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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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83 緊張 2

「お邪魔します」


 ステラは囁くように声を出し、恐る恐る扉をくぐっていく。


「こ、この椅子に座るといいのですわ」


 ルイザはテーブルの椅子に座ると私には対面ではなく右斜めの席を勧めてきた。


 ステラ同様にルイザの口調からも緊張感が伝わって来る。

 ステラは勧められた椅子へ腰をおろした。


「……」


「……」


 ルイザの言葉を待つけど、言葉は飛んで来ない。

 ルイザはチラチラとステラを見ては口元をもぞもぞとさせ、顔を俯かせる。何か言いたいのだろうけど酷い事を言った自覚があるからなのか、なかなか切り出せないように見える。


「ルイザちゃん……」


 先に声を掛けたのはステラ。ルイザはビクッと震える。


「な、なに?」


「体は大丈夫?」


「だ、大丈夫ですわ」


 ステラはニコリと笑みを作った。


「なら良かった。じゃああの黒いドレスは? 穴が開いちゃってたよね」


「うぅ……あれ、高いからお金が……」


 ルイザは苦い顔に変わる。


「いくらくらいするの?」


「10万ルド……」


 3万ルドで1月分の食費、ということは約3カ月分の食費か。


(10万……、あのぉデシリア、ちょっといいかな?)


 多分ステラはルイザのために新しい服を買ってあげたいとか破けた服の修理代を出したいとか思ってるはず。

 それが余裕で出来るくらいのお金は持ってるからね。


(言いたいことは分かる。本当にいいのステラ?)


 今回こうなったのは私が原因な所があるから、ステラが構わないと言うのなら私はお金を出してもいいと思ってる。でも大金だ。それほどの額を子供にポンっと気軽に出す感覚を覚えさせたくはない。


(私、ルイザちゃんと仲良くなりたい。お金に頼ったやり方は駄目だと思ってるけど、私とルイザちゃんの仲は良くないし、きっかけくらいは欲しいよ)


(駄目。と言いたいところだけど今回は私にも責任があるし10万くらいなら出してもいいよ)


(え? 本当にいいの?)


(いいよ、でもルイザは受け取ってくれないと思うよ?)


 ルイザの黒いドレスがああなったのは彼女があんな場所に来たからでもある。ルイザがまともなら自己責任だとしてきっと断るだろう。


「ルイザちゃん。あのね、服の修理代、私、出すよ。ううん、新しいのにするなら10万までなら――」


「へ? あんな大金を子供のあなたが持ってるわけ……いえ、気持ちはありがたいけどお断りしますわ。ああなったのは私が悪いし、それにお金はたくさん持ってますから心配無用ですわ」


 やっぱり断られたか。


 しかしステラは食い下がった。でもルイザはことごとく断った。

 距離を縮めたいステラの空気はどんよりと重くなった。


(ステラ、服のことは一旦忘れようか)


 ステラに対する好感度は上がってるだろうからこの辺で引いた方がいいだろう。しつこいと反転するかもしれないから私は別の話題を振るように勧めた。


「ルイザちゃん、ごめんね。さっきはなんか、怖がらせちゃったみたいで」


 ステラに謝られた事に焦ったのかルイザは目を><の字に閉じて胸の近くで勢いよく両手をぶるぶると振った。


「違いますわ、いえ、違わないですけど……その、ごめんなさい。でもそれは私が悪いのですわ。ステラにあんな酷いこと言っちゃって……」


(デシリア見て見て、ルイザちゃんの今の仕草、可愛いと思わない?)


(ちょっと、ルイザは真面目に謝ってるんだからそんなこと思ったら失礼でしょ)


 と思いつつも、確かに可愛いと思った。私には出せない可愛さだ。

 美人のくせに可愛いとはムカつく。

 私だってエルフだから並の人間なんかよりは遥かに美人だし子供の頃はあれくらいに可愛かったはず。だから私はルイザでルイザは私だ!


 って私も何考えてるんだアホ!


「そういえばルイザちゃん、なんであんな場所にいたの?」


「え、それは……あなたが部屋にいなかったから気になって、って私のことよりもあなたは何をしてたのかしら?」


「え? えーと、知り合いの家に手紙を届けに行ったら変な人達に巻き込まれただけだよ」


(ステラ、そんなことよりもほら、私の力の事、口止めしてくれる?)


 ルイザはステラに引け目を感じてるし口止めに応じてくれるだろう。


「だからってなんでわざわざあんな夜中に――」


「あ、そうそうルイザちゃんにお願いがあるんだけど、私のこの力のことは誰にも言わないで黙っていて欲しいなぁ~って……駄目かな?」


 ルイザは強張っていた顔を少し緩ませるとお願いをあっさりと快く受け入れてくれた。そして疑問を投げてきた。


「ええ、勿論いいですわよ! そのかわり、ではありませんが良ければ聞かせて欲しいことがあるのですわ。なぜステラはあれほどの力を持っているのですか?」


「えーと、それは……」


「良ければですので無理に言わなくてもいいのですわ。その力でケミー達を助けたとケミーから聞きましたし、後ろめたいことがあって隠してるわけじゃなさそうですし」


「なんか、ごめんね」


「いいのですわ。お気になさらずに」


 通常、突出した能力というのは何かしらの組織に属さないと得られない。私の力も組織に属することで半分以上は得られたものだ。今の時代も力を得る手段はおそらく変わらないと思う。それでそういった組織が手放すのはそう簡単にはないはずなので秘密の任務でも請け負っているとルイザに思われてるんじゃないだろうか?


 だからその勘違いを――してないかもしれないけど――解くために学業に勤しむだけのただの一般人ということを知ってもらった方がいいだろう。ステラがフリーだと分かって貰えば同じ冒険者チームになれる可能性が出て来るからね。


 さて、力の事は私が説明した方がスムーズにいくだろう。ということでステラと交代した。


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