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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
135/281

74 雷の様な何か 1

 * * * * *


「ちょっと待ってくれ、話しがある」


 ルイザ達3人は外に出た直後、ゼラルドに呼び止められた。

 ケミーはみんなを守るように前に立ちふさがる。


「近づかないで、みんな怖がってるから」


 ケミーが強気で言うとゼラルドは足を止めた。


「さっきはすまなかった」


 ゼラルドは謝罪の言葉を言うと長方形の四角い封筒を取りだす。

 そしてみんなが見てる前で紙のお金を入れ始めた。


「こんな方法しか俺には出来ない。これで許してくれ」


 ゼラルドは3人に視線を動かし、それを受け取ってくれそうなケミーに照準を合わせ、膨れた封筒をケミーに差し出した。


 ケミーはルイザとキディアの反応を見るとルイザは顔を横に振った。


「私はいらないのですわ、ケミーが欲しいなら私の分はあげますわ」


 ルイザは今日の事を思い出すような要素を残したくないために拒否した。

 キディアは困惑した顔で視線はキョロキョロとしており、どう答えればいいか分からず迷っている。

 ケミーはキディアを見て密猟おばさんの時のことを思い出す。


(このまま黙って受け取ったら誤解されたままになるよね……)


 お金は欲しいがお金のために動いたとキディアに勘違いされたままではいたくない。

 だからケミーはゼラルドに顔を向けてこう告げる。


「悪い事をしたならそれ相応の罰を受けるべきだと思います。ギルドにさっきのことは報告します」


「それをされたら困るからこんな手段を取っているんだ。それにどうやって被害を証明する? ここには俺達以外に目撃者がいないんだぞ」


 そう言われてしまえばケミーには成す術もない。またも密猟おばさんの時と似たような状況になった。

 今回は悪事の証拠が無い。

 お金を受け取って見逃すか、受け取らずに見逃すか。ケミーに選べるのは2択だけ。


 ケミーは前に出てキディアのことを頭に浮かべながら、ゆっくりと封筒を受け取る。

 今回はステラの介入がない自分の意思での決定。

 お金は欲しいがお金のためではない。


(相手にだけ得があるのだけは許せないよ……)


 ケミーは封筒に向けていた視線をゼラルドの顔に移すと迷いのある複雑な表情が視界に映った。


「俺が言うべきじゃないことかもしれないが、もし別の人とトラブルを起こした時は穏便に済ますようにしろ。あいつ……アニータは俺が見張っているからこの程度で済んでるが、他の人に絡まれればもっと酷い事になること可能性は高いだろう」


「相手が悪くても黙って見逃がせってい――」


 ガンガンガン!!


 突然小屋の方から何かを叩く固い音がケミーの発言を遮る。

 その音にビクっとしたキディアはアニータが暴れたのだと思い緊張が走る。


「何やってんだあいつは……ああ、すまん。何か言ってたな」


 ゼラルドはケミーに続きを促す。


「相手が悪くても黙って見逃がせって言うの?」


「そうとは言わないが、煽り過ぎたりやり過ぎたりはしないようにな」


 次にゼラルドはルイザに視線を合わせる。


「ルイザと言ったか? 君は何歳なんだ」


「……12歳ですわ」


 ルイザは質問の意味を深読みしてから答えた。


「12歳……」


 ゼラルドは復唱する。いくら優秀な12歳だとしてもアニータに一方的な、ど素人な殴り合いで勝てたことが理解を越えていた。


(いくらアニータが貧弱とはいえ12歳で無傷で圧倒できるほどの身体強化か……もしや噂で聞いた勇者候補生とかいうヤツか? いや、だとしたらあんな素人丸出しではなく洗練された戦い方をするはずだ)


 勇者候補生は全てにおいて優れているという噂を聞いたことがあった。目の前の少女からはそれが感じられなかった。


(魔術士ギルド出身の可能性が高そうだな。だが12歳でこれほどまでに強くなれるのものなのか?)


 気になったゼラルドはそれを知るために尋ねる。


「君は魔術士か?」


 続けて尋ねようとするとケミーが間に割り込む。


「もう終わって貰っていいですか?」


 ケミーはルイザのためにもさっさとこの場から去りたいと思っていた。

 ゼラルドは仲間のアニータが迷惑をかけてしまった以上は誠意をみせるために潔く引き下がるしかない。


「それもそうだな。引き留めて悪かった。もう用は済んだからこれで失礼する」


 ゼラルドは背を向けるとケミー達から離れていった。そして小屋へ戻る途中、一瞬白い光が視界を埋めた。

 その場の全員がそれが何なのかを考えるよりも早く、雷のような鋭い音と強烈な衝撃波がその場の全てに襲い掛かり、ルイザ達とゼラルド、小屋、周囲の木々や草が吹き飛ばされた。

 悲鳴を上げる余裕すら与えられず成す術もなく地面を転がり体を打ち付ける。


「痛たたたっ」


 草むらに横たわったルイザは転がるときに出来た小さな打撲を魔術を使って回復し、何が起こったのかと半身を起こし周囲を見渡す。

 アニータ達のいた小屋は周囲の草も吹き飛びむき出しの基礎だけとなっていた。少し離れた場所には木材が瓦礫となって散乱し、雑に重なっていた。


(何が起きたの? あの瓦礫は……もしかしてアニータは圧し潰されてしまったの……?)


 嫌な相手であっても身の心配をしてしまうが途中からケミー達のことを思い出しそこに意識が向いた。今ので何かあったかもと不安が胸を締め付ける。

 ふと足に何か感触があり目を向けると裏側になった冒険者証が乗っていた。


 誰の物かは確認せずポケットに仕舞う。位置的にゼラルドのものがここに飛んできた可能性はないため直感的に自分の物だと判断した。


 そしてケミー達を見つけるために視線を走らせると少し離れた場所で横たわり動かないケミーとキディアがいた。


「ケミー! キディア!」


 必死な思いで呼びかけながら近づく。程なくしてそれに反応するように二人がゆっくりと起き上がったのを見てホッと息を吐いた。


「いたたたた、ルイザちゃんは無事みたいだね」


「ケ、ケミー、ルイザちゃん、二人とも大丈夫だった?」


 ケミーは軽い調子、キディアはいつものオドオドとした態度を取った。


「私は平気ですわ。二人とも痛みはないかしら? 治してあげますわ」


 ルイザは二人が痛みを感じてる部分に魔術を掛けていく。


「ありがとう、ルイザちゃん」


「あ、ありがとう。迷惑ばかり掛けてごめんなさい」


 二人がお礼の言葉を伝えるとルイザはようやく緊張の糸が切れた。

 安心したのも束の間、ケミーが何かを見つけた。


「ねぇルイザちゃん、あれなんだろう。さっきまであんな人いなかったよね?」


 ケミーが指差す方向、小屋があった場所の近くにボロボロの鎧を着たゼラルドではない男が立っていた。

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