表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
181/281

92 孤児院へ 2

 ギルド職員が門の横にある四角のボタンを押すと、少ししてから孤児院の職員が姿を表した。

 お互いの職員は軽く挨拶を交わした後、ステラ達に視線を向ける。


「今日は獣人の子が来ると聞いてたんだけど……どの子かな?」


 孤児院の職員はケミーとキディアに視線を合わせた。ステラは人間だしルイザは孤児院に来るには恰好が目立つから違うと思われたのだろう。

 ギルド職員はケミーとキディアを紹介し、2人に挨拶をするように促す。


 キディアがじしてるとケミーが先に口を開いた。


「こんにちは! 私はケミーって言います。こんな凄い建物がいっぱいの所で生活したことなくてとっても緊張しています! 私の住んでいた場所は名前もないくらいの所で、えーと、この町と比べたら本当に何にもなくて畑や狩りで獲った物で生活してました。ああ、でも狩りは危険なので女の私は力も無いし子供でもあったから畑の手伝いしかしてないです。それで私、この町を見て今までのやり方が通用しないだろうなって感じたし、こういう場所での生き方を知らないので変な事しちゃうかもしれないです。だから色々教えてくれると助かります。あと、私強くなりたいです! どうやったら強くなれるのか――」


「ああ、ストップストップ。悪いけど質問とかは後で聞かせてね。とりあえず今は名前だけ知りたいからごめんね。ええと、君の名前はケミーだね。それと人種は猫人ねこびとで性別は女性だね」


 孤児院の職員は苦笑いでケミーを止めると詳しいことは後で教えると言い、次はキディアに尋ねた。


「わ、私はキディア・アドースと言います。兎人うさびとの女性で14歳です。ケミーと同じ14歳です。今日からお世話になります。よろしくお願いします」


「君は苗字があるんだね。じゃあ、色々手続きとかしたいことがあるから中に行こうか」


 孤児院の職員は案内するために歩き始めた。ケミーは行く前にステラ達へ振り向き、今までのお礼と別れの言葉を言いながら徐々にボロボロと涙をこぼした。


「ケミーって泣き虫ですわね。またすぐ会えますのに」


 呆れた風を装うルイザもケミーの涙につられてか、辛そうな顔で堪えていた。ルイザはハンカチを出すとケミーの涙を拭いた。


「だって、寂しいんだもん。でも私、頑張るよ! ルイザちゃんもステラちゃんも頑張ってね!」


 そんなケミーとは対照的にキディアは落ち着いた様子で別れの言葉を言う。


「あ、あの、色々とありがとう。良かったらまたみんなで遊びたいです」


 別に今生の別れでも無いし、同じ町に住むんだし、おそらく会おうと思えばすぐに会える。

 環境の変化でちょっと寂しく感じる程度だから大丈夫だろう。


「私は1年くらいはここの冒険者ギルドを拠点に活動するから、いつでも私に会いに来て欲しいのですわ。ステラの家の場所も教えたいから絶対に来るのですわよ?」


 ルイザは念を押して強く言った。ステラの家にはステラが案内すればいいと思うかもしれないけど、学校と孤児院は時間が束縛された環境のためお互いの時間がいつ合うかは分からないらしい。

 孤児院の全員がそうではなく、ケミーとキディアは勉強の遅れを取り戻すため孤児院内で強制的に勉強させられるからだ。

 なので道案内は時間を自由に調整しやすいルイザに任せることになった。


 ルイザもステラの家はまだ知らないけど、ケミー達と別れた後にステラと一緒に向かうことになっているので次にケミー達に会う時には案内できるだろう。


「ケミー、キディア。私、友達が増えて嬉しかった。だから、また会おうね!」


 ステラが笑顔で寂しさを声に滲ませながら伝えるとケミーとキディアは力強く返事をした。

 もう言いたいことも浮かばなくなったので別れの時間となった。ケミー達は何度も振り返りながら建物にゆっくりと向かっていく。ステラ達はその姿が見えなくなるまで名残惜しそうに見送った。


「行っちゃいましたわね」


「うん、もうあの騒がしさが明日から無いんだと思うと……なんか変な感じがする」


「寂しくなったら会いに行けばいいのですわ。短い時間なら話くらいできると思いますわよ」


「……うん、そうしようかな」


 二人は自動車に乗り込む。次の目的地はステラの家だ。ステラの護衛を兼ねたギルド職員が家まで案内してくれる。

 自動車を走らせることほんの数分、ステラの家があると思われる5階建ての建物の前で停まった。


「ステラ君、ここで合ってるかな?」


「はい、ここです」


 ギルド職員の確認にステラは少し緊張しながら返事をした。


「ルイザ君に家の場所を教えたらもう一か所連れて行きたい場所があるからステラ君だけでも戻って来てくれ」


「え? どういうことですか?」


「君の家は留守だから玄関は開かないよ。ここに立ち寄ったのはルイザ君に家の場所を教えるためについでに寄っただけだからね」


「えーっと、じゃあこの後で私をお母さんの所に連れて行くんですか?」


「その通り、君の保護者に直接引き渡さないといけないからね。だから君をここに放置していくわけにはいかないよ」


 ステラは頷いた後ルイザに顔を向ける。


「ルイザちゃん、家の場所教えるから付いて来て」


 ステラはルイザを連れて建物の中の内階段を上り2階へ向かう。

 2階には複数の扉があった。ステラは自宅と思われる扉の前で立ち止まる。


「ルイザちゃん、ここが私の家だよ」


「良かったら住所も教えてもらえるかしら? 自動車の中でいちいち風景を見てなかったから道を間違えそうで不安なのですわ」


 ステラは住所を伝えるとルイザは小さなメモ帳に記入していく。

 記入してる途中でステラは玄関の横のボタンを押した。中で小さな音が聞こえたけどそれ以外の物音は一切ない。やはり誰もいないようだ。

 ステラは玄関のドアノブを引いてみるけど開く気配が無い。


「ルイザちゃん、ギルドの人が言った通りで開かないみたい」


「じゃあステラはギルド職員と一緒に行ってくるといいですわ。でもステラがまだ私に付いて来て欲しいと言うのなら、その、無事にあなたのママに会うまでは一緒にいてあげてもいいですわよ。どっちがいいかしら?」


 ステラは少し考え込んだ後、返事をした。


「でもこれ以上ルイザちゃんに気を使わせるのも悪いなって思うんだよね。だからルイザちゃんとはここでお別れにしようか?」


 ステラがそう言うとルイザはステラに気づかれない程度に小さく焦り出す。


「あ、えーと、私は急ぎの用事はないですわよ。あ、そうですわ。ステラのママに会っておけば次に会う時もスムーズに行きますわね。というわけだから一緒に行ってもいいかしら?」


 ルイザは自ら行きたいと意思を示して来た。ルイザの頼みとあればステラは断れないだろう。


「ありがとう。じゃあ一緒に来てもらってもいいかな?」


「もちろんですわ!」


 ルイザは照れ臭そうに応じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ