75 ルイザ達を追いかけるステラ 2
「にゃーにゃー」
兎猫は先導を再開した。邪魔な魔物はいなくなったのでステラの身体強化を解除し先に進む。
兎猫についていくと次は冒険者ギルドでルイザに絡んだ女と男に遭遇した。
男は女を背負っているけど何があったんだろうか。
背負われている割に女は元気そうに男に話しかけている。
(あの二人の名前なんだっけ?)
会話の中に名前が出て来た程度なので忘れてしまった。一応ステラに尋ねてみるけど覚えてたりするのかな?
(たしかゼラルドとアニータだよ、大きい体の男がゼラルドで背が高くて細いモデルみたいな女がアニータ)
おお! ちゃんと覚えていたのね。若いから記憶力がいいのかな?
(モデルってなに?)
(なんて言えばいいんだろ、体が綺麗な人のことだったかな)
鎧などで肌を覆ってる体のどこが綺麗なのかよく分からないけど気にしないことにした。
男の方――ゼラルドはステラに目を合わせると気まずそうに会釈をしてきた。
アニータはこちらへ鋭い目つきで睨むと棘のある声を飛ばしてきた。
「ちょっとそこの子供! いや、お前」
「え、は、はい。なんですか?」
ステラは突然の突き刺すような声に怯んだ。
アニータは背負われてるからこちらに危害を加えて来ることは多分ないだろう。
「……さっきは悪かったわ!」
「はい?」
どういうわけかアニータから威圧的な謝罪の言葉が飛び出した。
たったそれだけを言った後、ギルドの方向へ行こうとした。なぜ背負われているのか気になったのでこちらも呼び止める。まさかあの犬にやられたのだろうか?
「ちょ、ちょっと待って、あの、何があったんですか?」
それについてゼラルドが困惑した顔で答える。
「どう説明すればいいかな、突然白く光ったと思ったら衝撃波が発生したんだ」
先ほど聞こえた雷のような強烈な破裂音のことだろう。
「俺の背中のアニータっていうんだがその時小屋の中にいてな。小屋は衝撃で吹き飛ばされて下敷きになってしまった」
割とピンピンしてるけど運が良かったんだね。
「それでおんぶしてたんだね」
「壊れた小屋の瓦礫に押しつぶされてな、お前の仲間のルイザが魔術で治癒してくれたおかげで背に乗せるほどに回復したんだ」
ギルドであれだけのことをされたのに治してあげたとは信じられない。よほどそうしてあげたくなるようなことでもあったんだろう。不思議なもんだ。
「ルイザちゃんが!? いいなぁ、私も治癒してもら……げふんげふん。でもおんぶしているということは完全には回復してないんだね」
「あ、ああ。見た目は問題ないのに足が動かないみたいでな、ギルドでなら治せるから向かってる途中だ」
結構重傷だね。でもなるほど、ギルドで治せるんだ。
ランク5のルイザが治せてないということはギルドにはそれより高位の魔術士がいるということか。
と、そこまで考えたところでじゃあ私なら治せるのか気になって試してみたくなった。
(ちょっとステラ、アニータの足を治せるか試してみたいからお願いしていい?)
(え、でも治したら私、すごく目立っちゃうんじゃ)
(足に直接手で触れなくてもいいよ。霊体で触れて治してみようと思うからさり気なく近づいてみて)
戸惑いながらもステラはアニータの足を見つめながら近づいて行く。
「な、なによ。ジロジロ見られると恥ずかしいんだけど、私は見世物じゃないんだよ!」
「ご、ごめんなさい。え、えーと、痛くはないですか?」
怒られたからかステラは視線をアニータの顔へ移した。
アニータは戸惑うステラの問いに照れ臭そうに答える。
「ふ、ふんっ。痛みはね、ルイザのお陰でなくなったわ。直接あの子にもお礼を言ったけど、お前からも言っといて。私がありがとうと言ってたって!」
「わ、分かった。言っておくね」
ステラは苦笑いで返した。
二人が会話をしてる間に伸ばした霊体をアニータの足にくっつけ回復魔法を掛けてみた。
魔法を掛けても光が出たりなんてことは無いけど、掛かったかどうかは感覚的に分かる。
よし、これで多分治ったはず。外見からは違いは全くないので後はちゃんと足が動いてるか確認するだけだ。これで治ってれば霊体からでも動かなくなった腕や足も治せることが証明される。
なにかしらの欠損が霊体からでも治せるか確認してみたかったのでちょうど良かった。次は遠隔からの魔法の発動も試してみたいな。
「もう行ってもいいでしょ? お前、ちゃんとルイザに私からのお礼を言うんだよ! 絶対にお願いね!」
「は、はいぃ!」
「ゼラルド、もう行っていいわ」
「ああ、分かった……ってアニータ、お前の足動いてないか?」
「へ? あ、あれ? 動いてる、治ってる? どういうこと?」
アニータは無意識のうちに足を動かしていたみたいで指摘されるまで気づかなかった。
困惑していたけど私が治したことに全く気付く様子はなかった。
(ちゃんと治ったみたいだね。じゃあルイザの所に向かいましょうか)
私の言葉にステラは頭の中で頷くと三毛の兎猫に声を掛け、さっさとルイザ達の所へ向かった。




