86 ゴスロリ 2
「ねぇルイザちゃん、これ私に似合うかな?」
ステラはゴスロリとかいう名前の黒いドレス服を広げながらルイザに尋ねる。
「ええ、似合うと思いますわ。でもステラはこれよりも髪の色に合わせたものがいいかもしれませんわね。ここには無さそうですわ。エリンプスならあると思いますので、い、一緒に店を回ってもいいですわよ」
そう言われたステラは少し驚いた。
(デシリア!! ルイザちゃんが私を誘ってくれた! 信じられない! ということは、もしかしてルイザちゃん友達少ないのかな?)
なんでそうなる?
(あなたはまだ子供だから知らないだろうけど仕事を始めると友達とは疎遠になるんだよ。ルイザには友達がいないんじゃなくて遠い場所に友達がいるの、多分)
ルイザは世界のあちこちを回ってるみたいだし冒険者チームを組んでいないから尚更そうだろう。
ステラはルイザのあの服と違うのを確認すると元のハンガーラックに戻し、他のも確認していく。
いくつか確認していくとそっくりなのを見つけた。
ステラがそれを見回してる間に私がルイザの表情を伺うと、今までと違って食い入るように見つめている。
(デシリア! これ12万ルドだって、ルイザちゃんが着ていたのと多分同じかもしれない)
値段だけじゃ判断できないけどルイザの食いつき具合から見ると同じ可能性はありそうだ。
ステラはケミー達にも見せていくとあまりの高値に目を見開いていた。
「ルイザちゃんも見て見て」
ステラはルイザに話を振った。
「これ、私のと全く同じものですわ」
ルイザはそれを手に取り複雑そうな顔でゴスロリ風ドレスを広げながら見つめる。
「いくら『ドミニオン』とはいえ、こんな田舎に売ってるとは思いませんでしたわ」
「昨日さ、みんなで話し合ってルイザちゃんに何かプレゼントしようって決めたんだ」
ステラの言葉にルイザは不機嫌な顔を向けた。
「何を言ってるの?! こんな高価な物、頂くわけにはいかないのですわ」
ステラはそれに動じず、笑顔でルイザへ尋ねる。
「ルイザちゃんエリンプスにしばらくいるんでしょ?」
「え、ええ」
「私に冒険者のこと、色々教えて欲しいんだ」
「私も私も!」
「わ、私もいいかな? い、今は冒険者になるつもりはないけど、どんななのか知っておきたいし」
ステラが言うとケミーとキディアも便乗した。
「別にこんなもの頂かなくても教えて差しあげるのですわ!」
ルイザは見返りはいらないと突っぱねた。
しかしステラ達はそれでは困る。ケミーとキディアは恩を返したい。ステラは戦闘に巻き込んでしまったことを詫びたいし、ルイザとの距離も縮めたい。
ケミーは声を上げ、昨日みんなで決めたことを口にする。
「ルイザちゃん、ステラちゃんから聞いたよ。これと同じ服、駄目になったんでしょ? だからみんなでお金を出し合って服を買ってあげようって昨日話したんだ」
「え?」
「助けてもらったお礼だよ。あの男の人から貰ったお金をルイザちゃんの服代に当てようと思ってるんだ!」
その言葉を聞きルイザは言いふらしたステラを睨みつけた。
(わわわ、ルイザちゃんがすっごい睨んでる! もしかしてこのやり方失敗だったかな?)
(ケミー達のお金を使うのが駄目ならステラが全部出せばいいよ、元々そのつもりだったでしょ?)
そうフォローするとステラは少し落ち着いた。
ルイザはステラから視線を外しケミーへと言い返す。
「でも、それだけじゃ足りませんわ。それにあのお金はケミー達で使ってくだ――」
「私も出すわ」
突然出て来た第三者の声。そこに目を向けるとアニータがいた。
「は?」
ルイザはジト目でアニータを睨みつける。
「その目はやめて、もう散々謝ったでしょ? 私が悪かったわ、だから許して頂戴」
「もう気にしていないのですわ。あなたの顔を見ると気が滅入るからさっさと失せてくれると嬉しいのですけど」
「うっ……」
アニータは強く言い返すこともせず、ただ呻いた。けど、それでも退かない。
「その服の代金、私も少し出すわ。いくら出せばいい?」
「結構ですわ」
ルイザは即答するとアニータを無視してケミー達へと顔を向けた。
アニータは諦める気はないのか服についた値札を確認する。
「じゅ、12万……? というかこの服は昨日見たのと同じもの……?」
アニータもあまりの値段の高さに目を見開いた。そしてそれがルイザが昨日着ていた服と同じということに気づいた。
ルイザはアニータを無視してステラ達にわざとらしく明るい声で言葉を掛ける。
「さ、みなさん他の場所を回りますわよ」
「あ、ちょっと待ちなさ……待って! ルイザ、あなたこの服が欲しいんでしょ?」
アニータに言われてルイザは戸惑ったのか一瞬返事に遅れる。
「ベ、別に欲しいだなんて言ってませんわ」
つまりは「欲しくない」とも言ってない。
と、ここで「欲しい」と言わせたいステラが口を挟んだ。




