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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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70 クソの周りにいたからじゃあアレはハエね 1

「やっと見つけたわ、ってなんであんなにいっぱいいるのよ。気持ち悪い」


 小さな森の外側に建てられている小屋。

 その小屋を囲う鉄の柵にはスライムが何かを求めてうごめいている。


「「「まろぉぉぉ」」」


 3重4重にも重なるスライムの弱々しい間抜けな鳴き声、それは少し離れてるアニータの耳にも届いた。

 怒りが収まった今の彼女にはスライムを倒そうという気持ちはあんまりない。


「まぁいいわ。魔石を集めればゼラルドも喜ぶはず」


 怒り以外の感情に従いスライムを倒すことにした。

 物音に気づいた何匹かは焦点の合わない目でアニータの姿を認識すると跳ねながら彼女に近づいていく。


「わざわざやられに来るなんて助かるわ。悪いけど魔石を寄越しなさい!」


 ちょうどいい間合いに来たスライム目掛けて両手で握った剣を思い切り振り下ろす。


 しかし当たった角度が悪く、剣はスライムを裂くことが出来ず弾かれる。

 彼女は体勢を崩しスライムの方へ倒れ込むが、弾力のあるスライムに体も弾かれて地面に転がった。


「いたたたたた、何なのよ! 弱いくせに大人しくやられなさいよ!」


 と、よろめきながら立ち上がり、すぐさま剣を高く上げた所で一旦冷静になる。


 アニータは自身の周囲を回り始めるスライムを見て思い出した。


「そうよ、こいつら危険も何も無い雑魚なんだから手で押さえてから斬れば良かったんだわ」


 冷静になれたことで事は上手く運び出す。

 その後は順調に小屋周辺のスライムを狩り、大量の魔石を鞄に詰め込み、肩にベルトを斜めに掛けて鞄を背負う。

 重さで片側に重心が寄った体は少し斜めになったがそれは仕方がないと諦める。

 そろそろゼラルドも戻ってるだろうと思い、来た道を引き返そうとするが――


「ちょっと魔石を集め過ぎたわね、どうしよう。捨てるわけにも行かないし、というかなんで身体強化してもこんなに重いのよ!」


 あまりに重く、動くのが辛いために不満を漏らす。

 衝動的に鞄を地面に叩きつけようとするが力が足りず、ほぼ自由落下で落ちた。

 魔石は頑丈なためこの程度では割れない。


 並のランクD冒険者なら女であっても彼女みたいにこの程度でキツイということにはならない。

 ランクDまで行くような人は魔術士ランク3程度の身体強化も扱える上にある程度は体を鍛えてるのだがアニータはどちらも出来ていなかった。

 アニータのようにやる気のない人は精々ランクE止まりなのだ。つまり彼女は本来ならEランクに位置する存在であった。


「あー面倒臭いわぁ、……あれは?」


 アニータの視界が捉えたのは黒づくめの少女の仲間の一人。

 黒づくめの少女本人ではないが関係している人物のためボコボコにやられた屈辱を想起そうきさせる。


 何をしているのかと行動を観察してみれば、どうもスライムを倒して魔石を回収している。

 それに対してアニータは激怒した。


「ふざけんなよ、私達の取り分が減っちゃうじゃない! さすがクソ猫(ルイザ)の仲間だわ、強欲ね! クソの周りにいたからじゃあアレはハエね、ハエ猫! ってこいつも猫耳じゃないの。余計に腹が立ってきたわ!」


 魔石の回収をしているのはケミーだった。

 だがその名前をアニータは知らない。


 そんな彼女は魔石を集めているということはあの子も冒険者だろう、と思った。

 

「って確かあのクソ猫、自分以外は冒険者じゃないって言ってたじゃない。やっぱり嘘だったのね!」


 嘘を吐かれた――嘘ではないのだが――事に腹が立ち、怒りをぶつけるために少女の仲間――ケミーに近づこうと動き始める。

 しかし大量の魔石をそこまで持って行くのは体力的にきつい。


「ああああああ! なんで重いんだよ! 軽くなれ、このこの!」


 地面に置いた膨れた鞄を力いっぱい大振りで蹴り始めるが狙いが荒く、ことごとく外した。

 いくつか蹴りは入るがそれで汚れてしまった鞄を見て冷静になる。


「あぁ鞄が汚れちゃったじゃないの、私の馬鹿! って誰が馬鹿よ!」


 他人どころか自分に対しても軽々と汚い言葉を出してしまうが、馬鹿であることを認めたくないためにすぐさま否定する。


「そうだわ、ハエ猫に運ぶのを手伝わせればいいのよ」


 アニータは閃くと、鞄の中の半分の魔石を草の生えてない乾いた土がむき出しの所に雑に放り投げる。

 それは捨ててるわけじゃなく、後でちゃんと回収するものだ。


 重さが半分程になった鞄を背負うとアニータでも楽に持てるようになった。


「すぐ戻るから大丈夫よね」


 魔石を放置すると魔物やキメラがそれを食べに来ることがある。

 そのことを一瞬気にするが迷っていては次の行動に移せない。


 アニータは迷いを振り切ると軽くなった鞄を背負いながらケミーの元へと早足で向かう。

 ケミーの近くまで行くと近距離であるにも拘わらず疲れ、足取りは重くなっていた。


(ちょっと、休憩しようかな……)


 アニータは傍目はためには威嚇してるかのような形相でケミーを見据えた。

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