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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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74 雷の様な何か 2

 ケミーが指差す方向、小屋があった場所の近くにボロボロの鎧を着た男が立っていた。


「私達よりも爆発の近くにいたでしょうに、よく生きてましたわね」


 ルイザは心配して男に近づこうとするとケミーが気になる言葉を発した。


「そういえばゼラルドさんはどこだろう」


 ルイザは立てる程度に体力があるなら大丈夫だろう、と鎧男を一旦放置し、周囲に視線を走らせゼラルドを探す。

 すると木の瓦礫を必死にどかしている姿が目に入った。


「ゼラルドさんは無事みたいですわね」


「でも何してるんだろう……あ、そういえばアニータって小屋の中にいたんだよね、もしかして……」


 あの瓦礫にアニータが埋まっているのでは、そう思ったケミーは助けるのを手伝うためにゼラルドの所へ向かった。

 ルイザはアニータのことはゼラルドに任せればいいと思い、ふらふらしてる鎧男が心配なのでキディアと共に向かうことにした。

 鎧の男は挙動不審な様子で周囲を見回し、視線を向けているルイザ達に気づいた。


「子供か、近くに町でもあるのか? よし、あいつらに聞くぞ」


 歩き始めるが傷ついた体は思うように動かず、途中でつまづいて転んだ。


「ぐおっ……、魔力が欠乏してなければこんな怪我、さっさと治しているところだ」


「そこのあなた、怪我は大丈夫かしら?」


 ルイザは地面に這いつくばる男を気遣うように声を掛けた。どう見ても満身創痍だから助けを求めらるのだろう、とルイザは構えていたのだが――


「ここはどこだ?」


「……はい?」


 想定外な質問が返って来た。ボロボロの状態で開口一番に尋ねるのが現在地という違和感。

 まず『何が起きたのか』や『助けて欲しい』などを尋ねるのが先では? とルイザは思った。

 そんなことをわざわざ指摘するわけにもいかず、とりあえず相手の疑問に答えることにした。


「ここはレンゼイ村近くの丘ですわ」


 ルイザは村の中心部の方向へ指を差し、男に場所を示した。

 男はその名前に聞き覚えはなかった。そしてお礼を言うことも助けを求めることもなくぶつぶつと独り言を言いながらゆっくりと立ち去っていった。


 ルイザとキディアは何だったんだろうと顔を見合わせ、しばらく後ろ姿を見届ける。


「あ、回復しようと思ってたのに!」


 ルイザはそう思い、追いかけようとするとゼラルドの所から戻って来たケミーに呼び止められた。


「ルイザちゃん! ゼラルドちゃんが……じゃなかった、ゼラルドがアニータが埋まってる瓦礫をどかすのを手伝って欲しいって言ってるんだけど……お願いできる? 私じゃ全然力が足りなくて」


 ルイザはアニータに酷くいじめられたことを思い出し、あんな奴、一度死んでしまえばいいと一瞬思った。しかしそう考えてしまった事に嫌悪し、嫌々ながらも引き受けることにした。


 ルイザはゼラルドの元へ駆け寄った。キディアとケミーは作業の邪魔にしかならないので傍で見守る。


「ゼラルドさん手伝いますわ」


「本当は嫌だとは思うが、すまない」


「ええ、嫌ですわ。でも嫌だからと他人が苦しむのを喜ぶような心の狭い人になりたくありませんもの」


 ルイザとゼラルドは瓦礫を除去する順番を気にしながらテキパキとどかしていく。

 何も考えずに動かせば崩れる可能性があり、中にいるかもしれないアニータを潰してしまうかもしれないからだ。


「度々迷惑ばかり掛けてすまないな」


 身体強化と魔術を駆使して瓦礫を退かしていくルイザにゼラルドはまたも謝った。


「あなたはまともそうですし、今後アニータさんから余計な事をされないように恩を売っておいた方が良いと判断しただけですわ」


 そういう理由もあるが特別な理由はなくても助けたいとも思っていた。

 それに嫌な相手に助けられて悔しがるアニータの姿が見られるかもという期待もあった。この女はきっと感謝なんかしないだろう、ルイザはそんな確信があった。


「色々悪かったな、だが理由なんてどうでもいい。アニータが無事ならいいんだ」

 

「ゼラルドさんはなんであんな性格の悪い女と一緒にチームを組んでるのかしら?」


 アニータの悪口も混ぜた質問をすると瓦礫の中から不機嫌な女の声が聞こえてきた。


「だ、誰が性格が悪い痛ぁっ!!! ひぃぃぃいいい……もう痛いのは嫌ぁ、早く助けてぇ……」


 アニータの声だった。最初の一瞬だけ元気はあったがすぐに弱弱しい情けない声になった。


「アニータ! 待ってろすぐ助ける!」


 ゼラルドとルイザが慎重かつ迅速に瓦礫をどかしていくとアニータの一部が見え始める。

 全ての瓦礫をどかし終えると彼女の全貌が明らかになった。

 幸いにも足以外は無事だったため、すぐに命に関わることはないようだ。


「アニータ、無事か!」


「無事じゃないわよ、痛いし力が入らないから動けないわ」


 アニータは仰向けのまま不満げに助けを求めた。

 ゼラルドがアニータの足に目を向けるとあまりのひどさに眉を寄せる。


 その足は潰れておりどう見ても自力で動かせるようには見えなかった。

 ゼラルドは回復魔術を掛けるが軽い切り傷や打撲程度しか治せないランク3の低級魔術では効果がなかった。


(これはギルドに運ぶしかないな)


 冒険者ギルドは条件さえ満たせば冒険者ならどんな怪我も、死人さえも治してくれる。

 だからゼラルドはアニータを連れて行こうと考えた。しかし抱えて運べばあまりの痛みにアニータが耐え切れないのは明白だった。痛み止めの薬も今は持っていない。

 一旦ここにアニータを置いて痛み止めを持って戻ってくるかギルドから職員を連れて来るか、と迷ってるとルイザが申し出た。


「ゼラルドさん、私が回復魔術を掛けてみますわ」


 屈んでるゼラルドにどくように告げるとゼラルドはわざわざ手伝ってくれたのだから悪い事はしないだろうと信頼し、後ろに下がった。


 ルイザはアニータの前に立つと冷めた顔で憐れむように見下ろした。

冒険者ギルドは冒険者限定で蘇生してくれます。死者蘇生の条件の1つは遺体の有無です。証言では動きません。人が来ない場所で死ぬと本当に終わります。

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