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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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91 見慣れた風景 1

 車内中央の通路を通ろうとすると他の乗客からルイザに感謝の言葉が飛んできた。ルイザは手を振り、ステラは羨ましそうにルイザを見つめる。

 そのステラに対してルイザは何か言いたげにしているとケミー達の声に遮られた。


「お疲れ様ルイザちゃん、ステラちゃん! ルイザちゃんカッコよかったよ!」

「お、お疲れ様。ルイザちゃん、ステラちゃん」


「大したことなかったですわ」


 ルイザはケミー達にも澄ました顔で余裕を見せた。

 ステラとルイザが席に着くと「ピー―ッ」というオカミンの発車を告げる鳴き声ともに鳥車は動き出す。


(ステラちょっといい?)


 私はステラに頼みごとをした。ルイザに身体強化が掛かったのかを確認させるとルイザは答える。


「ええ、さきほどは私の身体強化よりも遥かに強力なのが掛かってましたわ。あれだけ距離が離れててあれほどの効果が出るなんてとんでもないですわね」


 そう言ってルイザは呆れた目つきでステラを――というよりは私を見つめた。

 それから少しすると改まったルイザは真面目な顔を作り、ステラの耳元に口を近づける。


「先ほどステラは私のことを羨ましそうに見てたけど……」


 ステラは興味深そうに目を大きく開け、目線だけをルイザに向ける。


「私はあなたの方が羨ましいですわ」


 ステラは意味を理解しようとするけどルイザが自分を羨ましがる要素が思いつかなかったようだ。


「私が羨ましい? でも私なんてなんのとりえもないし、って何も考えてなさそうに見えるから楽しそうだと思ってるんでしょ?!」


 ステラはルイザが相手だからか不満は出さずに困った笑みを浮かべて問いかける。


「私の中にもデシリアみたいな存在がいてくれたらと、思いますわ……」


「え?」


 そう告げた後ルイザは顔を離し、ケミー達と楽しそうに雑談を始めた。ステラへ伝えた言葉の感じからは物悲しい印象を受けた。

 ステラはそれが気がかりだったようで私にルイザのことを尋ねる。


(デシリアはルイザちゃんに移りたいと思ってたりする?)


 私はまだステラに、“取り憑いた相手から離れられない”ということを伝えてない。だからそんな考えを持ったようだ。ルイザに気を使って彼女に移って欲しいと言ってくるかもしれないな。


(ルイザに取り憑きたいとは思ってないよ。じゃあ私からも聞くけどステラは私にどこかに行って欲しいと思ってたりする?)


(思ったことないよ。あ、そうだ。ルイザちゃんが私のこと精神の病気か疑ってたし、そうじゃないと証明するために試しにルイザちゃんに移ってみてよ)


 残念だけどそれはできない。私の魔法でも霊体をステラから切り離す方法は分からないし、幽霊の知人から方法は今のところは無いと言われている。


(実は取り憑くのも離脱するのもかな~り面倒臭い作業が必要なの。だから余程のことが無い限りは勘弁して欲しいな)


 そう告げるとステラは渋々と諦めた。とにかく、これで追い出そうなんてことはしてこないだろう。

 というか幽霊である私にも一応人格があるわけだから道具のように貸し借りって発想はやめて欲しい。


 さて、レンゼイ村周辺までは緑豊かだった景色は赤茶色の殺風景な荒地へと変わり、四方は地平線まで平らな大地が続いている。進行方向は果てまで一直線の綺麗にならされた灰色の道が続いていて、ステラの家があるエリンプスという町を目指している。


 今日中に行けるのか? と不安はあるけどこれほどのスピードならきっと間に合うのだろう。

 地平線までにかかる時間は多分だけど1~2分程度。周囲の風景はそれほどの速さにも拘わらず変化に乏しい。そしてエリンプスと思われる超巨大な建物群が地平線付近に認識できた。


(デシリア、もうすぐエリンプスだよ!)


 とステラは窓に顔を張り付け建物を見つめる。


「ねぇステラちゃん、もしかしてあれがエリンプスの町なのかなぁ?」


 ケミーは位置的に見づらいだろうに、きつい姿勢で進行方向にある建物群を視界に入れたようだ。その問いにルイザが答える。


「違いますわよ、あれは位置的に古代都市サンレイクですわ」


 レンゼイ村からエリンプスに向かうとエリンプスの手前にサンレイクという古代都市があるとルイザは説明してくれた。


(ちょっとステラ、あなたたった1週間そこらで故郷の町の姿も忘れたの?)


(いや、だって町の外に出たの初めてだし、似てるからてっきりそうなのかと思っちゃったよ)


 ステラにウンザリした態度で詰めているとルイザが解説を続ける。


「サンレイクに人が住んでるとは聞きますが寄ったことが無いので私も詳しい事は分からないのですわ。鳥バスも寄らないようですし、治安は悪いかもしれませんわね」


 ケミーが疑問に思ったことを尋ねる。


「鳥バスが寄らないとなんで治安が悪いの?」


「冒険者ギルドがないからですわ。それにサンレイクは遥か大昔に放棄された場所でアレスティア国の領域なのに政府による管理もされてないのですわ。つまりは警察も対応できないということですわ」


 この辺はアレスティアという名前の国の領土のようだ。それよりも――


(ステラ、けいさつってなに?)


(えぇ?? 知らないの? 悪い事したら取り締まる人たちの事だよ)


 私の時代でいう騎士団や衛兵、自警団ってところか。名前が違うのは何故だろう。ステラに聞いてみるけど私の疑問に答えることはできなかった。

 サンレイクの話はこれ以上は特に盛り上がることも無く、鳥バスはサンレイクを背後に置き去りにし、エリンプスへ進んで行く。途中現れた海のような広い湖の中を突っ切り、そして再び荒地を走る。空が赤くなる頃にようやくエリンプスらしき建物が見えて来た。地平線いっぱいに広がる建物群。遠くからでもその広さと凄さが分かる。


「ほら、ステラ。あれがエリンプスですわ」


 ルイザはステラにわざわざ声を掛けた。


「やっと帰って来れた~」


 ステラは約1週間ぶりの帰郷に、安堵からか今までの疲れが一気に現れたようだ。

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