88 ルイザVSアニータ 3戦目 2
「あ、いた! ルイザ!」
ステラ以外のうんざりした視線がアニータを突き刺す。
アニータはそんな視線などお構いなしにルイザに近づくと何かが入った華やかな袋を差し出す。
ルイザは心底嫌そうな顔をアニータへ向けた。
「その顔は止めて、傷つくから!」
アニータは困り顔で訴えるけどルイザはそのままの表情で言葉を返す。
「あなたに傷つけられたのは私ですわ。よくそんなことが言えますわね」
「だからーごめんってば。ほら、これ私からのお詫びの気持ちよ」
アニータはルイザの膝の上に置こうとするけどルイザは押し返す。
「いらない、帰って」
そう言われたアニータはルイザ以外の子に「どうにかしろ」とばかりの視線を送る。キディアは目を大きく開けてビクっと震えた。
間近でそのアニータの顔を見てるルイザは、うんざりした顔でため息を吐くとプレゼントを受け取った。
「はいはい、分かりました分かりました受け取りますわ。だから私の友達を脅すのは止めて頂戴」
「脅してなんかないわよ、私は元々そういうキツイ顔なの! って誰がキツイ顔よ!!」
ルイザは四角い袋を嫌々ながら受け取るとそれを膝の上で抱え、アニータを突き放す言葉を口にする。
「それで、まだ用があるのかしら? もうすぐこの鳥バスは出発しますわよ? 早く下りないとあなたのせいで遅れるのですわ」
「分かってるわよ。それで、あの、お礼の言葉はないの? その、……ありがとうとか」
お礼の要求にルイザは軽い頭痛みたいに顔を歪めて答える。
「素敵なプレゼントありがとうございました。とても嬉しいですわ」
淡々としたその言葉を聞いたアニータは嫌そうに言われたにも拘わらず嬉しそうに上機嫌で去っていった。
表情を戻したルイザは贈られた四角い袋を開けて恐る恐る中を確認していく。中には兎猫のぬいぐるみと手紙でも入っていそうな可愛らしい封筒が入っていた。
「…………うっ」
ルイザは封筒を目の高さに掲げる。嫌な予感でもしたのか唸ると袋の中に戻した。
不思議に思ったステラは疑問を口にした。
「手紙でも入ってるんじゃないの? 見ないの?」
「なんとなく嫌な予感がするのですわ」
ステラは不思議に思いつつもこれ以上は聞こうとはしなかった。
発車まで4人は適当に雑談をして時間を潰していると音楽が流れ始めた。その音の間に中性的な声が混ざり、そろそろ鳥バスが動き出すことを伝えてきた。
ルイザは再び封筒を取り出すと桃の形をした封を切って開いた。
「こ、これは……?!」
そこには、なんと! 何も入っていなかった。
……入れ忘れ?
「ど、どういう意味なのかしら? 嫌がらせ……?」
ルイザは困惑し、ステラはアニータが入れ忘れたと思ったようでその間抜けっぷりに大笑いした。
ルイザは手紙が入ってなかったことに安心してるようだった。
そんな安らかな時間も束の間、鳥バスが動き出すと窓の外からアニータの声が聞こえた。
「待って、待ちなさいよ! ルイザ、ルイザ! 手紙を入れ忘れてたわ!」
ルイザの顔に緊張が走る。
そんなルイザの様子に気づく間もなくステラは窓を開けて顔を出した。
「ちょ、ちょっとステラ! あんな女、無視するのですわ!」
ルイザは焦ってステラの背中を強く引っ張る。
「あの人、手紙を入れ忘れたって言ってるよ、窓際の私が代わりに受け取るよ」
ステラは再び顔を出そうとすると、窓にはアニータが駆け足でピョンピョンと飛んで中のルイザに手紙をひらひらと見せつける。
「ひぃっ!」
それを見たルイザは小さく悲鳴を上げた。
「そこのチビ人間、これをルイザに渡して頂戴!」
チビ人間とはこの中で1番小さいステラの事だろう。アニータはステラを見据えながら手紙を持つ手を伸ばした。ステラが掴もうとすると背中をルイザに引っ張られ取り損ねる。するとアニータは舌打ちをしてステラの対面のケミーに声を掛けた。ケミーは戸惑いながらルイザとアニータへ視線を何度か往復させる。ルイザは顔を左右に振り手紙を受け取るなと合図するとわざわざ自分で窓に手を伸ばして閉めた。
「あ、ルイザ! ちょっと!」
アニータの焦りは加速する。
まさかルイザが窓を閉めると思ってなかったのか唖然としていた。
「て、手が滑ったのですわ!」
ドンドンドン! とアニータは走りながら窓を叩き、開けるように急かす。
徐々に速くなっていく鳥バス。アニータの歩幅も広くなり、きつくなってきたのか顔が歪む。
鳥バスの速度は速いためずっと追い続けるのは厳しい。
「ケミー! ケミー!」
アニータがケミーを睨みながら名前を叫ぶとケミーは圧に負けたのか嫌そうにしながらも窓を開けた。
するとアニータは手紙を投げ、それは回転しながらキディアの膝に落ちた。
そしてアニータは目的を果たしたからか足を止めた。徐々に遠くなっていく息を切らして苦しそうなアニータの姿。ステラの肩から出した霊体で見ていた私はどうせ私の事は見えてないだろうけど「バイバ~イ」と手を振っておいた。




