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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
158/282

82.5 ルイザは謝りたい

* * * * *


「本当に子供だというのならあなたもあの男と同じ化け物なんでしょ! ……っ!」


 ルイザは不味いことを言ってしまったと気づき、なぜそんな言葉を口に出してしまったのかさえも分からずにステラから衝動的に逃げ出した。


 直前まで死にかけだったため彼女の頭はまだしっかりと働いておらず、ただただ目の前の理解しがたい状況に対して自制が効かずに言葉が飛び出しただけだった。


 なぜ冒険者でも魔術士でもないはずのステラがあれほどのことがあっても無傷なのか。ステラよりも格上であるはずの自分はなぜ死にかけなのか。など様々なことを考え頭の中は混乱に拍車をかけていた。


 走っていくうちに徐々に頭の隅々に十分な血が巡り、通常の思考が出来るようになってから後悔が溢れて来る。ステラが追いかけて来てないのを確認してから声を出した。


「はぁぁぁぁぁ……。なんで私あんな言葉を言ってしまったの?!」


 徐々に走る速度を落としていく。疲れたからではない。体はしっかりと動く。


「助けてもらったのに……怖いからってだけで『化け物』だなんて」


 いつもステラを邪険に扱っていたルイザは今まで酷い態度を取った仕返しをされるのでは、と怖くなって逃げた。そんなことになるはずがないのは今までのステラの態度から分かるものの混乱してた状況では恐怖の方が勝ってしまった。


 今から戻って助けてもらったお礼と酷い言葉を浴びせた謝罪をしたい気持ちはあるが怖くて足は逆を向かない。


「でも、でも……いつもヘラヘラしてたし、きっと傷ついてないはず……んなわけないですわね」


 だからといって傷ついてないという確証もない。醜い考えから自己嫌悪に陥る。


「あーもう!! なんでこんな思いをしなきゃいけないの?! なんであんな力があることを隠してたのよ、ステラの馬鹿! ぅぅ~ステラは馬鹿じゃないよ、私が悪い、私が悪いんだよ」


 一瞬、理不尽にもステラに怒りを向けてしまい、自己嫌悪が増して呻いた。

 あれこれ考えながらも足は止めないが途中から徒歩に変わっていた。少しずつギルドへと近づくにつれ周辺の民家の姿が鮮明になり始め、なんとなしに気持ちは軽くなる。


「ステラが戦ってる姿はあまり見る余裕がなかったけど、どんな戦い方をしてたのかしら?」


 ルイザはステラが戦ってた様子をほとんど見る余裕は無く、体をさっさと治すことだけを考えて星空に目を向けていた。

 最後の爆発はルイザの周囲もかなりの影響を受けたが自分で障壁を張ってなかったにも拘わらず何故か無事だったことに今更になって気づく。


「私が爆発で死ななかったのもステラのおかげ?」


 デシリアがそう言ったことは覚えていない。が、状況的にそうとしか思えなかった。


「そこまでしてくれてたのに私ったら本っ当に最低ね……うぅ、お腹が」


 ルイザはお腹に手を当て回復魔術で胃の不調を治める。

 その時に黒いドレスの右側が大きく破損してることに気づいた。胸の見えてはいけない部分はギリギリ隠れているのでセーフだが、とはいえそれでも見られるのは流石に恥ずかしいし、破損した服を見られて何があったのかと問われると返答に困る。


「夜なのが幸いしそうですわね。それに加えて冒険者の数も少ない村。ギルドの裏の入口から入れば誰にも気づかれずに部屋に戻れそうですわ」


 部屋に戻るまでの間に誰かに見られない様にすることに意識が割かれ、その間はステラの事は綺麗さっぱり頭から抜け落ちた。

 ギルドの自室へ戻ると同じ服は無いため全く別のものに着替える。そして一時的に頭から抜け落ちていたステラのことを思い出し再び頭を抱えた。


「そうですわ。帰って来たところで何も解決していないのですわ」


 明日はルイザもステラ達と一緒にエリンプス行きの鳥バスに相席する予定のため、このままでは気まずく、ケミー達と喋ることさえぎこちなくなってしまうだろう。


「もう1日延長して次の鳥バスに乗るってのは……はぁ、私はなぜ謝ることから逃げてるのかしら」


 ステラがあれほどの力を持ってなければわざわざ謝ろうとは思わなかっただろう。怖いから何かされる前に謝りたい、ということではなく別の理由により葛藤していた。


「あれほどの力があれば今まで入れなかったところも行けるようになるはず」


 ルイザには行きたいところがある。Aランク冒険者も立ち入らないような場所だ。今までにルイザと一緒に行ってくれるような者は一人しかおらず実際に行ったが大して奥まで進めず探索を断念していた。


「どうにかしてステラとチームを……いえ、もう無理。あれだけ何度も突き放してしまったのにいきなり手のひらを返して近づいても怪しまれるだけ……それにステラは奇行が多いしチームになったら私も周りから変人だと思われてしまう」


 もし逆にルイザがステラに化け物とさげすまれれば2度と関わることは無かっただろう。ルイザはステラもそう思うに違いないと思い込んでいた。


「奇行が無かったとしても勧誘は難しいかもしれないですわね。あれほどの力を持っててどこにも所属していないなんてことは有りえないですわ。はぁ……世の中思い通りにはいきませんわね」


 ルイザは気持ちを落ち着かせるために部屋から出ることにした。廊下で偶然ぱったりとステラに会えば勢いで謝罪できるだろうと考える。しかし姿を表したのはケミーとキディアだった。


「あ、いた。ルイザちゃーん。いつもと違う服で可愛いねー!」


 ルイザは素直に喜べる精神状態ではないので愛想笑いで返す。


「ありがとう。わざわざ二人で私に何か用かしら?」


「明日でお別れかもしれないでしょ、だから一緒にどうかなって。私達の部屋に来ない?」


(となるとステラとも顔を合わさなきゃいけないのですわよね……)


 ステラには謝罪をしておきたい。しかし気持ちがまだ追いつかない。


「私の部屋はどうかしら?」


 ルイザはステラにまだ会いたくないため二人を部屋へ案内し始める。


「ステラちゃんも呼んでくるね」


「え? 待って!」


 ルイザはすぐにケミーの手を捕えて止めた。


「部屋が散らかってて、その……年下のステラにだらしないと思われたくないのですわ」


「私達はよくてステラは駄目ということは……なるほど。ステラにだけ見せたくないものでもあるんだね」


「え、ええ」


「じゃあ私達の部屋に行きましょう」


「あ、ああそうじゃなくて……実はさっきステラと喧嘩しちゃって……その、顔を合わせづらいのですわ」


「じゃあ仲直りのために私達が力を貸してあげるよ! まずはルイザの部屋で何があったのか話を聞かせてよ」


 ホッとしたルイザは二人を連れて再び部屋に戻った。

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