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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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93 ステラの母

 ルイザが自動車に乗るとギルド職員はまだ付いてくるのを不思議に思ったのか理由を尋ねる。


「ルイザ君はもう帰ってもいいんだけど、ステラ君がいいっていうなら気にはしないよ」


 ギルド職員は返事を催促するような視線をステラへ向けた。


「私は気にしないんだけど……もしかしてルイザちゃんを連れて来たら駄目でしたか?」


「ステラ君が問題ないっていうなら構わないよ。お互いの許可が取れてるなら私からは言うことは無い。それじゃあステラ君のお母さんのいる病院へ向かうよ」


 そう言われた直後、自動車は動き出した。少し遅れてステラは目を丸くして慌てだす。


「え? びょ……病院?! な、な、なんで?」


「なに、大したことじゃないから心配はいらないよ。お母さんが君の姿を一目見ればすぐに退院できるから落ちついて」


「う、うん。頑張って落ち着いてみる!」


 落ち着く方法でも探してるのか私に知るわけが無いことを聞いてきた。


(デシリア~! お母さん何があったんだろう?!)


(病院だから怪我か病気しかないんじゃないの? それともそこで働いてるとか……だったらそんな取り乱すわけないか)


 ステラが来ればすぐ退院というのはよく分からないな。たまたま今日が退院の日だったということか? 


(そういうことは分かってるよ! 入院するほどってことは何か大きな事があったってことだよね……)


 でもすぐ退院と言ってたし気にする必要は無いと思う。改めてそう言おうとしたらルイザが私と同じような考えを口にした。


「ステラ、ギルド職員がそう言うのなら問題ないのですわ」


 ルイザは落ち着きのないステラの意識を別の所へ向けさせるためか、ステラのホッペをつまんで引っ張り始めた。


「え、なななななに? ルイザちゃん?」


 ステラはやり返そうとはしない。ただ何故ホッペを摘ままれてるのか分からず困惑してる。

 ルイザは次の言葉が思いつかないのか、横に軽くひっぱりつつ少し間を開けた後に捻り出すように言葉を出した。


「……そういえば学校って休みの日が決まってるのですわよね?」


「うん、日曜日と木曜日の週2日が休みだよ」


 ルイザは目を大きくずらし、またも考え込んでから要求するかのように声を出す。


「……じゃあ日曜日」


「はい?」


「今日は金曜日ですわ。だから明後日の日曜日、ステラの家に行ってもいいかしら? あなた休みなんでしょ?」


 一昨日までのルイザなら絶対言い出さないであろう言葉だ。精神の病気の誤解は完全に解けてはいないんだけど、ステラの言う事を信じてもう警戒はしてないのかな? 


「え、いきなり言われても……というか何しに来るの?」


「何も決めてませんわ。……嫌だったかしら?」


「ううん、嫌じゃないよ! 何も用が無いから来てくれると思わなかっただけだよ」


「ならいいですわよね! 行きますわ」


 声の感じは嬉しそうだけど表情からは見せない様にしてる感じがする。


「なんだかよく分からないけど、嬉しい。楽しみに待ってるね!」


 一方ステラは声も顔も嬉しさが分かりやすかった。


 自動車が走ること数分。異様な敷地の不思議な建物に入っていく。壁が無く柱と屋根が付いた3階建ての風通しの良い建物だ。それはとても広く、中には自動車が規則正しい間隔でたくさん停まっている。


(デシリアは知らないの? ここは立体駐車場って言うんだよ)


 と、ステラが教えてくれた。見ての通り自動車置き場らしい。

 自動車を降りた後、ギルド職員の後ろからついていくと車置き場とは比較にならないほどの大きな建物に向かっていく。縦に並んだ窓の数から推測するに10階くらいはあるだろうか、建物のデザインは特に凝っていないシンプルな横に長い長方形だ。


 駐車場は無機質な人工物が続いていたけど、病院の玄関周囲にはここで命を扱っていることを感じさせる青々とした植物が植えられていた。私以外はそんなものを気にも留めずに入口へ進んで行った。

 

 中へ入るとギルド職員は受付で病院の事務員に事情を説明し病院内を歩く許可を取った後、ステラの母がいる病室へ向かって移動していく。

 階段を数十段と上り、白い廊下を長々と歩き、病室の前で立ち止まる。扉の前には表札に『アンネリー・プリマディオル』と書かれている。ステラと名字が同じなのでこの中にステラの母がいるのだろう。

 ギルド職員は勝手に開けずに病院職員に開けさせてから中に案内してもらった。


 中に入ると廊下と同じく四方は真っ白の壁だ。相部屋ではなく個室のようでベッドは1つだけしかなく、そこにはステラに似た雰囲気の大人の女性が寝ていた。


「担当の方を呼んでくるので少々お待ち下さい」


 病院職員はそう言って部屋を出て行った。


「お母さん……」


 ステラがベッドで寝息を立てる女性を見ながら不安なのか安堵なのかよく分からない声で呟く。

 しばらく待つと担当らしき白衣の男がやってきた。白衣の男はステラを見ると静かに口を開いた。


「ステラというのは君かな?」


「はい、ステラは私です。あの、お母さんに何があったんですか?!」


「アンネリーさんは……いやお母さんって言った方が分かりやすいか。お母さんは君が行方不明になってから心労で倒れて運び込まれたんだよ。魔術で精神を回復させても君がいないと不安がぶり返すみたいでまた倒れちゃったからそのまま入院させたというわけだよ」


 そう言うと白衣の男はステラの母を起こした。

 ステラの母は目を恐る恐る開けると白衣の男へまだ眠そうな顔を向け、声を出す。


「先生、ステラは見つかりましたか?」


「お母さん!」


 ステラが声を発するとステラの母は一瞬固まった。


「ステラ……? ステラ?!」


 大声を発すると眉を寄せ悲しそうな、しかし安堵とも言える表情でステラを強く抱きしめる。


「お母さん、ただいま」


「お帰りなさい、ステラ。髪を切ったんだね」


 二人の様子を見てると私も母の事を思い出し、元気にやってるかな、なんてことを一瞬考えそうになった。過去の事を考えても辛いだけなので目の前に意識を向けることにした。


 ルイザに顔を向けるとなんだか複雑そうにステラ親子の姿を見つめていた。自身の親のことを思い出しているのだろうか。関係が良くないのか、それとも長く会えてないのかな?


 ステラ親子が抱き着いてから程なくして白衣の男は軽い調子で告げる。


「それじゃアンネリーさん。娘さんも無事戻って来たしもう大丈夫ですよね。というわけでいつまでも病室にいるよりも自宅に帰った方がいい。安心できるでしょうし退院しましょうか」


 ステラがいればもう大丈夫と判断したのだろう、この瞬間から帰宅をするように促された。


「良かったですわね、ステラ」


 複雑そうに見ていたはずのルイザは今は優しい笑みを浮かべている。

 その後、ギルド職員に自動車で送られ、自宅前でルイザと別れたステラは母と一緒にようやく自宅へと帰った。



ステラのいる星の周囲には太陽系の星はありませんがこの星では1週間は月火水木金土日で呼ばれます。なぜそうなっているのかはこの星の人達は分かっていません。

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