80 魔法 2
シェダールは周囲に集まったスライム達を引きちぎり、魔石だけを口の中に入れていく。
異常行動にしか見えないけど一般的にその行為が異常なのかは現代知識に乏しい私には判断できない。ステラに聞いてみたけど何も知らないようだ。
私は魔石が食べられるのか試すために近くのスライムから魔石を手に入れた。それを見回してみるとギリギリ口の中に含めそうなサイズだ。
シェダールはこちらの動きに気づいてるけど邪魔をすることなく淡々と魔石を体の中に収めていく。
私はステラに許可を貰ってから魔石をまず舐めてみることにした。しかし味はしないし溶けることもない。次に歯でかじってみる。
ガキン!
硬い。やはりこんなものを口の中に入れるのは無理だな。シェダールのそれは異常行動と見ていいだろう。
魔石には魔力が含まれているらしいのでシェダールは魔力を取り入れているのかもしれない。
じゃあその足に噛みつかせている犬は何のためにいるんだ? さっき予備の魔力とか言ってたはずだけど……まだ使わずいざというときに使うためにとっておくということか?
それともう1つの疑問。魔物がシェダールの元に集まっているように見えたけど勇者は魔物を操れるとでもいうのか?
「あなたがこの魔物を呼び寄せたの?」
私はすぐ目の前のシェダールへ尋ねると彼は一瞬不思議そうな表情を作った。
「そうだが知らなかったのか? そうか知らなかったんだったな。なぜそれが出来るかだが――」
言おうとした言葉を止め、何か耐えるように口を歪め呻きはじめる。
意味不明な動きをするのはいつものことなので気にせず続きの言葉を待っているとシェダールは突然こちらへ光線を放った。
私は咄嗟に水壁を展開するけど光線はそれを容易く貫いてきた。直撃しそうなそれを避けると後方で爆発音が響いた。
振り向くと100メートルくらい奥の地面に幅十数メートルはありそうな円形の穴があった。
「そうだな、わざわざ伏せた所で俺の目的は一つのみだった。なら知られても問題は無い」
「はい?」
さっきの苦しそうな顔はなんだったんだろう?
「魔物を呼び寄せることが出来るのは俺が魔王だからだ」
魔王? 勇者で魔王?
魔王と言えば私の時代の本に書いてある物語の悪役だったはず。
勇者がいるから魔王がいるだろうか? それとも魔王が先かな?
そんなことはどうでもいいか。
でも魔物を集めるのはどういう仕組みなんだろう。私も鳥や兎、猫とかのカワイイ動物でそれをやってみたいけど私の魔法でもそれはできないからね。
そんな呑気なことを考えている間にもシェダールは再びスライム達から魔石を奪い続ける。
そういえば突然水壁をあっさりと破っていったな。急に攻撃が強くなったということはさっきまでは魔力が足りなくて弱い魔術を使っていたということだろう。
私はギルド方面にふと目を向けると、あることに気がついた。
(あ、しまった! なんで呑気にこんな化け物の相手してたんだろ)
悠長にシェダールの相手をしてる場合じゃないかもしれない。
さっきの盗賊――勇者達とシェダールの戦闘での轟音はかなり響いていた。それを考えるとタイムマシン研究所の火事の時のように、こちらの様子を見にギルドから派遣された誰かがここに来るかもしれない。いや、きっと来るだろう。
その懸念は当たりそうだ。
足音が遠くから聞こえてきた。音の感じから一人だけのようだ。
いくらギルドの魔術士が凄いとしても勇者レベルの戦闘では巻き添えで死なせてしまうかもしれない。魔術士ランク8のイブリンでも勇者には全く歯が立たないのだからきっとそうだ。
それに加えて私の姿を見られるのも、多分マズイ。
シェダールを近くの森に引きずり込んでさっさと黙らせるとするか。
そうと決めた私は早速シェダールに突っ込んでいく。
「さぁかかってこい!」
シェダールは今度は構えた。
私は相手の視界を塞ぐために水球を飛ばす。しかし水球は直撃の寸前で一瞬にして凍結し、氷球になったそれは手で弾かれた。
火球も飛ばして見るけど、直撃直前で勝手に霧散した。
じゃあこれならどうだ。
「ライト!」
光を放ち闇を照らす魔術。私の場合はそれを模した別物だ。
私は周囲に光が漏れないように相手の目にだけ届く線状の糸のような光を放つ。
効果はあるかは分からないけど目眩ましが効いてると信じながら相手の、犬の居ない方の足に両手を伸ばす。
目的は捕まえて森の方へ投げ飛ばすためだけどシェダールは私へ犬ごと蹴りを放ってきた。強烈な蹴りによる風圧で地面が派手に抉れ、犬は足から外れて森の方へ飛んで行った。紙一重で避けた私は隙だらけの地面についてるもう片方の足を捕まえる。
「投げ飛ばす気か? そんな攻撃で俺は倒せないぞ」
シェダールは蹴り上げていた足を私の頭へと勢いよく落とす。視界が一瞬強く揺れ、足元の地面は大きく凹み、周囲はさきほどよりも大きく隆起し、私は少しバランスを崩した。
しかし一切ダメージは無い。
「子供とはいえ、やはりこの程度では倒せないか」
本気で守りに入った私の防御を貫けた者は一人として存在しない。私にダメージを与えたければ私の魔力が切れて防御が薄くなるまで待つくらいしかないだろうね。
「その通り、その程度で私は倒せないよ!!!」
私は相手と同じ言葉を返してから掴んだ足を振り回して森の方へ高めにぶん投げた。
飛んで行った方向を確認し、すぐに追いかけシェダールより先に森へ入る。
先回りした私は空の方へ視線を向ける。飛んできたシェダールは既に空中で体勢を立て直していた。そして落下中にも拘わらず器用にも私へ光線を放つ。
光線を防ぐには障壁で弾くのと消滅魔法で消すという2つの方法がある。障壁で弾くと反射した攻撃が地面などにぶつかった際に轟音が響くので、ほぼ無音で対処できる消滅魔法がいいだろう。
私は向かってくる光線を手に纏わせた消滅魔法をぶつけて無効化した。
あ……やばっ。無詠唱で魔法使っちゃった。




