えることにする。


(美味しかったよ。この料理は何て言う名前なの?)


(ラーメンだよ)


 美味しいと伝えるとステラは得意げに笑みを浮かべ、ラーメンの入った容器を母の待つテーブルへと運びに行った。

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