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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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89 謎

 ステラ達がレンゼイ村を離れて4日ほど経った夏が迫るその日、男がレンゼイ村に足を踏み入れる。40代後半にしては若い見た目をしているその者の正体は、勇者の国ソールディアの最高ランクの勇者アルスだ。しかしながら正体を村人に明かしたところでピンと来る者は皆無である。


 勇者がその名を轟かせたのは遥か大昔。平和が訪れ、時が流れるにつれ勇者の存在は覚える必要の無い物として記憶から消え、そして記録からも消されていった。それほどまでに長く平和な時代が続いていた。

 たまに勇者は人前に出て名乗ることがあるため知ってる人もごく少数いるのだが、勇者が何者なのかまでは知られていない。


 そんな事情はさておき、アルスはサテライトランク勇者の男を一人引き連れてレンゼイ村に視察に来ていた。魔王を名乗る者とコッテンらしき者の目撃情報が上がったからだ。


 彼らの服装は目立たない様に平均的な冒険者といった装いの鎧姿をしている。今アルスが着ているのはそれを外見だけ似せた上位互換の鎧で全く同じでは無い。


「まさかとは思うが、戦闘があったというのはここか?」


 アルスが目を向けたのはタイムマシン研究所跡地。火災によって出来た瓦礫は既に片付けられており建物は一切なく石造りの塀とデコボコの空き地だけが広がる。


 建物があった頃は門が閉じていたが、今では常に開いた状態となっており自由に立ち入り可能だ。


「いえ、ここじゃないです。魔王を名乗る者が現れる直前にここで火災があったみたいなので何か関係があるんじゃないかと」


 サテライトランクの男が答える。サテライトランクはシャドウより1つ下だ。


 目上であるアルスに対して言葉遣いは軽いが、勇者同士の言葉遣いに上下関係はなく、意思疎通が出来れば多少乱暴であっても問題はない。


(魔王とタイムマシン研究所の関係か……あるとすれば魔力を求めて襲撃したのだろう)


 研究施設の監視は勇者の役目ではない。別の組織が監視し、どんな研究施設なのか、どこにあるのか程度の最低限の情報提供が行われる。


(だが、そもそも新しい魔王が現れたなら真っ先に俺が把握できてないのはおかしい。つまりは魔王をかたる偽物だろう。だが、なんのために騙る? そもそもなぜ魔王の存在を把握している? 魔王の存在を知る者は魔王を騙ろうとはしないはずだ)


 魔王は単体ではなく複数おり、遥か遠い大昔に勇者の手によって世界各地に複数封印がなされ、現在もそのまま維持されている。

 今回の魔王は封印が解かれたから現れたわけではない。まだ封印を解いていないことをアルスは把握している。

 魔王は何かの影響により発生し、その情報はアルスに真っ先にもたらされる。それは絶対であり今まで例外はない。そういう事情もありアルスは把握できなかった魔王シェダールのことを偽物だと断定している。


 ちなみに魔王の存在は現在は秘匿ひとくされており、それを知る者は極一部の者となっている。

 秘匿された理由は、無用な混乱を無くすためだったり、存在を知った者に封印を解かれる可能性を減らすためだったり、と様々ある。


「何か分かりますか?」


 月の勇者の男は研究施設の火事の原因をアルスに尋ねた。アルスは何も分からないがとりあえず答えることにした。


「推測になるが研究所ということは魔石での研究をしてた可能性がある。魔石を狙ったのかもしれないな。それよりも戦闘があった場所に興味がある。案内してくれ」


 二人はデシリアと魔王の戦闘跡地へ移動した。


 進んで行くと荒地の中にボウルのように凹んだ広大な穴が広がっていた。

 深さは10m近く、幅は数百メートル。

 それを見たアルスは動じなかった。その程度のことはアルスでも出来るからだ。


「魔王と多分ですけどコッテンが戦ったと思います」


 月の勇者は最初にコッテンらしき者と接触した時は想定よりも動きが鈍いために別人だと考えていたが、目の前の光景を見た時は『あれはやはりコッテンだったか』と考えを改めていた。


「コッテン以外の可能性はないのか?」


「近くに数百年近く姿が変わらない人達が住んでる大きな館があったんですけど、もしかしたらその住人が戦った可能性もあるかもしれないです」


「どの建物だ?」


 アルスは当たりを見回すがそれらしいものはない。遠くにあるのは館というには無理がある殺風景な塀に囲われた庶民的な建物ばかりだ。


「戦闘に巻き込まれて全て吹き飛んだかもしれないですね」


「そうか……しかしこれほどの規模の戦闘となると闇ランク並ということになるな。それほどの力を持った存在はそうはいない。館の住人よりも明確に実力に証明のあるコッテンが戦った可能性が高いだろう」


 アルスはここで戦ったのがコッテンである可能性が高すぎるとして館の住人の可能性を真っ先に排除した。長生きしてるだけでは強いという証明にならない。

 

「それでお前は魔王とコッテンはどちらが勝ったと思う?」

 

 サテライトの勇者達は怪我人がいたため安全最優先で退避しており、戦闘の様子は目撃していない。

 戦闘が落ち着いてから確認しに戻ると変わり果てた荒地だけが残されていた。


「コッテンも魔王もシャドウの勇者以上の強さみたいだし、予想が難しいですね。言えることはコッテンが勝ってて欲しいということですかね」


「どうしてだ?」


「好戦的ではないので、準備万端で先手を取りやすいからですね」


「魔王はいきなり襲って来たんだったな。俺達の活動の邪魔になる以上は早めに対処しないといけないな」


 そう言った後、目の前の大穴に目を向けながら考え込む。

 コッテンと魔王を放置するという考えはなく、特に魔王への対応に頭を悩ませる。

 コッテンは見つけ次第適切な戦力をぶつければどうにかなるが、魔王は好戦的なために見られてしまった段階で戦力が無いと被害を被る可能性が高いからだ。


 この事は一旦後で考えることにし、他にも何か無いか調べることにした。

 しかし目ぼしいものがないと分かるとレンゼイ村を後にした。

2章はこれでおしまい

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