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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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91 見慣れた風景 2

 空が黒くなる前の赤い時にエリンプスの町に到着した。といってもまだまだ町の端っこに当たる部分で建築途中の基礎や骨組みが多く見られる。

 鳥バスは町に入ると速度を落とし始め、片側1車線の灰色の広い道をゆっくりと進む。反対車線には鳥車と客車に似た乗り物が走っているのが見えた。客車はどれも鳥車よりも小さい。


(あの乗り物、兎猫ラビキャットを密猟してたあの人の客車に似てるね)


 私が言うとステラは、引く生物がいなくても動く客車のことを“自動車”と呼ぶことを教えてくれた。基本的には電気の力で動くらしい。


「鳥バスのような大きい自動車はなんでないんだろう?」


 私の疑問をステラが代わりに口に出すと、ルイザが答えてくれた。大きい物はオカミンが引く方が効率が良いらしい。

 周囲の建物に目を向けると、冒険者ギルドを参考にしてるのか形が似ている建物が多くみられる。村とは違って大きく高い建物が目立ち、どれも木材は使われてないように見え、外観は見ていて退屈しそうなくらいスッキリしている。

 高さは低くても3階はあり、高ければ10階以上はある。遥か遠くには空を突き刺す柱のような物が建ち並んでいるのでこの近くのはまだ低い方なのだろう。

 ルイザは遠くを指差すと、柱の様な建物について説明を始める。


「あの付近は超高層の建物が多くあるアレスティアの首都リルボスですわ。エリンプスの町との間は高い壁で隔てられていて、首都との境目がある程度遠くからでも分かる様になっていますの。壁はありますが出入りは自由なのであってないようなものですわね。でも一歩首都に入ると隣接してるとは思えないくらい雰囲気がガラリと変わりますわ」


 ルイザは実際に足を運んでその違いを肌身に感じたと言っている。


「なぜそうなっているかというと――」


 首都に関する話はまだ続くようでルイザは得意げに早口で喋り始めた。私を含めちゃんと聞けている人はいないようで相槌が雑になっていった。

 ルイザの話が終わった後、外の風景を不安そうに見ていたケミーはステラに今の気持ちをを告げる。


「ステラちゃん、私こんな凄い場所でやっていけるかな?」


「慣れるんじゃない? 孤児院がどんな所か知らないけどきっと大丈夫だよ」


 ステラはケミーの様子にあまり興味無さそうだったけど、気分を沈ませない様に無難に答えていた。そんなケミーとは対照的にキディアは落ち着いていた。


 鳥バスがゆっくりと進んで行くと大きな広場に出た。中央には大きな円形の緑豊かな公園があり、町の人達や屋台がたくさん集まって賑わっている。人種は様々だけど人間の次に猫人と犬人が多く見えた。その中にエルフは全くいなかった。

 彼らの服装は都会といった感じで村の人達と比べると色やデザインが特徴的ではあるけど奇妙に見える。私が現代のセンスに染まっていないからそう感じてしまうのだろう。ケミー以外の子にはそれらがオシャレに見えてるようだ。


 鳥バスは公園の緩やかな曲線の外周部分を時計回りに進んでいく。ここは一方通行ですれ違う他の車はない。広場からまた建物と建物の間の道へと風景は移り、しばらくするとまた同じような広場に出る。

 そういったことを何度か繰り返し、町に入ってから1時間ほどして目的地の冒険者ギルドへ着いた。その頃には空の色は黒くなっていた。


「冒険者ギルド11番街レテ区支部に到着しました。お降りの際はお忘れ物――」


「やっと着きましたわね」


 車内に到着のアナウンスが流れるとルイザは声に疲れと嬉しさを滲ませて言った。

 アナウンスは冒険者ギルドを“11番街レテ区支部”という部分まで言ったのでそこまでがギルドの名称のようだ。エリンプス町にはいくつも冒険者ギルドがあるらしく、区別するために地区名を入れてるのだろう。

 冒険者ギルドの建物は今まで見たものと比べるととても大きい。村のギルドは2階しかなかったけどここは窓の数が縦に10個並んでるので10階はあるのかもしれない。

 少し待つと御者は鳥バスの扉を開けた。一般の乗客を先に降ろし、その後で私達を降ろしていく。


 ステラは降り立つと周囲の建物を見上げた。夜とは思えないほどオレンジ色で照らされた町は形がハッキリと分かる。私の時代は窓から漏れる薄い光や店先の薄明りのランプくらいしか光源がなかったので暗かった。だから夜道を歩く時は魔法で照らして歩く人が多かった。今見える範囲にそんなことをしてる人はいない。


(デシリア、ありがとう)


 ステラが私にお礼を言った。何のお礼だろう?


(急にどうしたの? 私をおだてたってお金は勝手に使わせないよ?)


(私さ、本当に帰って来れたんだね。夢みたい。デシリアがいなかったらこの風景を2度と見れなかったかもしれない……)


 ステラは表には出さなかったけど今にも泣きそうな声で言った。どうにか堪えたようで涙は出て来なかった。


 さて、目的地に着いたのはいいけど、孤児院に行かないステラはもう自由に行動してもいいのだろうか? 迷っていると御者は私達に指示を出した。


「長い時間お疲れ様。今日はもう遅いから孤児院の案内は明日だ。今日までは宿舎で泊まってもらうよ。それとステラ君は近所だし土地鑑はあると思うけど、私達は責任を持って家に送り届けないと行けないから君もみんなと泊っていきなさい」


 ステラはすぐに家に帰れないことに不満はないようだ。むしろみんなとの時間が伸びて喜んでいる。早速ルイザ含む4人は宿舎のある階に向かった。


「私もみんなと同じ部屋に泊まらせてもらってもいいかしら?」


 一緒にいられるのが最後だからとルイザの方から頼み込んできた。

 ケミーは笑顔を作るとルイザに抱き着き「いいに決まってるよ!」と歓迎した。そしてついでとばかりにステラにも抱き着いてきた。ステラは一緒にいられるのが今日までだからか照れ臭そうにしながら受け入れた。

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