79 人違いじゃないですか? 3
シェダールは腕を伸ばし手の平をこちらに向ける。徐々に膨れ上がっていく眩しい大きな白い……炎? それは暗闇を派手に照らす。
炎は詠唱も無く現れた。ということは魔法? でも闇の勇者は詠唱をしていた。それより下位である勇者が詠唱をしないというのはどういうこと? 勇者よりも弱い冒険者ですら詠唱しているんだし……ということは最低ランクというのは嘘で本当は闇ランクより上の勇者なのか? いや、単に詠唱のいらない魔術かもしれないか。
そういえばなんで仲間である勇者と戦ってたんだ?
「なんで同じ勇者同士で争ったの? 仲間じゃないの?」
私の発言と同時にシェダールは炎を飛ばして来た。私は強く息を吐いて炎を霧散させる。
シェダールはそれに動じることも無く問いに返してきた。
「その通りあいつらは俺と同じ勇者で仲間だ。だから俺の役に立ってくれたじゃないか。あいつらと戦う事で俺の力が下位の勇者を余裕で倒せる程度に戻っていることを確認することが出来た」
あー、うーん……?
その仲間とやらはあなたのことを敵のように扱ってた気がするけど……まぁいいや。
「それでその仲間はどうしたの?」
「あいつらがどうなったかは知らん。死んでるなら他の勇者に死体を回収されてるだろう。生きてるならこの事態を報告しに移動してるはずだ。とにかくあいつらにもう用はないからどうしようと興味は無い」
殺し合うとかそれもう仲間じゃないよね。
シェダールは無詠唱で手のひらに再び白い炎を作り出す。
私の背後にはクロエの家があるので場所を移動せずにここで戦闘をしては巻き込んで全壊させてしまうだろう。
配慮するのはこの村の民家にもだ。勇者並の実力ならこんな場所からでも結構距離があるギルド周辺にさえ被害を出すかもしれない。それは避けなきゃ。
私はシェダールの背後に急いで回った。彼の背後の方にはかなりの遠くまで行かないと民家などはない。相手をするならその間にある何もない場所がいいだろう。
シェダールは私が動いた姿は見えなかったようで炎を消すとキョロキョロと周囲を見回し間抜けな姿を晒す。
その隙に殺してしまえば楽だろうけど、それは最終手段だ。まだそれほどのことはしていないし、安易に命を奪うという手段は用いたくない。
「どこに行った」
その問いに私はわざとらしく足で地面を叩き音で答える。シェダールはようやくこちらへ気づき私に向かって走り出す。
私は一定の距離を保ちつつ適当に軽めの魔術――魔法だけど――を放ち意識を引き付けながら小さな森へと移動する。
少しの間、森の中を駆け抜けると平原に出た。周囲には近くに建物はなく小さな森が点在している。ここからは冒険者ギルドはかなり遠くに見える。もっと離れた場所に行きたいけどそうなると別の民家が近くなるので戦うならここしかなさそうだ。
立ち止まる私にシェダールが追いつき、声を掛けて来た。
「逃げようと思えば逃げられたのではないのか? まだ万全ではない俺では追いつけそうにないからな」
逃げ切っちゃうとキディア達に矛先が向くかもしれないからできない。
「……私が勝ったらあなたはどうするの?」
「残念ながらお前に負けた時点で俺の生きる意味も無くなる、負けるわけにはいかない」
「さっきから意味が分からないんだけど? それに私の動きについて来れてなかったように見えるけど勝てると思ってるの?」
「思ってるさ、お前に勝てなければ話にならないからな」
ステラではなくもしかして私――デシリアのことに気づいてる?
「もしかして中の私に用事があるのかな?」
私は胸にポンっと手を当てる。
「は? 質問の意味が分からん、戦闘能力だけでなくそういう訳の分からない所もあいつに似てる。やはりお前はあいつだな」
変人だから何か通じるものでもあるのかと思っていたけど私の事には気づいてないのか。
「ワンワンワン!」
何か駆ける音が徐々に大きくなってきたので目を向けると、あのしつこい犬がシェダールに向かって走っていく。
シェダールはその犬に目を向けると何を企んでいるのか小さく笑みを浮かべる。
「魔力はさっき破壊した建物の魔石から回復はしてるんだが、こいつは魔力を大量に保有してるし予備の魔力として近くに置いておくのもいいな。ほら、俺に強く噛みつけ」
シェダールは足を差し出すとわざと噛ませた。犬は必死に頭を振って噛みちぎろうとしてるのか頭を揺さぶる。
(うわぁ……あの人何やってるの?)
ステラは暗闇に目が慣れて来たのか月明かりで微かに照らされるシェダールの行動を見て引いた。
私にはその犬がどの程度魔力を保有しているか分からない。シェダールはどうやって把握してるんだろう?
私がそれを把握出来た所で使い道はなさそうだけどね。
それはいいとして予備ということは魔力が枯渇したらその犬を食べて魔力を回復するということだよね? 魔石を食べちゃうくらいだし平気でやりそうだ。
そのために殺されるのは可哀そうだから剥がしてどこか遠くに放り投げて助けるとしよう。この犬はその程度じゃ死なないことが分かったから雑に扱っても大丈夫だろう。
シェダールは犬からこちらへと顔を向けると白い炎を手のひらに作り始めた。




