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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
145/281

78 昼間の鎧男 1

 近くに潜んでいた盗賊の仲間の二人が転がっていった男の方へ駆けていく。


 廃墟の壁の崩れる音が静まると森の中から落ち着いた足音が聴こえて来る

 音は徐々にこちらに近づき、唸る犬に足を噛まれたままの鎧の男が姿を表した。


 昼間に見た魔石を食べていたあの男だ。

 どういうわけかボロボロに朽ちていたはずの鎧は新品のように傷一つない姿になっていた。

 古臭さを感じさせる独特な形のその鎧は闇の勇者メイのあの鎧を彷彿とさせる。


「いっぱいいるのはいいが弱すぎても困るんだよ。調子がどれくらい戻ったかよく分からないからな」


 鎧男は犬に噛みつかれながらも舐める様な態度で言った。犬はいないかのような扱いだ。

 私の横にいる盗賊は鎧男と私に何か関係があると思ったのか聞いてきた。


「おい子供、あれはお前の仲間……では流石にないよな」


「知らないし、犬も仲間じゃないよ」


「おいみんな! この子供の相手よりも仲間に手を出したあの男を捕まえろ!」


 私を取り囲んでいた男達は標的を鎧男に移し、犬に噛まれたままの鎧男を取り囲んだ。

 私は今なら容易く逃げられるけど鎧男が気になるので様子を見ることにした。


「俺達の仲間を軽々と倒すほどの実力、お前は何者だ?」


 盗賊の一人は険呑な雰囲気を纏わせて鎧の男に尋ねる。

 盗賊程度を軽々と倒す程度の実力なんて大したことないと思うんだけど、その自信のある態度は舐められたくないからか? 

 対する鎧男は質問に納得がいってない様に見える。


「お前の仲間を倒すほどの実力ってのはそんなに凄いことなのか? 俺はこれでも本調子とは言えないんだ、鈍った体を早く元に戻したいからさっきの男より強い奴がいてくれると嬉しいんだが……」


 と、周囲を囲む盗賊達一人一人を値踏みするように視線を向けていき――


「おっと、名乗るのを忘れてたな、俺はシェダールだ。ちなみに勇者だ。勇者って知ってるか? だがもう勇者なんて肩書に何の意味もないがな」


 鎧の男――シェダールは自虐的に言うとフッと笑った。

 そして犬をほどこうと足を素早く動かすが犬は意地でも離さない。

 特に気になってるわけではないようで男は一旦諦めて盗賊達に向き直る。


 私は勇者という言葉を聞き、前に戦った闇の勇者が『勇者は世界の守護者』みたいなことを言ってたことを思い出した。つまりは勇者を自称する鎧の男がこんな所にいるのは悪人である盗賊達を成敗するためということか。

 でもさっき見た時にボロボロだったし、鈍った体と言ってたのはなんなんだ?

 勇者の肩書に意味がない、とは?


 考えていると盗賊達も勇者という言葉が気になったようで怒りながらさらに問い詰める。


「何を訳の分からない事を言ってやがる! 勇者だというのならランクを言え!」


 この盗賊の人達は勇者にランクがあることを知ってるようだ。


「はっはっはっは……今の俺にランクなんていう飾りは必要ない!」


 鎧の男――シェダールは犬の牙による裂傷も気にせず犬を無理やり剥がすと、その犬を近くの盗賊に強く投げつけた。

 盗賊の一人が上手く避けられず犬もろとも遠くに吹き飛ばされると、それを合図に盗賊達は一斉にシェダールへと襲い掛かる。


 どういうわけか電灯の照明が落とされたので辺りは真っ暗闇になった。

 私には状況が見えているけどステラは何も見えないと訴えて来た。


 私の目の前に、殴り飛ばされた盗賊と一緒に電灯が近くに飛んできたので拾うと使い方をステラに尋ねてから照明をオンにする。

 そしてシェダールの方を照らし、ステラにも戦いの全貌が見えるようにした。


(動きが速すぎて何が起きてるかよく分かんない)


 ステラは呆れた様子で言った。

 盗賊達の動きはなぜ盗賊をしてるのか分からないほどに洗練されていた。しかしシェダールは勇者と自称するだけあって盗賊達の短剣や長剣などの斬撃を軽々と避けたり、それを指で捕まえたり弾いたりしていく。


 今戦っている全員の動きは冒険者イブリンの速度を越えている。冒険者ランクでいうならB以上、Aは見たことないけどそれに近いのかもしれない。


 これほどの実力があるのになぜ盗賊みたいなことしてるんだ?


 金目の物を欲しているように見えて私の顔を見るのが目的っぽい所を見るに勇者が正体を隠してなんらかの活動をしているんじゃないかとそんな気がした。

 勇者以外のそんなことをしてそうな人達というのが現代の情報に疎い私には思い当たらないのでこれ以上の予想は出来ない。


 とにかく考えてもしょうがない。勇者だというなら関わり過ぎると面倒事を呼び込みそうなのでのんびり見てないでさっさと逃げた方がいいだろう。


 ビュウと私の横から風が走り、先ほど飛ばされた犬が駆け抜けていくのが見えた。

 犬は無傷だったようで再びシェダールへと果敢に立ち向かう。

 盗賊達は蹴散らされ一人、一人と数を減らしていく。犬はなぜかシェダールのみに執着している。


(デシリア、もう用事が済んだなら今のうちにギルドに戻った方がいいんじゃない?)


 私は明りを消し、目立たない様に常識的な普通の速さでこの場から離れることにした。

 ギルドに向かうためにクロエの館の前を通ろうとしたとき館の死角になる所から轟音が響いた。

 シェダール達の戦闘の余波がクロエの館にまで及んでしまったようだ。


 何か固いものがガラガラと崩れ落ちるような音が聞こえた。もしやクロエ達に何かあったのではと嫌な予感がよぎる。

 さっさとギルドへ戻りたいという気持ちもあったけど、クロエ達が怪我をしてたり死んで間もないなら助かる可能性は十分にあるので急いで音の方へ向かった。


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