表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
146/281

78 昼間の鎧男 2

 音の方に到着すると視界に入ったのはむき出しの館の内部と、無造作に地面に積み上げられた折れた木柱と石壁の瓦礫だった。

 もしクロエ達が別の部屋にいて無事なら異変に気付き様子を見に来るはず。私はそれも考慮しながら瓦礫に埋まったかもしれないクロエ達の捜索を開始した。


 私はクロエの名前を出さずに「誰かいますかー?」と大声で呼びかけて反応を確かめる。

 でもパラパラと落ちる瓦礫の塵や遠くの戦いの音しか耳に入らない。

 返事がないのは瓦礫に潰されて死んでるか、別の場所にいるかのどちらかだ。とりあえず瓦礫を片付け始める。

 魔法で瓦礫を消していくと中には昼間に見た執事がいた。


(ひぃっ……もしかして死んでるの?)


 ステラは瓦礫に挟まれた執事の姿を見て動揺した。


(いや、どうやらまだ生きてるみたいだよ)


 小さく動いたのが見えた。明らかに潰されているはずなのに全く無傷――服は少し汚れているけど血の一滴もついていない。


「わざわざお手を煩わせてしまい申し訳ありません。いえ、ここはお礼を言うべきですね。ありがとうございます」


 執事は私に気づくとお礼を言い、何事もなかったかのように自らあっさりと立ち上がる。と、同時に執事の右腕がボタっと地面に落ちた。


 直後、頭の中にステラの悲鳴が響いた。


 一方、当事者である執事は取り乱すことなく――


「見られてしまいましたね」


 そう言うと腕を拾い、長い袖の中に突っ込み右肩に器用にくっ付け、腕や指を動かした。


「あの……大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫の様です。それにしても驚かないのですね」


 いやいや驚いてるよ、顔には出してないけどさ。


「申し訳ありませんが今のは秘密にしてくださると助かります」


「え、ああ、分かりました。誰にも言いません」


 血は付いてなかったし人工的に造られた腕ということかな? 今の時代は何が変で何が常識なのかよく分からないから私にはそれが非常識な事なのかはそもそも分からなかった。


 そんなことよりもクロエ達がいないか探すために瓦礫の撤去を再開することにした。

 手を付け始めた直後、執事は私にどういう状況なのかと非常に落ち着いた様子で尋ねて来た。


「これは一体何があったのでしょうか?」


「近くで実力者同士の戦闘が起きてます。ここは危険なので安全な場所に避難してください」


 私は伝えた後、黙々と作業を進める。

 執事は黙って私の様子を眺め続けた。危険だからどっか行って欲しい。

 瓦礫を全て取り除いた結果、いたのは飛ばされてきた犬だけで他には誰もいなかった。

 つまりはクロエ達は無事ということだ。

 犬はすぐさまシェダールのところへと駆けて行った。何度も立ち向かっていくけど何があの犬を駆り立てるのだろうか、危険なら逃げればいいのに。恐怖心が壊れてるのか?


(あの犬、頑丈過ぎない?)


 ステラに言われて私はそういえばそうだな、と同意する。

 並の犬ならとっくに全身千切れて形も保ってない事だろう。


(ただの犬じゃなさそうだね。そういえばこの村には研究所がたくさんあるし実験動物の類かもしれないか)


 おそらく脱走でもしたのだろう。もしそうなら危険だからしっかり管理してもらいたいもんだ。

 今頃飼育員か研究員なんかが必死に探し回ってたりしてるかもしれない。


 犬の事よりもまずはクロエ達の安全が先だ。まだ遠くから怒号が聴こえてくるのでまた犬か盗賊、魔法のいずれかが飛んでくるかもしれない。

 私は再び執事に避難するように呼び掛ける。


「早く逃げて下さい。この辺りはまだ安全とは言えないです」


 クロエの安否を確認したいけどその名前を出すとなぜ知ってるのかと思われそうなので口にはしない。口に出さずとも避難するとき執事は自分一人だけで逃げずクロエ達を連れていくだろう。


「忠告ありがとうございます。それでは私は避難しますが、貴方は大丈夫ですか? それと貴方はこんな時間にこんなところで何をされてるのでしょうか?」


 執事は特に表情を変えてはいないが確かに真っ暗な時間にこんな所にいるというのは怪しまれても当然だろう。


「ただの通りすがりです。宿に向かうためにたまたま近くを歩いてただけですよ。とにかく私はこう見えて強いので心配は無用です」


「そうだったのですね。それでは私は避難をさせていただきます」


 私が適当な理由を話すと執事は感情の読めない顔のままクロエ達に呼び掛けるためか館の中へ急いで走っていった。


 私はすぐにギルドに戻ろうと思っていたけどクロエ達が避難する少しの間だけこの館を守るために留まることにした。

 その間、壊れた壁は魔法で雑に修復しておいた。窓などは一切ない石造りの平たい壁になったけど何もないよりはマシだよね。

 さて、館を守りつつ一定時間が経過したけどクロエ達が私の前に姿を表すことは無かった。きっと避難はとっくに終わったのかもしれない。

 気が付けば騒がしい戦闘の音もなくなり静かになっていた。


 私は様子が気になったので先程の盗賊達のいた場所に戻ることにした。

 見つからない様にと電灯はオフにしたまま行くと、廃墟や瓦礫だらけだった場所には先ほどまでは無かった円形に凹んだ地面が増えていた。それだけ激しい戦闘があったのだろう。


(暗くて何も見えない)


 ステラはまた訴えてきた。近くに人の気配はないので見やすいように電灯をつけることにした。

 あの時、盗賊達が一方的にシェダールにやられてたのを思い出し、死体でもあるのではと辺りを歩いてみるけど何もない。

 ということはシェダールの方が負けたということか? 盗賊が勝ったならまだ一人くらい近くにいそうなものだけど……?

 考え込んでると何か音が聞こえた。徐々に、というか急激に何かが近づいてるのかその音は大きくなる。

 音の方を向くと先ほどの犬がこちらにくるくると高速回転しながら飛んでくるのが目に入った。

 私以外なら一瞬で現れたように見えるだろう犬を両手で受け止める。その衝撃の強さを見せつけるように周りの砂や石が吹き飛び、私も後方へと派手に転がった。


(この犬はさっきの……)


 普通の動物が耐えられないような速度で飛んできたにもかかわらず犬はまたも何ともない。

 私は噛まれると面倒なので咄嗟に遠くに放り投げる。

 雑に着地した犬は苦しむ様子も見せず、そして私に見向きもせず森へ視線を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ