86 ゴスロリ 1
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「また明日ね、ルイザちゃん」
「ええ、また明日」
そしてルイザの部屋の扉は閉まった。
私はステラを表にしたまま自分の部屋に向かって少し歩くとこちらに向かってくるアニータが視線を向けていた。
ステラは目が合ったようで動揺した。
(ど、ど、どうしよう?)
(何かされたら私に任せたらどうにかするよ)
ステラが焦ったので私は安心させる言葉を掛けた。
「そこのお前!」
アニータは私達に声を飛ばし、近づいて来た。
ステラは緊張しながらも返事をする。
「な、何でしょう?」
「ルイザって何が好きか知らない? 食べ物とか服とか何でもいいから教えなさい」
「はい?」
「どうなの?!」
アニータはステラに詰め寄る。ステラは怖気づいて後ろに下がると壁に背中をぶつけた。
「ごめんなさい、私には分からないです。あの、そんなこと知ってどうするんですか?」
「決まってるじゃない。少しでも私の印象を良くするためにルイザにプレゼントするの」
は?
足を治してもらったお礼じゃないの? もしかしてもうお礼は済ませてたりするのか?
というかなんでイメージを良くしようとしてるんだ?
まさかこの女、ステラを差し置いてルイザを自分のチームへ勧誘するつもりか?!
でも、ルイザが――ルイザに限らないけど――嫌がらせしてきた相手に靡くとはとても思えないし気にするだけ無駄か。
「は、はぁそうですか」
「分からないんじゃ仕方ないわね。自分で聞いてみるわ」
そう言ってアニータは少し苛立ちながらルイザの部屋の前に移動した。だけど、扉の横の呼び鈴のボタンを押さずに壁に背中を預け、腕を組んで待機する。
ルイザが出てくるまで待つのだろうか。流石に呼び鈴の使い方を知らないなんてことはないよね?
(あれだけ朝は揉めてたのに凄い変わりようだね。もう悪い事はしなさそうだし、さっさと部屋に戻った方がいいんじゃない?)
私はまた面倒事を抱えそうな気がしたのでステラに言うと、ステラはアニータを気にしながらも自室へと向かった。
* * * * *
「あ、ステラちゃん。えーっと、ルイザちゃんは?」
部屋に入ると目が合ったケミーが訝し気に聞いてきた。そんな眉を寄せるほどの顔をするほどステラとルイザの仲がどうなったのか気になってたのか。
「うん! とっても楽しかったよ!」
「あ、えーっと、そうじゃなくて……まぁいいか」
ケミーは別の事が気になってたようで表情は不満そうなままだった。
キディアにケミーに何があったのか聞いてみると、今日で最後かもしれないからルイザとみんなで集まって過ごしたかったようだ。
ケミーはルイザを呼びに行こうか迷ってたけど結局諦めた。
私とステラは十分に話をしたのでもう満足だし、明日エリンプスに向かう鳥バスで一緒の部屋になるだろうから焦る必要は無いと思ってる。
というわけで翌日の出発に向けて荷物の整理を始めた。
それが終わってしばらく後にルイザが訪ねて来た。
「ケミーが最後かもしれないからみんなで過ごしたい、っていうから来たのですわ。決して忘れてたわけじゃないのですわ」
少々ツンとしながらも焦りが滲んだ語気から忘れてたんだなってのがよく伝わって来た。
そして夜遅くまでみんなで楽しく過ごした後はルイザは部屋へ戻った。
その後でルイザを除く3人で明日の出発が午後なので暇な午前中をどうするかについて話し合った。結果『ドミニオン』のお店で鳥バスで食べるお菓子などの確保のために買い物をすることが決まった。
ルイザも誘う予定だけど一緒に来てくれればいいな、と期待してみんなは就寝した。幽霊の私は念のために起きて見張りをした。
そして何事も無く朝を迎えた。
朝食のために食堂に行くとルイザは先に席に着いており私達を待っていた。
最初に声を出したのはケミーだった。
「おはようルイザちゃん! いつも着ている黒のお洒落なドレスはどうしたの?」
「あれは……それよりもこの服はどうかしら」
ルイザはくるりと回った。お尻の方から生えてる黒く細いしっぽも回る。
今のルイザの服装は紺のロングスカートに清潔感のある長袖の白いワイシャツで、いつもの黒いドレスよりも爽やかさを感じさせる。
「その服も凄く似合ってるよ! いいなぁー、私にはルイザちゃんほど似合わないかも」
「ありがとうケミー。ケミーが着てもきっと似合うと思いますわ」
ステラは会話のキリがいいと判断したのか口を挟む。
「おはようルイザちゃん。あのさ、朝食終わった後にみんなで一緒にドミニオンに行かない?」
ステラの誘いにルイザは少し顔を背け嫌そうな顔をした。これは無理かなと思ってるとステラへと顔を向け、笑みを浮かべて「行く」と返してきた。
朝食後、すぐに『ドミニオン』へ移動し店内へ入った。
4人で色々なエリアを回り、服のコーナーが近づいてきた。
昨日ステラはケミー達と話し合い、ルイザのためにあの黒いドレスをプレゼントをすることを決めていた。ケミーとキディアは昨日ゼラルドから受け取ったお金をルイザの服のために回してくれると言ってくれた。
ルイザと同じ服があるかは分からないけど、もしそれを贈るのだとしたらステラが半分以上はお金を出すことになるだろう。けど、それは私が許可している。
私はステラ以外の話し相手も欲しいし、ルイザは私の存在を他人に喋らないだろうから距離を縮めておきたい。
ステラとして接するのと私自身として接するのとでは全然違うからね。
後はこの店にルイザの気に入る服があればいいけど……。
そんなことを考えてるとルイザの黒づくめの服と似た物が並んでいるのが目に入った。
ケミーが声を発した。
「あ、あれってルイザちゃんが着てた服と似てるね!!」
ケミーは興味深そうにハンガーラックに掛けてあるその服のハンガーごと手に取り眺める。
触っていると値札に表示された金額が目に入り、ケミーは大きな声を出す。
「見て見て、これ4万もするよ!」
(ルイザちゃんのは10万って言ってたし多分これとは違うかも)
ステラはケミーからハンガーごと受け取り、ルイザの服との違いを私に見せ確認しながら見回す。
値札の隣には『ゴスロリ』と書いてあった。服の名称だろう。
でもゴスロリって何だ?




