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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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81 私にとっては大したことが無い攻撃は 1

 ルイザは私のいる森の中が見えてないのか杖を握り、キョロキョロと悩んだ素振そぶりを見せたあとここへゆっくりと近づき始めた。


(ステラ、何故かルイザがここに向かって来てるよ)


(え?! どどどど、どうするの? 見られたらマズイんだっけ?)


 ルイザなら見られてもいいか? いや、でも、やっぱり見られない方がいい気がする。


(多分マズイと思う。別の森にシェダールを連れて移動しないと)


 そう考えシェダールの方を向こうとすると体が急に振り回され景色が凄い勢いで回転する。

 足元を見るとシェダールの手が私の足を握っており私は近くの木に投げ飛ばされた。

 そのままぶつかるつもりはないので体を捻り木の側面に着地し、慌てず冷静に地面に飛び降りる。


 シェダールに視線を戻すと消したはずの手足は元通りになっていた。


 勇者というのは腕をくっ付けるだけでなく失った手足も復活させることができるのか。いや、魔王だからか? どっちだろ。どっちもかな?

 とにかくあの回復魔法は厄介だな。あれでは手足を消しても別のところに目を向ける余裕がない。


 そんなことよりもまずはルイザがこちらに来ないようにしなきゃ。でもどうすればいい?

 シェダールと戦えば派手な音が出やすいし、そうなれば確実にルイザの意識はここへ向くだろう。 


 あ、そうだ。さっきは私をシェダールが追いかけて来たんだったね。なら逃げればシェダールは私を追いかけて……いや、でも今それをやるとシェダールはルイザの方へ向かう可能性もあるか。もしルイザがシェダールと戦えば彼女はおそらく助からないだろう。それは避けたい。


 というかあれこれと考えてる時間的余裕は無いんだった。ギルドから誰かが来る可能性は十分にあるしこれ以上人を増やしたくない。

 最悪なのが色々な人に実力がバレることだ。ルイザにだけバレて彼女しかいない今のうちにシェダールと決着をつけた方がマシかもしれない。


(ステラ、ルイザに実力がバレるのとルイザが死んでしまうのはどっちが嫌かな?)


 私としてはルイザが死んでしまっても顔バレしない方を優先したいけど、ステラはきっとそれを許容できないだろう。


(え? 待って……でも、ルイザちゃんが死ぬのだけは絶対嫌だ!)


 まぁ、そうだよね。

 ルイザはステラのお気に入りだし、見捨てるわけがないよね。


(……そう、じゃあバレてもいいんだね?)


 ルイザが私の力を口外しないことを祈るとしよう。

 ステラの返事が来る前にシェダールの魔法攻撃が風を切りながら飛んできた。

 音に気づいたのかルイザがこちらの方向へと駆けて来る。


 私は念のためフードを被り、ピッタリと狂いもなく飛んでくるシェダールの魔法を手に纏った消滅魔法で無効化していく。

 風は無効化できずフードは捲られ私は顔を晒す。遠くにいるルイザはまだ私の顔に気づいていない。


 シェダールはようやくルイザの気配を感じたようで私に向けていた手を下ろすと顔の向きを変えた。

 これだけ近づかれれば流石に気づくか。


「こいつの仲間か? そこに隠れても無駄だ。出てこい」


 木の陰に隠れているルイザが出てくる前に私は急いでフードを被りなおす。

 すぐにルイザはおそるおそる姿を表した。彼女の視線はシェダールへと向いている。

 シェダールは黒づくめのその姿を見ると言葉を続けた。


「なんだ、昼間の子供だったか。あの時は分からなかったがただの子供ではないようだな。こんな時間にただの子供がそんな恰好でこんな何も無い場所を出歩くわけが無いからな。それよりもその姿、ハッキリと見たことは無かったが……似てるな」


 ルイザの方はシェダールに見覚えが無いのかポカンとしている。


「こいつの近くにいるということはただ似てる、ではなくあの時近くにいたあいつなのは間違いないな。もしかして既にお前はこいつの仲間か?」


 シェダールは“こいつ”こと私の方に顔を向け、ルイザへ問う。

 しかしルイザは困惑したまますぐに返事をしない。


「答えないならそれでも構わん。どちらにしても俺はお前達を知ってるからな。……ふむ、俺は“奴”に勝てない可能性もあるんだよな。……そうだ、俺と同じ苦しみを味わわせてやろう」


 シェダールはこちらを一瞥しニヤリと笑うとルイザに白い火球を飛ばした。


「え?」


 ルイザはいきなりのことに目を見開き驚く。


(ルイザちゃん!)


 まずいと感じた私はステラが私に助けを求めるより先に動くことにした。私は今まで楽々と防いで来たけどルイザがそれを防げるかは不明だ。シェダールの魔法をその辺の冒険者の魔術と同じと思ってはいけない。

 さて、動いたはいいけどあの火球をルイザの正面に立って防ぐのはギリギリ間に合わなさそうだ。

 私が到着するよりも先に火球はルイザが張った障壁にぶつかった。半円球の障壁は一瞬虹色に発光した。

 白い火球は障壁を貫通したけど減衰して小さくなった状態でルイザへと迫る。慌ててルイザは回避姿勢を取るけど動くのが遅い。


 小さくなったとはいえ当たれば致命傷になりそうな大きさの火球に私は焦りながら自分の体にぴったりと張った障壁ごと火球にぶつかりに行く。

 手を伸ばせばギリギリ届くか? いや、間に合いそうにないな。なので魔法を放ち相殺しようと試みる。火球は完全には消せなかったけどさらに小さくすることができた。これなら直撃しても軽傷だろう。

 それはルイザの右半身に直撃し、そして軽く考えていた私の予想を裏切った。


 ルイザは異常な呻き声を響かせ、歪んだ顔のまま横に倒れ始める。私は咄嗟にルイザの脇に腕を挟んでゆっくりと地面へ下ろした。


 ルイザの右の脇腹は黒くなり少し欠けていた。

 これは軽傷じゃない、放置すれば死ぬ傷だ。


(え……ルイザちゃん?)


 ステラの静かな声に動揺が見られる。こういうのを見慣れてないからこその反応だろう。私も見慣れてるわけではないけど死んでなければ確実に治せるのでそこまで動じることは無い。


 私は治そうと手を近づけると突然自分の意思とは関係なしに体が動き出しルイザから遠ざかっていく。

 これは……恐れていたことが起きたか。

 ステラが私の意志を遮断して体に命令を出したようだ。


(待ってステラ、落ち着いて! 今は私に任せて!)


 上下に小刻みに揺れる視界。シェダールの姿は徐々に大きくなっていく。


「お前ええええぇぇぇぇ!」


 ステラは叫んだ。身体強化も施している状態のため一瞬にしてシェダールの眼前へ到達していた。


(ステラ!! 待って、待ちなさい! 落ち着いて!)


 ステラは拳をシェダールの顔に目掛けて動かす。私が止めようと思ってもステラの意志が優先されてしまいピクリともしない。

 怒りをぶつけるよりも先にルイザをどうにかしないと手遅れになってしまう。

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