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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
2章 才色兼備の猫人魔術士
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69 アニータ 2

「そんなに悔しいなら魔術士ランクを上げた方がいいんじゃないか? あんまり言いたくはないが冒険者ランクDなのにまだ魔術士ランク1ってのも流石にまずいぞ」


 悔しがるアニータにゼラルドは忠告した。


「わ、分かってるわ! 次からは筋トレも魔術の勉強もするから!」


 アニータはいつもその場しのぎにそう言うのだが結局は面倒臭いからと後回しにする。

 しかしゼラルドはそんなアニータに厳しくは言わないし見捨てようともしない。


 なぜか? それは二人が姪と叔父という血の繋がりのある関係だからだ。

 それに加えてアニータは幼少の頃からゼラルドにだけは懐いていた。


 アニータが冒険者になった経緯だが、まず性格に難があり家を追い出された所から始まる。


 冒険者が危険な仕事だと分かっていた彼女は冒険者以外のいわゆる普通の仕事に就いた。

 だがほとんどの仕事が彼女の性格が災いし長く続けることは出来なかった。


 アニータに泣き付かれたゼラルドは所属していた冒険者チームを抜け出して新しくアニータと二人だけのチームを作った。


 最初は冒険者になることを嫌がっていたアニータだが一人で活動するよりは、と思い彼女なりの奮起で頑張った。


 お互いの年齢差は10以上あり、血の繋がり補正なんてものでもあるのかゼラルドはそんなアニータがとても可愛く見えた。


 だから見捨てることが出来ず、どうにかして自立させようと今は耐えている。

 小さな進展は見えるが、先が見通せず不安は大きい。


「アニータ、俺はちょっと外に出る」


「何しに行くの?」


「ちょっとトイレに行きながらついでに魔石でも集めて来る。すぐに戻る」


 アニータの将来の事を考えるとそれだけでどっと疲れが出たため、気分転換に外の空気を吸いに行くことにした。


 アニータは家に置いてかれる飼い犬の様に寂しそうにゼラルドの姿を見送った。


 しばらくすると一人残されたアニータのあざがまたうずきだす。


(ああ、また少しだけ痛くなってきた。でも大丈夫なくらいには治ったし、もう平気だわ)


 ゼラルドに感謝をしつつ痣をさすると軽くて鈍い痛みが走る。


 軽いとはいえつい回復魔術の使えるゼラルドの姿を探してしまう。


 しかし大分回復してるのでもう不安に思う必要は無い。


(なんで私がこんな痛い思いしないといけないの)


 アニータは苛立ちから石畳の床を踵で2、3度強く叩く。


(なんで私が冒険者なんかやらないといけないの!)


 立ち上がると腰かけていた木箱をつま先で強く蹴る、とは言っても彼女は碌に鍛えていないため弱々しい音が小屋の中に響く。


 ゼラルドの姿がないからか感情の自制が出来ず、過去の辛い事を思い出し、息が荒々しくなる。


「はぁーはぁー、あぁっクソ!!」


 落ちてたクシャクシャの紙コップを拾うと怒りを込め、壁に向けて思い切り投げつける。

 しかし狙った通りには行かず、地面を跳ねた後に壁にぶつかった。


(どいつもこいつも、私の何が悪いってのよ……)


 今日出会った黒づくめの猫耳少女の顔を思い返す。

 続いて少女の周囲にいた3人の子供がぼんやりと脳裏に映し出される。


(あの3人はなに? なんのためにいた? 友達か? 私も冒険者の友達が欲しい!)


 学校を卒業し仕事を始めてからは友達と疎遠になった。冒険者になってからは1度も会えていない。


(悔しい。私には無い物をたくさん持ってる猫人の少女がムカつく)


 アニータはルイザのことはよく知らないが、恐らくそうだろうと想像し嫉妬心を募らせる。


(友達がいることにムカつく、整った顔がムカつく、喋り方が、声が、喧嘩で負けたことが、あああああぁぁぁぁぁ憎たらしい!! 私の何が気に入らないって言うんだ、みんな死ね! 爆発しろ!)


 イライラで考えがまとまらない。そしてアニータの感情が爆発する。


「ぁぁぁぁーっ、クソ!」


 破壊衝動を抑えきれずに小屋の木壁を殴る。冒険者なのに碌に鍛えてない彼女の拳では木壁に傷一つ付かない。

 彼女の脆い拳は炎上したかのように痛みだす。


「ぁぁぁぁ、いっったぁぁー……」


 思考が痛みに集中し、一時的に感情が抑えられる。

 痛みを無視できるほどの忍耐が彼女には無い。


 黒づくめの少女との殴り合い、あれが男なら子供とは言っても腕力の差で負けたと諦めも付くのだが、あの外見はどう見ても女だ。


 取り巻きは全員女だったのだからその少女一人だけが男というのはないだろう。

 あんな美少女が男なわけがない。


 悔しさが積み重なりよく分からない感覚がアニータの全身を駆け巡る。


 彼女は衝動的に小屋から出てスライムを探し始めた。


 猫人の少女にぶつけられない怒りをスライムへぶつけようと考えたからだ。


 だがこの小屋周辺にはスライムは少なく、しかもその姿を隠すかのように草は高く伸びている。


「出てこい! いるんでしょスライム!」


 スライムは音などに反応して声を出すことがあるため彼女は呼びかけた。


 しかし返事は無い。


 さらにイライラが増していくアニータ。

 腰に差した剣を握り、無造作に振り回して草を切り刻みながら探し回る。


(なんでいないのよ! なんで欲しい時にはいないの?!)


 そう思った時、野兎のうさぎの姿が目に入った。

 野兎は目が合う前からじーっとアニータの姿を見つめていた。


 馬鹿にされたような気がした彼女は石を投げるが相手は避ける素振りも見せない。

 なぜなら石は明後日の方向に飛んで行ったからだ。


(なんで動物相手にキレてるのよ私。落ち着け、兎ごときに熱くなるな)


 スーハ―と深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。


(そういえばゼラルドが言ってたわね。魔道具でスライムをおびき寄せてる小屋が他の所にあるって。そこに行けばいいんだわ!)


 澄んだ空気を取り込み頭が冴えた彼女はそんな単純な事にようやく気付いた。


 周囲を見渡し、森を後ろに背負った小屋を遠くに見つけるとそこへ歩き出す。


 進むにつれ大量のスライムが柵を囲んでいる光景が目に入るが、その頃にはぶつけようとしてた怒りは収まっていた。

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